改訂 桜は本当に美しいのか (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社 (2017年3月10日発売)
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感想 : 5

桜の夢を見た。
まだ蕾の桜が一斉に花開き、枝を右から左に花をむさぼり食べる夢である。
左側の食べられなかった部分の蕾も開花していく。
花の色は染井吉野にしては濃かったが山桜や垂れ桜ほどてはなく、大変好みの美しい桜ピンク色だった。

桜の花を題材としたエッセイでは、小学校の教科書に載っていた工藤直子のエッセイを今だ覚えている。
南国から来た作者は、日本の桜の色が薄いという。青白いという。
私の生まれた地の桜は、白くうっすらと青白くさえあるかもしれない。
薄紅色というには紅どころでなく、どうにか花びらの芯に赤みを残している程度である。
しかも咲くのは運動会の練習の頃だ。
とうに卒業式も入学式も終わっている。
春の変わりやすい曇天に飲み込まれてしまいそうな灰桜色だ。
これが、進学で南下した際に見た桜は、なんとも見事な桜色だった。
日光の強さでこんなにも色が違うのかと思った。
しかも、入学式の頃に咲いてくれる。
ああ、これが桜の色なのだと思った。
到底工藤直子氏が見て育った南国の桜の紅には叶うまいが、春の青空に映える美しい桜色だと思った。
花の色は南の方が色濃く鮮やかだ。さながら楽園のように感じたものだ。

そんな思いを持って本書を手に取った。
本書は万葉の時代の和歌から、現代の桜ソングまで一気に時代を駆けてくる。
万葉の和歌は、読み解くのに時間がかかるが、作者とは違う解釈をしてることもあり、視点や思いの違いが面白い。
清少納言や紫式部の話を読んでいると、作者がどんな人なのかかいまみえてくる。
奈良・平安の頃は花といえば梅であり、桜はその色の薄さから君の悪いものと思われていた等と習った気がしたのだが、この本を読んでいると桜も梅に比肩する和歌の題材としての花として取り上げられている。
梅については和泉式部の話で取り上げられていた。
個人的に読みやすかったのは、西行や能の話の辺りである。
そこから小林秀雄滅多切り(そんなつもりはないかもしれないが(笑))とツッコミが厳しさを増してくる。
そして、桜が軍国主義の潔く散れという話と絡めて現代の桜ソング興隆を紐解く。

どうも作者の意向が強く出ていて公平性やら研究やなんやらが……と気になった場合は、先にあとがきを読んでから取りかかった方がいい。
この本のコンセプトがわかれば、彼女の思いとしてこの本を読んでいくことができる。
……そうなのだ、何度か奥付けで確かめたが、この文章の書き手は女性なのだ。
骨太というわけではないが、もちろん繊細な芸術家肌の文章なのだが、私はどうしても地の文が男性の声で読まさっていた。
分析の内容や政治への思いまで触れているところからしては、確固たる意志と力と思いに溢れて書かれたものなのだろう。
三島の話辺りで自分を形容している部分があるが、なるほど、とついうっかり納得してしまった。

歌人として燃えるような思いをもつ女性の手記として読むのもよいかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2018年1月8日
読了日 : 2018年1月8日
本棚登録日 : 2017年9月8日

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