天の夕顔 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.38
  • (14)
  • (30)
  • (62)
  • (9)
  • (2)
本棚登録 : 398
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101090016

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大学生の‹わたくし›が生涯をかけた運命の相手は、夫と子どものいる七つ歳上の‹あの人›だった。
    ‹あの人›を愛してからの二十三年間。
    会って言葉を交わしたことは数えるほど。たったの一度、唇をふれあっただけの恋は純真を貫くストイックなものだった。

    この作品は、昭和十三年に発表され、たちまちに当時の青年子女の間を風靡したそうだ。以来大東亜戦争中から戦後にわたって、約四十五万部出版、更には英、米、仏など6カ国語に翻訳される。

    人妻である‹あの人›の思い込みから始まったような‹わたくし›に対する愛情に、「恋愛の気持ちはなかった」とはっきり告げる‹わたくし›だった。けれど、いざ別れを告げられると‹あの人›に対する熱情が高まるばかりに。
    恋のはじまりは‹あの人›がきっかけだったものの、私はこのストイックな恋愛は‹わたくし›が主導権を握っているものとばかり思ってた。ところがいつ頃からか‹わたくし›は‹あの人›の一挙手一投足に振り回されてるんじゃないかと思えてきたのだ。もし、この作品が‹あの人›目線で描かれたものだったら、ちょっと女性の恋愛に対する身勝手さ?みたいなものが邪魔をして、ここまで貫く愛の形にならなかったんじゃないかな。

    永井荷風、与謝野晶子は、‹わたくし›が種々の武芸にさえ通じた、剣道にもよほど秀れた腕があるらしいと、よろこんでいたそうだ。
    背も高く頑丈な体格で文武両道。軍人のような規律と厳重さとの好む青年(わたし的には面貌は魅力的に違いない)だ。
    そんな‹わたくし›が「抱いて、抱いて」「抱いてほしいんだけど」と‹あの人›に甘えるような場面が出てくるのだ。え、ちょっと待って、待ってくださいっ、これは反則じゃない?なんて一人うろたえる私。
    だって、彼は「恋愛の気持ちはなかった」と‹あの人›に面と向かって言ったんだよ。‹あの人›が大切にしてた自分からの手紙全てを、彼女の面前で狂暴な心持ちでびりびりに引き裂いたんだよ。強気で容貌もよくて性格もストイックな青年だよ。
    そんな青年が甘えちゃうのだから。これは、母性本能くすぐられる女性もいるんじゃないの〰️。
    この時の青年が切なさいっぱいだったのは分かる。その切なさが、なぜもっと強引な感じで「抱きたい」とか「抱いてやる」とかじゃなくて、この言動になったのか。
    ごめんなさい。内容にはあまり関係ないのだけど、とても気になってしまった。この男心、誰か教えてくださ~い。
    ‹わたくし›が段々と‹あの人›への抑えられない想いに愁い悩んでいく姿。ここまで自分を孤独へと追い込むんだ……と言葉を失った衝撃的な行動に、私は不謹慎だけど狂おしいほどの美しさを感じてぞくぞくしてしまった。
    恋愛小説が苦手だからか、もしかして変な読み方してるか、私。

    ついにストイックな想いの果てに‹わたくし›は‹あの人›を神とする境地までに達することとなる。
    神格化された‹あの人›との精神の繋がり。
    そこには人の妻という立場や年齢や老いなどの見た目、そして会えない時間という概念さえ、何の障害にもならなくなったのではないか。
    神として思い憧れる女性。それが‹わたくし›の生涯を賭けた夢、生まれてきたことの意味へと繋がるのだろう。

    この恋は決して終わらない。
    たとえ死が二人を分かつとも。

    • 地球っこさん
      nejidonさん
      とっても楽しい時間でした(*^^*)
      でも眠れないなんてどうしましょう〰️
      私は思いの丈を全部nejidonさんに...
      nejidonさん
      とっても楽しい時間でした(*^^*)
      でも眠れないなんてどうしましょう〰️
      私は思いの丈を全部nejidonさんに
      ぶつけちゃったので、今夜は楽しい夢が
      見られそうです 笑
      2020/01/14
    • 沙都さん
      地球っこさん、こんばんは。またまた失礼します。

      いつの間にか、すごい展開になってますね(笑)でも、それだけ楽しんでいただけたなら、自分...
      地球っこさん、こんばんは。またまた失礼します。

      いつの間にか、すごい展開になってますね(笑)でも、それだけ楽しんでいただけたなら、自分のコメントも浮かばれるなあ、と思っています。

      痴人の愛は自分も高校時代に読んだことがあります。当時は「正直よく分からないよね」みたいなレビューを書いた記憶がありますが、今はだいぶ感覚が変わってきていて、いずれ再読したいなあ、と思っていました。いい機会なので、次に実家に戻ったら持って帰って再読してみようと思います。

      それにしても、地球っこさんとnejidonさん。お二人の大人な女性からこんなふうに褒められると、うれしいやらありがたいやら恥ずかしいやらで、なんだかわけの分からない感情になってしまいますね……

      最初のコメントを考えているときも、お二人のやりとりを読んでいる時も、非情に楽しかったです。確かに読書会の雰囲気ってこんな感じなのかもしれませんね。楽しい時間をありがとうございました。
      2020/01/14
    • 地球っこさん
      とし長さん、おはようございます。
      昨日は騒々しくコメントしてしまい、失礼しました。
      一晩寝たら落ち着きました 笑
      ありがとうございまし...
      とし長さん、おはようございます。
      昨日は騒々しくコメントしてしまい、失礼しました。
      一晩寝たら落ち着きました 笑
      ありがとうございました(*^^*)
      2020/01/15
  • このような小説がいまだに読み継がれていくことの不可思議さは、ストイックな愛が現在に似合わないということではない。このような生き方が理解できるかということではなかろううか。2019.10.25

  • ストイックな恋愛。心通じ合い側にいたい思いがありながらも女には夫があり結ばれる事はない。女は何に義理立てているのだろうか。今なら主人公に経済力があるなら、彼を信じて付いて行くこともできようものを。この小説の時代がそれをさせないのか。ここまで思われ続けるのは添い遂げなくとも女冥利に尽きるものだ。

  • ・書き出し:信じがたいと思われるでしょう。信じるとうことが現代人にとっていかに困難なことかということは、わたしもよく知っています。
    ・末尾:しかし、それが消えた時、わたくしは天にいるあの人が、それを摘み取ったのだと考えて、今はそれをさえ自分の喜びとするのです。

    ・手に取ったきっかけ:都内の古本屋をめぐっていると、薄茶の表紙(カバー無し)にさらに薄っすらとタイトルが刻まれたいて、セピアの帯が綺麗なのと、どこか『銀の匙』のようなタイトルの潔癖さを感じ購入。以降、約一年ほどの積読を経て読了。

    【あらすじ】
     わたくし(竜口・たつのくち)は大学在学中に下宿の女主人が死んだことをきっかけに、その娘の「あの人(あき子)」に出会う。わたくしとの本の貸し借り、文通などの交友を、彼女は交際と思い込んでおり、妻であり母親であることの立場を危ぶんだ彼女から彼は別れを切り出される。この一方的な告白に彼は彼女を意識するようになるも逢わないことを決めてふたりは別れる。

     二年後わくしの父の死を悼んで彼女から届いた手紙をきっかけに交際が再会。肉体関係を持ち愛を深める。そんな折、二回目の拒絶の手紙を受け取る。

     大学卒業と共に沼津の連隊に入営。兵役を済ませてからは、富士山麓の天体観測所で働き始める彼。そこで、下宿の近所の娘と交際を始める。娘の家族に結婚を迫られ、彼女に相談をしに行くと、結婚を勧められ、再び愛の拒絶に会う。

     彼は彼女の勧めに従って娘と結婚する。看病など2年を過ごして離婚。東京へ転勤。電車で偶然彼女と再会するが、口論別れに。彼女の子の学校をつてに住所を割り出し彼女の家を尋ねる彼。そこで4度目の拒絶を受ける。

     失意のなかで、彼は仕事を止め、二年間テント生活をすると、飛騨の山で小屋暮らしを始める。冬を越し下山し彼女に会いに行くと、今度は打ち解けて5年待ってくれと彼女の言うことを聞き、再び、山小屋へ戻る。下山し、使い果たした金は剣道の指南をしながら稼ぎ暮らし彼女との約束の時を待つ。
     約束の前日。彼女から手紙が届き、死を知らされる。

    【感想】
     とにかく最初の印象がべたべたの恋愛、それも男主体の(男主体の純粋な恋愛の話って、なんだか気持ち悪く感じてしまうのはなんでなんだろう)つらつらくどくどとしたもので、拒否反応を抑えつつ読み進める。

     主要なふたりは、働かなくても食うには困らないブルジョワ、その庇護を受ける人、ということで始末の悪いというか、相当な暇を持て余している背景が見えてきて、そもそも誰かの夢中は他人から暇と見られるものなのだけど、類は友を呼ぶといった感じで、暇な学生と暇な人妻が出会う、と書いたらあまりにも通俗すぎるかしら。

     歳の差と、ほど良い(1・2時間で会える)遠距離、身長の差、人妻という、恋愛の燃焼率を高める幾つかの要素をクリアしてふたりは燃え上っていく。
     
     添い遂げられないことが、結果的には、こうした皮肉な感想を持つ読者にとって納得のラストになるのだけど、本書を最後まで読み通す要因になった部分は“孤独”について言及があったからだと思う。
     
     主人公は再三、女ごころという免罪符にもてあそばれた末に、隠居生活を始める。テントで二年。極寒の山小屋で三年。恋愛という超現実から、さらに大自然という超現実に跳躍する中盤からラストにかけてに引き込まれる。薪を作り、雪を掻き、狩りをする。そんな、デスクにつき、デジタルの情報を入力・出力、画面の向こう側の仮想世界に絶えず視線を注いでいる都会・現代人からすれば幻想的な日常と、恋愛下のわたしたちが陥る超幻想生活はよく似ていると気づいてしまった。旧石器時代に恋愛に似た概念があったかどうかは知らない。けど、狩る・食う・寝る・セックスの内、狩る(食料の入手)とセックス(生殖行為に纏わる色々)がかなりメタ化されてしまったせいで、ほとんど現実感を伴わない現代の状況に戸惑う。

     この二人にしたって、結婚・人妻という虚構にたっぷりと腰掛けて、恋愛を構築しているのに変わりはないけれど。彼の山籠もりは、降雪に立ち向かいながら、移行していく春の雪解け、鳥虫獣草木花の命の息吹きのなかでの生活。その先にあったのは、きっぱりと俗世のことは忘れるなんてことはなく、猶彼女に恋焦がれる。寧ろ、孤独が強く他者を求め、他者を求める営みこそがわたしたち、ひと、の現実なのではないか。と、しみじみ考え、恋愛も結婚も虚構だけれど、確実な現実に基づいているのだなぁと再び気づく。さらに、現実を生きれば起こりうる、諍いや不和をできるだけ最小限に食い留めるために、虚構がその綻びを結ぶ役割を果たして、現実と虚構とが、社会を作り上げている。
     
     名場面だなぁと感じたのが“「未亡人の再婚は……」「それは認めておりますわ」「じゃ、女の貞操については」「貞操は主観的なものだと思いますけれど」”
     結婚という制度と貞操というモラルをこんなにはっきりと一人の登場人物のなかに共存している。ここに〝あの人〟の美しさを感じた。頭のなかと世間との折り合いが悪いわたしにとっては羨ましい。

     また“わたくしたちはこの地上に生れて来て、愛についての空虚な言葉の幾つかを覚えてしまいます”これも、自由なようでいて、かなり条件化された恋愛市場を生きるわたしたち世代に響く文章じゃないだろうか。愛なんてそもそも言語化できない。けれど、論理の恋愛、論理の結婚を嗜好するわたしたち。定額課金して、スワイプで選択し、オススメを買う恋愛。年齢、年収、身長と条件から選択する結婚。教育費、医療費、食費の統計と両親の生計に対する計算に照らし合わせて、合理的に生まれてくるこどもたちが、合理的に生きて死んでいくタイパとコスパの世界。空虚な言葉どころか空虚な数字まで覚えて、幸福を探し求めて彷徨い生きていくわたしたち。わたしたち人は、恋という最も不合理な営みから生まれくる愛すべきいきものだと思う。

     “この世に生れて来たことの寂しさの中にあって、あの人に逢えたということは、それだけでもわたくしにはありがたく、たとえようのない喜びに思われたのです”

     こんな風に思える人生はどれほど幸せだろう。
     

  • これは純愛…なのか…?一筋縄では行かない恋愛物語。恋愛は色々な形があるけれど、誰かの幸福が誰かを不幸にしている可能性があるのが恋愛なのかもしれない。主人公はずっと1人の女性を思い続けるのだが、煩悶とした感情からは抜けられず、崇高さのある「好き」ではないよなあ…と思った(あの人を神格化していくのも個人的には「うーん」だった)。ただ、これだけ1人の人を想い続けられることはすごいことなのかもしれない。

  • 久しぶりに、昔の文学を読んだなと。
    あぁ、昔の文学者のスキャンダルってこんな思想からだったのかもなぁとか、いやでも、この、なにも見えなくなるような感情には覚えがあるぞ?とか。
    昔もいまも変わらないのかもね…と思っていたら、この話、日本版の若きウェルテルの悩みと称されていたらしく。
    なるほど、確かに。
    あまり面白くはないですがw 文学史的には、読んどくといいかもと思います。

  • 通信手段も情報も何もない時代。
    だからこその純愛。
    正直なところ、ここまではちょっと…と思ってしまうのは、時間の流れ方の違いや時代背景の違いからなんだろうか。
    一途な思いを受け止める度量がないのかも。わたしには。

  • 許されない恋の下で行われる建前と本音
    社会的な立場や体裁の中で翻弄とされる二人が、いよいよ一緒になろうかと決断する段になって、またも運命がいたずらを施す

    見ているこちらがやきもきしてしまうが、永遠に叶わなくなった恋も、気持ちだけは生き続ける
    それを虚しいと取るか、美しいと取るか
    作者はそれを我々に問うている気がした

  • これ、3時間くらいあればすっと読める厚さで近代文学、浪漫主義文学の入門としてもおすすめしたいな、と思う本。
    特に描写が圧倒的に素晴らしいのがp.26p.27の2人の川での様子が描かれた部分。
    好きと書かずして、”わたくし”があき子さんのことを愛おしく思っているのが伝わる圧倒的な文章力。そして一番最後のp.94p.95の結末。
    ”わたくし”をストーカーまがいの気持ち悪い狂人と思う人も多くいると思うけど、あき子さん側にも気持ちがあったとすると、やっぱりこれは浪漫だと言えるのだと思うのです。誰が関与することもできない、圧倒的な精神的た結びつきがあるのだな、と思わずにはいられない。

  • 映画「天使のいる図書館」に出てきたので、読んでみた。『どうなの?』って思いながら読んでいたけど、最後の2行でいきなり込み上げてきて、泣いた。

全55件中 1 - 10件を表示

中河与一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×