無子高齢化 出生数ゼロの恐怖

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000022330

感想・レビュー・書評

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  • ◯これまでの国の子育て施策を総括し、これからの少子化対策をいかにすべきかを語る。
    ◯移民施策、とりわけ近年議論されていた新たな在留資格を導入した場合の社会保障施策に対する検討もされており、新しい。
    ◯とはいえもはや少子化対策は一朝一夕には解決しないものであることが確実であるため、これ以上少子化が進ま無いように、できれば盛り返すためにはどうするかを考え続ける必要がある。

  • なかなか衝撃的なタイトルだが、内容も歯に衣着せぬ表現で、現在の人口問題について分かり易く解説している。育児支援や保育政策が専門の大学教授が、現在の苦境を招いた原因を、政策対応を時代の経過とともに説明しながら、問題点を指摘している。バブル崩壊による経済の低迷と、政府が適切な対策が取られなかったことが致命症になったが、生まれない子供を気に掛けることは難しく、頭ではわかっていながら問題の本質を見ないようにした「無視」が「無子」をもたらしたのだろう。そもそも、どうやって人口減少社会を乗り切るかというビジョンがなく、人口増加をベースにした昭和の考え方をあきらめきれないところに問題の本質があり、微修正で場当たり的なことが繰り返されてきたのだろう。「平成は少子化が加速度的に進んだ時代として記憶されることになる」との著者の指摘は妥当だと思うし、令和はその影響をまともに受ける時代になり、諦めることが多くなると予想する。決して明るい新時代とはならない可能性が高い。この難局を乗り切る著者の提言も披露しているが、政策による実行は難しいだろう。それを理解した上で、個人で対策を講じるしかない。その覚悟を強固にしてくれる本と言える。

  •  少子化のスピードが早いことが気になり、網羅的に少子化の原因を知りたいと思って読んでみた。
    「無子高齢化」という刺激的なタイトルと、著者が横浜副市長を経験しており、自治体の現場を知っていること、女性であることから本書を選択した。
     2018年の刊行なので、平成が終わる時期。映画『万引き家族』が話題になった時期の書籍である。当然、新型コロナ危機は発生していない。コロナ以前の「少子化対策の失敗の歴史」をたどることに成功している良書だ。
     就職氷河期に社会にでた団塊ジュニア世代が、正社員になれなかったことで、生活が不安定になり、少子化が促進したことがデータをもとに詳述されている。本書は、重要な事実を、太ゴチックで印刷しているので、手早く要点を理解することができるのがありがたい。
     私にとって発見だったのは、少子化の解決策としての移民の位置づけだった。

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    実は1992年、旧労働省産業安定局は『外国人労働者受け入れの現状と社会的費用』で、外国人の受け入れのメリット・デメリットを研究している。

    彼らが日本人と同程度の所得を得て働いた場合の納税や社会保険料などの社会的便宜と、同時に生活者として医療や教育を日本人と同じように受け、がいこくじっ向けの通訳サービスや日本語教育などを整備した場合の行政コストの、いわば「入り」と「出」の試算である。

    50万人の外国人労働者を受け入れた場合、単身では「入り」の方が多いが、配偶者が来た場合はコストが便益の倍になる。さらに学齢期の子どもが二人いると,教育費や居住対策費が必要になり、扶養家族が増えるにつれ、税収も下がるため、1年でメリットの4.7倍にあたる約1兆4000億円ものコストが発生するという。
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     日本政府は、外国人の定住移民の増加を拒否している。国民もそれを批判していない。
     
     著者は、少子化対策のために必要な施策を提案しているが、その実現のためには,政治家の決断、そしてそれを支持する高齢者中心の有権者の政治決断が求められる。
     これまでの少子化失敗の歴史をみるかぎり、実現の可能性は低い。
     国内で子どもが増える可能性は低い。
     移民で子どもを増やす政治決断はしない。
      日本の少子化対策はきわめて悲観的、という分析の書である。
    2020年の新型コロナ危機、さらに気象変動による大水害の続発で、国も自治体の予算は枯渇しつつある。
     さらに少子化は進むだろう。著者が指摘するように、それは、子どもがいない=無子、の社会に日本が向かっている。

  • なかなか厳しいタイトルである。本文もタイトルが与える印象そのままに、厳しい現状、見通せない未来を綴る。

    著者は横浜市副市長として行政に携わった経験を持つ。現在は早稲田大学マネジメント創造学部教授。
    但し、そこに至るまでには家庭との両立に苦労もあった。男女雇用機会均等法施行前に就職し、出産退職。子供を保育園に入れられずに駆け回ったこともある。
    一方で、2010年以降、現在まで、多くの学生と接し、彼らを取り巻く厳しさもつぶさに見てきた。

    本書では、多くの統計データを示しつつ、日本が少子を通り越して無子高齢化社会に向かっていることを示す。その結果、(特に就労年齢層の)人口が急速に減少し、現在可能であるようなサービスやセーフティネットが機能しなくなると予測している。
    各章の扉に各セクションの見出しが列挙され、例えば第1章では
    少産多死ニッポン 人口が減ると何が起こる?
      日本は少産多死の国
      毎年500の学校が閉校している
      合計特殊出生率1.44で何が起こるか・・・(後略)
    といった具合。本文中でも強調される部分は太字で示され、著者の言わんとするところは非常にストレートに伝わってくる。
    いささか煽っているように感じなくはないのだが、引用データを見れば、なるほど生産人口が急速に減りつつあるのは間違いないのだろう。

    少子化の要因は
    ・結婚しない人が増えていること
    ・晩婚化が進み、出産年齢も上がっていること
    ・夫婦による出生児数が平均して減少していること
    であると言われる。
    著者は、未婚化が進んでいるのは、非正規雇用者が増えているためであるとしている。低収入が原因で、結婚・出産に踏み切れない人が多いのだ。

    1971年には第二次ベビーブームが起こり、当時はむしろ人口増加による問題が危惧されていた。現在のような出生率低下と高齢化率の増加は予想されていなかった。
    フランスやスウェーデンでは出生率低下を危惧し、子育て支援政策が早いうちから採られていたが、日本では、家庭が福祉の基礎とされて、そうした政策への着手はなかなか進まなかった。縦割り行政により、広い視野で長いスパンの策を打ち出せなかったことも大きい。
    結局のところ、結婚・出産は「自己責任」であり、個人がどうにかするべきだという風潮が続くことになった。

    その後、バブルの崩壊やリーマンショックで、かつてのような新卒者の終身雇用モデルが崩れ出す。だがそうなり始めてからも、「ひきこもり」や「パラサイトシングル」、「ニート」といった言葉で表されるような生き方は、個人の責任であるかのように見なされてきた。それらが、個々人ではどうしようもない、社会構造の問題であったにも関わらず。

    著者は極端な少子化を食い止めるには、婚活支援などより、雇用の安定化や若年層への社会保障の充実が必要だと述べている。
    人口が減っていく中で、今まで通りの公的サービスを続けていくことは困難な部分も出てくるだろう。
    「社畜」のような働き方を見直して、共働きで子供を育てていきやすいように制度を整えることも重要だろう。

    有効な解決策を見出すのは容易なことではない。
    本書でも起死回生の一手が示されるというものではないのだが、問題提起の1冊として読み応えは感じた。

  • はじめに
     どんどん減っていく現役人口/“溶けない氷河”世代を社会に組み戻す

    第1章 少産多死ニッポン 人口が減ると何が起こる?
     日本は少産多死の国/毎年五〇〇の学校が閉校している/合計特殊出生率一・四四で何が起こるか/問題は生産年齢人口 一・四人の現役で一人の高齢者を支える日/サービスもセーフティネットも成立しなくなる/もうミカンは食べられない?/水道事業は維持できるか/九〇歳はめでたくない? いまや約二一九万人/高齢者四割社会は未体験ゾーン/すでに地方では急速な人口減少が始まっている/生産年齢人口は激減していく/二〇四〇年,三人に一人が七五歳以上になる秋田県/出生数ゼロ地域の出現/無子高齢化は「今ここにある危機」

    第2章 なぜこんなにも少子化が進むのか
     なぜ少子化が進んでいるのか──直接的な三つの要因/分水嶺は団塊ジュニアの未婚化/一生結婚しない人たち 生涯未婚率の上昇/晩婚化・晩産化はどんどん進む/ワンオペ育児とダブルケア/夫婦の平均子ども数の低下/いずれは結婚したいけれど……/コミュニケーション能力と経済力が必要/結婚・出産はぜいたく品?/若者の非正規化が未婚化を招く/非正規雇用の結婚へのハンディは女性にも/結婚の形が自由になればいいのか?

    第3章 少子化対策失敗の歴史――混迷の霧の中を進む日本
     人口が増えては困る時代があった/一九七三年まで続いた移民送り出し事業/一九六〇年代からすでに若年人口は減少していた/一九六九年には生産年齢人口減が予測されていた/第二次ベビーブームの到来と「成長の限界」/一九七〇~九〇年代は人口ボーナスの時代/日本型福祉社会と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」 成功体験の足かせ/「一・五七」はなぜショックだったのか/「産めよ殖やせよ」の呪縛で及び腰/少子化という「女子どもの問題」は後回し/広がらなかった危機感/なぜ効果を上げられなかったのか 小出しの施策/変わらない政治家の姿勢/担当職員ですら子育て支援には無理解/結婚・出産は「自己責任」か/次世代育成こそが高齢者福祉を支えるはずなのに/「子育てなんか他人事」のツケ/政治の混乱,リーマンショック/司令塔がいない少子化対策・子育て支援/世代再生産の最後のチャンスを逃す/霧の中を人口減少へと進み続ける日本

    第4章 第三次ベビーブームは来なかった 「捨てられた世代」の不幸と日本の不運
     保育園だけが子どもの問題ではない/そして,第三次ベビーブームは来なかった/破綻した「学校と職業の接続」/企業は生き残り,国は滅びる──少子化を招いた「合成の誤謬」/「パラサイト」「ひきこもり」が覆い隠した雇用の劣化/非正規にしかなれない現実/見えない「もう一つの社会」/間に合わなかった支援/日本の不運 失われた二〇年と団塊ジュニア,そしてポスト団塊ジュニア/学校卒業時の景気で人生が決まる/溶けない氷河 残り続ける世代効果/親と子の世代が仕事を奪い合う皮肉な構造/次世代と仕事を分かち合ったオランダ/片働き社会から脱却できなかった日本/高卒者の場合 世帯の経済力によるハンディ/進路ルートから漏れていく若者たち

    第5章 若者への就労支援と貧困対策こそ少子化対策である――包括的な支援が日本の未来をつくる
     人口減少は止められるのか/婚活支援より先にやるべきこと/結婚したいけれど…… ずれる理想と予定/男性の収入 女性の期待とその現実/男性の賃金は低下し続けてきた/子育て世代の家計も厳しい/奨学金が少子化を招く?/いま必要なのは人生前半への支援/就労支援と貧困対策こそ少子化対策/緩少子化と超少子化の国は何が違う?/家事・育児を一緒に担う共働きの方が総労働時間が増える/人材をムダにするな 放置される未婚無業女性/深刻化する八〇五〇問題/必死で働いて貧乏になった「安くておいしい日本」の限界/「日本は何もかもが安い」/競争原理と地方創生のどちらを取るのか?/もう新しいタワマンもダムも道路もいらない/社会のOSを変えよう 総合的な社会保障の再設計を/外国人労働者はモノではなく人間である/受け入れ体制をつくっていく覚悟と努力/体制整備のコストは行政に転嫁される/移民は人口問題を解決するか?

    〈対談〉それでも未来をつくっていくために 常見陽平×前田正子
     「処置」しかなかった日本/構造的な変化であることを理解できなかった/「就職氷河期」という言葉の初出は一九九二年/ほんとうに凍り付いたのは二〇〇〇年代前半,ポスト団塊ジュニアを直撃/フリーターはほんとうに「究極の仕事人」か/みんなでこの国を貧しくした/日本は世界の中堅中小企業/国民に目を向けていない政治/誰もが付加価値を生み出せる産業で働けるわけではない/「若者を耐えろ」/「日本人再生プラン」を/希望格差,文化格差が広がる若年層/少子化対策・若年支援庁をつくれ/行政は仕事の再配分を/「労働とは何か」が問い直されなければならない/子どもにどのような未来を手渡すのか

  • 334-M
    小論文・進路コーナー

  • ニュースや新聞でも毎日のように目にするキーワードが満載。あたりまえのことだが、このように明文化されると、どんどん追い詰められ、絶望的な気持ちになる。
    勿論、取り組むべき対策についても述べられているが、勝ち組として逃げ切った人以外、どの世代にとってもショックな内容に変わりは無い。

  • まず、「無子高齢化」というタイトルを見て、私は、「やられた」と思った。
    そう、これから日本が直面する最大の加田は、「少子」ではなく、「無子」なのである。

    この本が、他の「少子化本」と一線を画しているのは、著者の前田氏が横浜市副市長という経歴の持ち主であることから、行政的な立場から「少子化」の解決策についてのアプローチを試みている点である。
    実際、本書で著者は、その対策案として、行政的な視点から5つの案を提起している。
    その提起された5つの案から、私は、非正規社員や外国人労働差の増加、奨学金の返済問題、家事・育児時間の増加など、様々な要因が重なり合い、我が国は少子化が進展してきたことを改めて認識させられた。そして、少子化対策は、行政において、子育て担当部署のみならず、経済振興、教育委員会、そして男女共同参画や国際を担当する部署が連携をして対策を講ずる必要があるのではと感じた。まさに、あらゆるエビデンスを得て著者が主張するように、まず、少子化対策とは、若者が経済力をもつような基盤整備が求められるのではないだろうか。

    2017年の合計特殊出生率は、1.43である。このままだと、早くも3世代目の時点で、日本で生まれる子供の数は半分になってしまう。

    無子高齢化時代の予兆は、すでにわが国で始まっている。生産年齢人口の減少に伴い、外食産業やコンビニエンス業界では、人手不足により、営業時間の短縮などに迫られている。
    今まで当たり前と思っていたサービスが受けられなくなる。著者は、このまま日本の農家の減少と高齢化が進めば、畑が急な傾斜にあって、機械化も難しいミカンが食べられなくなるのではと危惧している。

    「無子高齢化」時代の到来。我が国は、他の諸国と比較し、いち早く、その時を迎える。
    その時を変えるべく、私たちは、行動を起こさなければならない。
    本書を読んで、いま、始めるべきことを始めなければと思った。

  • 日本の人口構成の変化を丁寧に追った本。
    あとから振り返ると見えてくるものも、真っ只中にいるときは、なかなか見えないものなのですね…。

    それはさておき、日本の人口構成は、これからどうなるんでしょうね。
    日本の社会の在り方とともに、真剣に考えていかないと、とんでもない未来がやってくることでしょう。

    昔に比べて、日本人は長生きするようになりましたし、元気なお年寄りも多いですが、未来を作っていくのは若者なので、その若者たちが、明るい未来を描けるように、ある一定以上の年齢層の人たちは、自分も含め、若者たちに、より良い形でバトンタッチできるよう、がんばらないといけないですね。

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著者プロフィール

2014年6月現在 甲南大学教授

「2014年 『みんなでつくる子ども・子育て支援新制度』 で使われていた紹介文から引用しています。」

前田正子の作品

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