- Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000028011
作品紹介・あらすじ
「蕎麦ときしめん」「永遠のジャック&ベティ」の清水義範が迫る、フツーのサラリーマンの物語。疲れてません?
感想・レビュー・書評
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紡績会社の課長の柏木誠治45歳の生活を淡々と描く。1992年上半期(第107回)直木賞候補作。
「江分利満氏の優雅な生活」を連想する。起きる事件は会社のコンビューターの導入と中二の長男の同級生とのケンカと長女のアルバイト許可問題と実家の長男の嫁とうまくいかない母親問題くらい。この平凡さがいいなぁ。年代的に近いということが大きいのだろうけど。
奥歯を磨いていて吐き気がする。
『なんとしても磨かねばならない。吐き気に負けるわけにいかない。彼には、そういうところに、勝つだの負けるだのという言葉を当てはめる癖があった』なんととこで笑ってしまう。
若い人とあわない、けど嫌われたくなく、戸惑いもあるなんてイライラ感がよく分る。
『日曜の夜に、家族がバラバラではないか、と柏木は思った。そう思いながら、黙って野球を見続けるように日々なのだ。』
本が出たのが1992年でだいぶ古い。サラリーマンが使っている機器はワープロで、コンピューターに写真に取り込めないなんて議論をしている。家ではファミコンである。それを皆が苦手にしている。そんな時代だったんだ。
カラオケやバイトは不良がすることで、親を一人住まいさせるなんてことは考えられない。
読み出すときにこんな古い本を読んでもと躊躇したが、時代の雰囲気の変化が分って面白い。この時代はまだまとまりがあった。今はもっとバラバラだなという。
デパートにズボンを買いに行く話には特に共感した。しかし今ではズボンもデパートではないだろうと思う。そうしたことが時代の動きを感じさせる。
『またしてもズボンの裾直しか。いつもいつも必ずズボンの裾直しのために、男はデパートに出頭させられるのだ。
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「いや、これでいい。これが気に入ったよ。」
下手して、ズボンを二着を試着させられてはたまらないので強引に気に入ってしまうのである。
試着室ではそれまではいていたズボンを脱ぎ、裾が外側に折り曲げられている新しいズボンをはく。非常に情けない気分である。
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「ウエストはよろしいですか」
はたして自分はいつも、ズボンをどのようにはいているのか。ベルトをどの辺にしめているのか。ベルトはへそのあたりだったか。
さっぱり分らなくなってしまった。この不如意感があるから、服を買うのが好きではないのである。
ズボンの裾丈が長ければ短くすればいいが、短く切ってしまえば長くはできない、という科学的な思考に基づき、彼はズボンをややたくしあげた。』詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本当に、タイトルの通り。
妻と高校生の娘、中学生の息子を持つ40代のサラリーマンの普段の生活を、のぞいてみた、という感じの物語でした。
特に何が起こるわけでもなく、ごくごく、ごくごく普通~~の生活がそこには繰り広げられているわけですが、それでもおもしろかったです。
なんというか、この柏木さんの、娘や息子に対する時の気持ちとか、よくわかった。
どこまで踏み込んでいいのか、やりたいと思ってること(学校では禁止されてるアルバイト)をダメ、と言ってしまうと嫌われるだろうけど、でもダメなものはダメと言わなければいけない、という葛藤が、人事じゃないような気がしました。
みんな、普通に生活しているように見えても、蓋を開けてみればこれだけ悩みや問題を抱えて生きているんだよ、というのを見せてくれたようなお話でした。
見方によっては「つまらない」とも思える話でしょうけどね。