- Amazon.co.jp ・本 (649ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000072762
作品紹介・あらすじ
左翼運動に身を投じて転向した良家の息子菅野省三を主人公に、出身の異なる友人たちを配して、日本ファシズムの時代を苦渋にみちて生きた青年像を描きつつ、時代を動かした支配層の生活と思想をも作者の筆は精緻にとらえる。昭和10年から敗戦直前までの社会を重層的に描くことに成功した骨太い大長篇小説。
感想・レビュー・書評
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なかなか進まない。
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昭和文学の傑作、研ぎ澄まされた言葉の凛冽に快感が押し寄せる。
「迷路」野上弥生子は戦争文学の傑作といわれますが、主人公ははたして菅野省三だったのでしょうか。
その長い物語の幕切れは
「とみはなにもいう暇がなかった。ふたりはやがて身に浴びる、同時に日本じゅうで浴びる爆弾の火をまえにして、はじめてわずかにまことの夫、妻として生きようとしていた。」
昭和十九年の暮れ、能狂いの江島宗通と内縁の妻とみの会話でおわります。
この戦争は負ける、日本という国は滅びる、日本という国はなくなる、と予感したとき日本民族のあかしとして「能」を後世に残そう。そう本気で考えていたのが宗通であり小説の作者弥生子さんであり夫の野上豊一郎さんであったのでしょう。
作者は昭和11年から書き始め昭和31年に筆をおいた、と回顧されています。「迷路」はある意味で実話であり、よき夫婦のこころの軌跡であるのです。
「『卒塔婆小町』をして古往今来どこの国、百歳の女をあれほど美しい女主人公にした国があるかい。耳にしたこともなければ、読んだこともない。」
江島宗通はギリシャ悲劇を念頭において能楽師万三郎に向かってこう言い切ります。
「能」は世界に比類のない芸術である、といっているのです。