- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000233309
感想・レビュー・書評
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こんなことがずっと繰り返されていいはずがない。なんの罪もない人々が毎年2万人以上も犠牲になっている現実を変えるには、地雷という兵器をこの地球上から抹殺するほかない。世界で多くのNGOの人たちが対人地雷の廃絶を求めて立ち上がった原点にはこうした思いが強くあったことを、カンボジアで身をもって感じた。この原点こそ、立場や意見の違いを超えて多くのNGOをまとめる求心力の源となり、その後、地雷を廃絶させてゆく活動に発展する原動力となっていったのである。
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本書は地雷廃絶日本キャンペーン委員の筆者が対人地雷全面禁止条約に動いたNGOの人々の行動をルポルタージュしたものである。筆者によると現在、地球上には地雷が約1億個存在するという。つまり、日本人のほぼ全員が地雷を踏んでやっと解消される数になる。また、地雷の特徴として殺させないところに特徴があるという。つまり、地雷を踏んだ人間が死なないことで、治療などのコストを強いるのが目的なのではないだろうか。また対人地雷は1個3ドルという低価格なのも地雷廃絶の障害になっていることが描かれている。
その中でベルギーはいち早く対人地雷禁止法案を成立させた。そのポイントには「地雷を軍縮や平和問題と結びつけない。議員が臆病になるからだ」ということにあったという。なるほど、一見すると地雷廃絶=平和に見えるが、国内に依然として地雷が多く撒かれていた国としては市民社会の力も大きいものがあったという。
対人地雷全面禁止条約以前に作られたCCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)が極めて不十分な内容であったため、オタワ会議に向けて言葉尻を捕らえることを防ぎ、素案を受け入れる『自己選択方式』を採用することを決定した。その中で重要な役割を果たしたのがオーストリアであり、EU内部での対人地雷全面禁止条約積極派・消極派を取り込むために、EU規定の「共同行動」に目をつけたのであった。そして、あえて対人地雷が議論されにくい軍縮会議かカナダ主導のオタワ会議で条約交渉の場を設けるかを曖昧にして、巧みに取り込むことに成功したという。
そしてオタワ会議中にカナダのアスクワージー外相が『来年のオタワ会議で対人地雷全面禁止条約の調印式を行いたい』と宣言したのである。
こうして世論は次第に対人地雷全面禁止条約へ動くことになる。
しかしアメリカなどは軍縮会議での決議を希望していた。これは全会一致を原則としており、建前としては賛成の態度を取っておいて、軍縮会議では対人地雷の問題を取り上げない姿勢を示していた。またアメリカは修正案を提示することで対人地雷全面禁止条約を骨抜きにすることを目論んでいたのである。日本も対米追従の姿勢を示していた。
その中で幸運にも対人地雷に消極的であったイギリスでブレア政権が発足し、対人地雷禁止に舵を切ったのである。それに続いて同じく対人地雷の禁止に消極的だったフランスも欧州内での孤立化を恐れて対人地雷禁止に踏み切った。NGOは地雷を「兵器」ではなく、影響に焦点を絞り人道問題と位置づけた。こうして対人地雷全面禁止条約は122カ国が署名することとなった。NGOの活躍は世界をも動かしたのである。
ではNGOは誰の代表なのか?筆者も苦悶した時期があったようだが、その問いには”市民社会”を代表しているという。価値観の多様化する時代にあって政府の専門家だけでは解決できない問題にNGOが活躍する土壌がある。しかし、評者はそれだけ悲劇が待ち構えていることの裏返しでもあると思った。核軍縮問題にもそれは言えるのではないか?イデオロギー的な議論から日本はもう一歩踏み出すところに来ている。