放浪記 (岩波文庫 緑169-3)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 15
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  • / ISBN・EAN: 9784003116937

作品紹介・あらすじ

私は宿命的に放浪者である-若き日の日記をもとに記された、林芙美子(1903‐51)生涯の代表作。舞台は第一次大戦後の東京。地方出身者の「私」は、震災を経て変わりゆく都市の底辺で、貧窮にあえぎ、職を転々としながらも、逆境におしつぶされることなくひたすらに文学に向かってまっすぐに生きる。全三部を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 去年の12月にラジオで偶然、作家の林芙美子さんの亡くなる4日前に放送された肉声を聴きました。
    昭和26年に放送された若い女性からの様々な人生に関する質問に林さんが答えていく内容です。
    車の運転中でしかも音質もそんなに良くなかったので内容はきちんと聞き取れていなかったのですが、その語り口はとても優しくかつとても力強いものでした。

    聴いたラジオが非常に頭に残ったので、林さんの代表作「放浪記」を軽い気持ちで読み始めたのですが、、読むにはなかなかな覚悟の必要な内容でした汗
    苦境から作家で成功するに至ったサクセスストーリー的な単純なものを想像していたのですが、一つ一つの文章表現を理解するのに時間はかかるし時系列も前後入れ替わっているなどしてなかなか読み進めるのに時間がかかりました苦笑
    流石に読み終えるのに2ヶ月もかかると途中でしんどくなってくるのですが、何かこう、腕を鷲掴みされながら目を見開いて間近で訴えかけられてくるような凄みが全ての頁に溢れていました。

    貧窮のどん底を這い回る日々の中、ある時はカフェのスタンドの陰で、ある時は台所のお櫃を机がわりに、ある時は下宿のささくれだった畳に腹ばいになりながら、書くことを決してやめなかったようです。その執念が随所から感じ取れます。

    まだまだ飲み込みきれていない部分も多々ありますが、表現することについて強烈な気づきを得た一冊でした。

  • もう亡くなってしまった、
    祖母の愛読書だった、この本。

    大好きなおばあちゃんであった為、影響を受けて読み、
    その後、私の愛読書にもなった。

    特に、とても落ち込んだり、やさぐれているとき、
    読むとぴったり来て楽しいの。

    だから、「私が『放浪記』を読んでいたら
    近づかない方がいいんだよ…」と心の中で言っていた。

    岩波の月刊誌「図書」で紹介が出ていて、
    復刊かと思ったら、岩波さんではお初に出版のようだ。
    なんだか意外であった。

    今まで愛読していたのは新潮文庫で、
    何度も読んでお風呂でも読むから表紙はバラバラ寸前、
    でもそれがなんだかうれしい。

    今回は落ち込んでも、やさぐれてもいないけれど、
    岩波版出版記念に読みました。

    「私の選んだ文庫ベスト3」で、半藤一利さんが
    大好きな夏目漱石の小説を、出版各社とりまぜて
    気分に合わせて読み比べている、と
    その違いを詳しく教えてくれていて、

    「へぇ~」と、なった。

    私は今まで自分の好きな海外文学の翻訳読み比べは
    趣味でやっていたけれど、(とくに『高慢と偏見』!)

    日本語だったら、そんなに違いはないんじゃ…と
    思い込んでいた。
    だから好きな日本の小説も、
    同じ本を読んでいたなあ、と。

    以前、お笑い芸人の又吉さんが、
    太宰治の小説を各社全部、本棚に並べているのをみて
    「太宰好きが過ぎるよ、又吉君…!」と思っていたの、
    恥ずかしく思っております。

    今回、岩波版を読んで、確かに合点がいきました。

    お世話になった新潮版に申し訳ないけれど、
    岩波版、読みやすいです。

    字体と行間が絶妙なのかしらん。

    あと、注釈がそのページかその次のページにすぐ出てきてくれるから、
    すいすい読めた。

    注釈のしるしがついているとどうしても気になって確認したくなる。

    新潮は後ろについている、
    注釈のところにもちゃんとその言葉がまず書いてあってその下に説明、
    と、私が一番好む注釈のつけかたで、
    確かに量も多く、半藤さんと同じく、
    詳しく勉強したい気分のときは新潮版がお勧めかも、です。

    登場人物の一人、「松田さん」、久しぶりに読んだら、
    登場する部分、意外に少なく感じたな…。
    印象が強すぎて、私の心の中で育っちゃったみたい。

    「松田さん」は、会わない時はとても優しくって親切で、
    そんな人に冷たくしたら悪い、と思うんだけど、
    会うと、イライラして、やっぱり大っ嫌い、見た目も気持ち悪い、となる人。
    (こういう人、いますよね…)

    あと、新聞社の取材である小説家のところへ行き、
    その娘さんと話す。

    「私はいまだかつて私をこんなに優しく遇してくれた女の人を知らない。」
    と言うところが好きだ。

    芙美子さんが、すごく良さそうな問屋さんに就職したり、
    新聞社に入ったり、やっと落ち着けそうになると、
    私もほっとして、「そのまま頑張れ!」と応援するんだけど、
    やっぱり、色々あって、やめたりしちゃうのね。

    昔の友達に会いに行って、話が盛り上がって、
    「その場所に今から行かない?」と言う芙美子さん、
    友達は「だから貴女は苦労するのよ…」と言う。
    私も、そう思う!(でも、一方、憧れているよ)

    そして、今回は特にお義父さんについて注目して読んでいた。

    このお母さんの連れ合いの方は、
    芙美子さんとは血のつながらないお義父さん。

    お母さんの二十歳年下で、
    とにかく苦労の連続、なのだけど、
    決して、二人を見捨てない、

    芙美子さんも、色んな感情が渦巻くときもあるけれど、
    「大事なお母さんを大事にしてくれる人」でもあり、
    やっぱり強い愛情がある。

    「縁」の不思議さにも思いをはせた今回の読書であった。

  • ★3.5
    文章が素敵。生活が大変だった日々の記録なんだけれども、暗くなくてどこか明るいと感じるのは、作者の性格なのだろうか。

  • 林芙美子の出世作、なんども改稿し続けた1~3部を収録。
    表紙には「逆境におしつぶされることなくひたすらに文学に向かってまっすぐに生きる」と書かれているけど、まったくそういう風には読めません。少しも埒の明かない暮らしに、しょっちゅう自棄っぱちになっては悪態を吐き、できもしないことを夢見たりして、それでも文学を捨てきれない人、というのが私の受けた印象でした。
    なにしろ、貧乏でも芸術一筋を気どりつつ、生活の苦労は女に丸投げしてきた多くの男性作家とはわけが違うもの。女にとっては、貧しさと、男に依存する/利用されることとが不可分の関係なのだということが、この人の吐き出す思いを読むと、あらためて実感されて、ほんとうに今の時代の女の貧困と、本質的には変わっていないと、つくづく感じます。特に、彼女を愛しているという「松田さん」が、見返りを期待しないと言いながら金を貸してくれることが、むしろ重荷で嫌でたまらない気持ちは、とてもよくわかる。
    いっそ誰かと結婚しようか、いっそ売春でもするか、と、本心とも思えない言葉を吐きつつ、それでも文学を手放さないでい続けたのは、「純粋な志」なんてきれいごとでは済まない、意地とか開き直りとか、複雑なものがあったんじゃないだろうか。林芙美子が、成功してからも、あれはプロレタリアート作家よりも落ちる「ルンペンプロレタリアート作家」だと中傷を投げつけられたように、性的にも、志においても、”純粋”でいるという贅沢が許されないのが、つまり貧困な女ということなのです。
    もっとも、その日その日の気持ちが火花のように飛び散っていた第一部とくらべると、第三部はかなり整理されて、作家のサクセスストーリーの趣には近づいてくるのだけど。しかし第2部の最後に付記された、今は成功して自分の家も構えた作者がふと漏らす恐れや空しさにこそ、林芙美子の直の肉声がもっとも伝わってくる気がします。特に、苦しいなかで支えとなってきたことは間違いないけれど、重荷でもあり自分を縛る鎖であったことも間違いない家族というものを、ふと客観的に眺めてしまう心持ちを描いている部分が、強い印象を残す。家族への相反する気持ちも含め、彼女の率直な筆が時代を超えて共感を呼び続けていることに納得します。

  • 貧乏ってやつぁこういう事を言うのさね。どこまでもどこまでも追いかけてきて、いつの間にか自分に成り代わって、次の貧乏をうむのさね。自業自得とのたまう人の、なんたる無理解。金と親と別れた男についてのどこまでも続く愚痴。恋愛模様は演歌そのもの。さまようのは、住まいだけでは無いのです。
    破滅型の生活、自己生産の貧乏と、持て余した若さと体力は過激思想とよくくっつく。理想の奥深くに昏く光る恨みを籠めて。当時、この書き方で口に出して歩いたら思想犯として逮捕される流れもよく分かった。
    ただひたすらの困窮のサイクルの中でこの人はよくぞ文筆家になったものだ。詩に触れ続け、詩人に囲まれてきた方のようで、日記も非常に詩的だけど、啄木のように生活臭が強い。北原白秋が好きでロシア文学を良く読んだようで作品が頻出する。時代的には第一次大戦後、関東大震災の記述もある。だが世の中の出来事の記録よりも、20歳そこそこで、自分のもがき苦しむ精神を、ありのまま書き付けた胆力に恐れ入る。内容的には何の救いも無いのだが、好評を博したという事は、多くの人が共感したということか。
    頭の中のBGMはずっと『からたちの花』でした。いや白秋じゃない、陽水のほう。

  •  時系列が…とか人間関係が…など気にし出すと読めないと思うが、一気に読んでしまった。
     NHKの番組がきっかけで手に取ったという経緯は恥ずかしいが林芙美子さんに出会えてよかった。
     ジェンダー、経済格差、いじめや差別、政治不信などいろいろな課題があるのに放置されている今こそ読む価値があると思う。
     昔の絵画(風景画など)を見るとその当時の街の風景や人の息遣いなどを視覚的に感じられることが多いが、放浪記を読むと彼女が生きた時代の東京下町の景色、街並み、地図上の位置関係や風俗が甦るようで、生きていた人々の日々の暮らしやその息遣いまでが手に取るようにわかる。歴史書にはない楽しさがあった。
     長編だが、改めて年数を数えると、ほんの数年間であることに驚きを隠せない。著者のことを悪くいう人もいるが、20才前後のわずか数年間の著者の生き様、どんなに貧しく辛くとも、古書を離さなかった(学び続けようとしていた)彼女の姿に感銘を受けざるを得なかった。
     

  • 100分で名著でとりあげられた。分厚い本で今まで読んだことがなかった。作者の自伝で単にいろいろな生活をしていることをえがいているだけであるという紹介が多かったが、実際は小説や童話や詩を書いていて、なかなか採択されないという状態を描いたものであった。詩が書かれていることも放浪記の紹介にはなかったと思われる。
     作家になるとはどのようなことなのかを知るにはいい本であると思われる。

  • 日記の体裁はとっているけども、突然場面と時間が飛ぶので、わかりづらいことが多々。
    特にラスト部分は「一体全体どうなった!?」感があって……。

  • 2023.05.20 図書館

  • 「文壇に登場したころは『貧乏を売り物にする素人小説家』、その次は『たった半年間のパリ滞在を売り物にする成り上がり小説家』、そして、日中戦争から太平洋戦争にかけては『軍国主義を太鼓と笛で囃し立てた政府お抱え小説家』など、いつも批判の的になってきました。」

    と筆者自身が語った(らしい)ように、正直貧乏売り物にしているだけとしか思えない内容で、序盤で嫌になってきた。樋口一葉が同じように貧乏の中で書き上げた作品とは品格が違う。
    登場人物が似たり寄ったりで誰が誰かわからなくなるし、比喩などの表現技法も独特すぎてよくわからないし、何より読んでいてダカラナニ?と思ってしまう。
    中盤すぎてから突然変異する作品もあるのでもう少し我慢して読もうと思ったが、いやいや読むだけに先に進まず、この時間利用して別の本読んだ方が好いやと思い、定価1,166円はブックオフに消えました。(無駄に分厚いだけの本。この千余円は紙代なのでは)

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著者プロフィール

1903(明治36)年生まれ、1951(昭和26)年6月28日没。
詩集『蒼馬を見たり』(南宋書院、1929年)、『放浪記』『続放浪記』(改造社、1930年)など、生前の単行本170冊。

「2021年 『新選 林芙美子童話集 第3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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