- Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003242230
感想・レビュー・書評
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表題作の「水晶」に激しく心揺さぶられてしまった。
こんな小説は、初めて。
近代小説にありがちな緩急に乏しい冗長な語りなので、前半は何度も話の筋を見失い、あれ?なんの話してるんだっけ?と少し戻って読み直す、ということを繰り返していました。
だけど、突然、ものすごい力によって、がし!と心を掴まれ、その後はすっかり物語に翻弄されてしまいました。とにかく登場人物たち(特に子どもたち)の運命がどこに向かっているのか心配で心配で、私ときたら、まるで彼らの保護者かと言いたくなるくらいに完全に気が動転し、途中、息が苦しくなるほど。終盤で父親が言葉を詰まらせる姿は自分かと思った。
しかも主要人物たちだけじゃなくて、村人AとかBにまで感情移入してました。
いったいどういう仕掛けなのかしら。ビックリです。読み終わってみると、それほど衝撃的な事件が起こったわけでもないし、特別ドラマチックな描き方をしているとかいうわけでもないのですが。
あんまり驚いたので、何が他の小説と違うんだろうとつくづく考え込んでしまった。
きっと、序文で作者が言っている「偉大なものと小さなものとについてのわたしの見解」が見事な形で語られていたからでしょうかね。
淡々として抑制された文章でいながら、眼前に風景が広がるような絵画的な描写。その端々に、大いなるものの力に見守られつつ日々を懸命に生きている人々への、作者の深い愛と敬意を感じます。
あとの3編もぜんぶ心にじんわりきて良かったけれど、「水晶」ほどのインパクトはなかったな。
読みながら、自分の故郷がしきりに思い出されました。
私が18になるまで住んでいた小さな小さな町。
子どもの頃は全然好きじゃなかったし、特別に美しいところというわけでもないし、この作品に描かれているヨーロッパの小村とは、周囲を山に囲まれた不便な町ということくらいしか共通点はないです。日本中のあちこちにみられる、ごく普通の過疎の町。
でも、この本を読んでいると、今まで思い出すことすらなかった山歩きの感触とか、常におじいさんやおばあさんたちが身近にいる感じとか、広い空や空気や地面が季節ごと時間ごとに変化しつつ、それでいて全然変わらない様子とか、そういうものが突然思い出されて、何か大切なものを失ったような、なんとも言えない気持ちになりました。
そういうものによって自分が作られた、ということを急にハッと思い出したという感じかなぁ。
あるいは、自分の中にそんなものが今もしっかり残っていることに、突然気付かされて驚いたのかも。
この本には、読んでいる者の中にある自然とのかかわりについて、たとえそれが残滓みたいなものだとしても、呼び起こす力があるように思います。著者の自然に対する愛が物語中にあふれているからだと思いますが。
日本語訳はイマイチだと私は思った。
っていうか、もともと6編あるうちの2編を勝手に削っておきながら、その2編のあらすじを全部オチまでぶちまけている訳者に、けっこう腹が立ちました。
なんという暴挙。
岩波文庫、こういうの多くない?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ありのまま、美しさは委ねられる。
自然に対する敬意と、人間に対するそれは一様でなければ。 -
静かな文体が印象的。いずれもハッピーエンドで終わっており、読後感もすっきりしている。作者の思いは、序に記されているが、それが示すように、静かだが気高い人びとの行動、その偉大さが表れている。
(2016.4) -
自分の中では飛び抜けて面白い小説ではありません。面白い訳でもなく、深く考えさせる訳でもなく、ただ、これほど「ささやかなもの」で心を動かされるとは思いませんでした。
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暑いときに。読む清涼剤、読む森林浴。
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とても好きな作品
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水晶、みかげ石、石灰石、石乳、『石さまざま』の序。前の古い岩波文庫2冊を改版して1冊にしたもの。どんな体裁でもいいから、シュティフター「石さまざま」が私の本棚にある、それだけでひとつの安心なのです。なんででしょう?最近流行の、天然石の癒しのパワー?癒しだなんて、卑しい、嫌らしいことを言わないでください。……そりゃあもちろん、洒落にきまってます。
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やさしい感じのお話ばかりで、満たされた感じがします。この人すごい。
お話の中の時間の流れがすごい繊細な感じがしました。 -
一つ一つのお話は、どれも派手さはありません、ですが優しい時間と暖かな愛に溢れています。
”水晶”だなんて、兄と妹との絆に涙が誘われ、”石灰石”ではかれの生き方に涙が誘われます。悲壮だから涙が溢れるのではなく、優しすぎて泣けてきます。