パルムの僧院 下 改訂 (岩波文庫 赤 526-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003252666

作品紹介・あらすじ

城の牢に幽閉されたファブリスをめぐってパルム宮廷の政争はさらに激しく展開する。才気と美に輝く叔母サンセヴェリナの情熱、モスカ伯爵の精妙な政治学、政敵コンチ将軍の娘クレリアの可憐な恋。個性的な多くの副人物を配し、19世紀前半、動乱期イタリアの小公国パルムを描いて「広範な社会的真実」を見事に浮かび上がらせた傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 下巻。ファブリスは殺人の嫌疑で捕まり牢獄城塞に投獄されてしまう。だがこの獄舎での日々は、彼にとって必ずしも苦痛に満ちたものではなく、暗鬱でも無かった。この城塞でクレリアという美しい娘と再会したからだ(クレリアは獄舎の長官の娘)。ファブリスは、獄舎の小窓から娘に信号を介して通信。恋を育む。かくしてファブリスは、囚われの身でありながら、充実感と幸福を感じるのであった。

    その後、叔母の公爵夫人の大尽力で、ファブリス脱獄の大作戦が進行。夫人は財力で獄吏らを買収、さらに大公周辺に人脈を総動員した謀略を仕掛け、ファブリス救出作戦を成功させる。

    物語の中盤くらいから、これ一体どんな小説? という困惑を感じ始めた。主人公がファブリスであることは疑い無く、彼の脱獄と悲恋が後半の縦軸であるのもわかる。だが、パルム公国の宮廷を舞台にした、政治の謀略、廷臣らの群像劇などの周辺描写に多くの紙数が割かれる。
    これは、19世紀の専制君主国家のありうる姿を描いた小説なのか? という気もしてくるのであった。パルム公国という架空の小国を舞台にしたのも、大公以下法相や軍の幹部(将軍)など主要閣僚が、やり手の公爵夫人と首相の謀略によって、容易に動かされてしまう、その為のコンパクト感なのでは?とも思えるのであった。
    あるいは、そういう、構えの大きい小説なのかもしれない。

    ※以下 特にネタばれ↓

    その後、ファブリスは補佐司教という要職に就く。だがクレリアへの想いは続いている。クレリアはファブリスの脱獄に際し、聖母に、生涯二度と彼の姿を目にしない、と誓いを立てた。さらには望まぬ結婚をするのだった。
    二人は互いに深い思いを寄せ合うのだが、道ならぬ恋である。人目を忍ぶ逢瀬のみが許される。二人の子が生まれるが、ファブリスはその子を陽の下で愛することは叶わない。
    幼な子は程なく病死。母クレリアもわずか数ヶ月後、後を追うように病死。失意のファブリスは「 パルムの僧院 」に隠遁。
     そして彼もまた程なくして世を去るのだった。

    終章は駆け足のように、悲恋はさらに哀しい終幕を迎えるのであった。

  • 長いこと宗教小説かと思っていたら全然違った(^^)表紙の紹介文も違う。これは人としての幸福な生き方を考える人生哲学アドベンチャーラブストーリーなのだ。イタリア統一前の19世紀、小国パルマの貴族の息子ファブリスはナポレオンに憧れてワーテルローの戦いに紛れ込み参加しようとする。そこから始まる冒険、恋、政争…。ファブリスは無垢で無防備である。隠し事や企みをしない。そして賢い。高貴ゆえに政争に巻き込まれ城の牢に幽閉され死刑宣告に脅かされる、命を狙われる。しかし不幸になりそうな度にその人柄ゆえに愛され助けてくれる人たちがいる。本人に自覚はない。すべて素なのだ。
    善良で裏表がなく素朴で情に充ちた人格、目先の瑣末事に捉われず何事も高所から見ているから彼の目には単純に写る。登場人物たちそれぞれの求める幸福の在り方の中で、彼の幸福は愛する人を慕い、守り、与えること。伯爵家に嫁に行った宿命の恋人クレリアとの恋は表向きには叶わないが、裏でしっかり育まれる。大司教になったファブリスは幸福に充ちた生涯を終える。絶対君主制の制約された時代に、幸福とは何か、幸福を引き寄せる生き方とそれを貫く在り方を提示する。絶対君主制下の制約や宗教的社会的倫理の中でやりたい事をやるファブリスの魅力的な生き方。なんという傑作。こういう人に私はなりたい!

  • 主人公が破天荒。「赤と黒」の主人公像と共通点が多いように感じた。ファブリスは好き勝手やりまくって迷惑かけまくってクレイジー。クレリアと子供を遠回しに自分のアホな思いつきのせいで死なせてしまう話が、たかだか数ページで書かれててシビれた。モスカ伯爵がかわいそうなくらいいい人。

  • これは素晴らしいな。面白いとは違うんだけど、読んでよかった。物語が進むにつれて高まっていくあまりに苛烈な情熱の奔流。最後の数章の高まりっぷりは本当にやばい。
    やっぱり古典はちゃんと読まないといけないな。

  • 翻訳は新潮文庫版よりこちらの岩波版の方が理解しやすかった。なんと言うか赤と黒もそうなんだけど、すごくいわゆる恋愛小説ですよね。当時の倫理観的にはどうだったんだろうと思うけど、メロドラマって感じだなあ。最後の数ページでの怒涛の展開にはあっけに取られましたが。

  • こういういっさいの名誉に少しもうれしい気持ちが起らず、我が家の従僕服をきた十人の召使にかしずかれ壮麗な邸宅に住みながら、見るもきたならしい獄吏にとりまかれて常に生命の危機を感じつつファルネーゼ塔の木造部屋にいたときよりはるかに不幸だということは、ファブリスにとってひとつの大きな哲学の教訓だった。

  • 人間描写、そしてその関係の描き方が秀逸。
    そのおかげで、なじみの薄い世界の話しもすんなり読めた。
    幾つかの詩的な場面が印象に残っただけでも、読んで良かったと思えた。

  • 解説にもある様に、同作品と『赤と黒』は、甲乙つけがたく、結局再読した記憶の新しいものに軍配が上がる。スタンダールのこの代表二作品は、小説全ての肯定的要素が鏤められ、幾度の再読にも耐えられる至高の作と謂えるのではないか?少し唐突な終幕も一見悲観的な幕引きに視えて、主人公の裡の幸福感をはすかいに感じさせる(赤と黒も同様に)
    スタンダールの作品は、正しい小説 なのだと思う。

  • パルム大公国という小国を舞台に繰り広げられる権謀術数の政治的駆け引きと錯綜する恋愛。上巻では戦争と平和が浮かんだり、赤と黒のジュリアンと比べて歯がゆく思ったが下巻になって俄然面白くなった。政治家として尊敬できるモスカ伯爵は純真で一途だし、ジーナ、クレリアも魅力的。ファルネーズ塔のファブリスとクレリアはまるでラプンツェルを逆にしたようだ。イタリア人らしい激しい情熱とすれ違う想いの心理描写をそれぞれ知ることができるなんて読者の特権だと思う。

    ジーナの物思いにふけるさまはグインサーガ中期を想い出し、ワーテルローでのファブリスは戦争と平和のピエールを、ファルネーズといえばベルセルクのファルネーズ様が…

  • 読むのに手間取った。
    宮廷での陰謀とかあれこれごちゃごちゃした駆け引きみたいの多くて、事実関係追うので必死だった。そこのごちゃごちゃがまた面白いとこなんだろうけど(作者スタンダールもそういった宮廷全盛期な時代のイタリアを愛していたのだとか)、正直キツイ。
    まあでも話の本筋はごちゃごちゃした陰謀のなかでの一途な恋愛て感じでよかった。
    なんでもリアリズム文学の先駆けなんだとか。主人公はあれこれ悩んだり動揺したりと多感なんですね。つまるところそれがリアルなんですw

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著者プロフィール

スタンダール(本名アンリ―・ヘール)は、フランス革命からはじまるフランスの歴史的な激動時代を生き抜いた、フランスの代表的な作家。著書に「赤と黒」「パルムの僧院」「恋愛論」など。

「2016年 『ディズニープリンセス 「恋愛論」 Disney Princess Theory of Love』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スタンダールの作品

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