ダイヤモンド広場 (岩波文庫 赤 739-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003273913

作品紹介・あらすじ

三十以上の言語に翻訳されている,世界的によく知られた名作.現代カタルーニャ文学の至宝と言われる.スペイン内戦の混乱に翻弄されるように生きたひとりの女性の愛のゆくえを,散文詩のような美しい文体で綴る.「この作品は,私の意見では,内戦後にスペインで出版された最も美しい小説である」(G.ガルシア=マルケス).

感想・レビュー・書評

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  • 故郷カタルーニャを追われ国外に暮らすこと40年。

    そういう半生を背負った著者が、母国カタルーニャ語で書いた小説。自身が亡命生活を送ることになった「内戦」を舞台に書いた小説でありながら、書かれ方はいたって冷静、理知的である。そのことが、言い知れぬ迫力を齎していると感じる。

    丁寧で、緻密で、ほどよく謎めいている部分も配しており、”文芸”としてそうそう巡り合うことはない水準の一冊だと思う。

    ひとりの女性の生涯を、生々しく、滋味深く描くことにおいて、こちらも滅多にはお目にかかれないレベルで、そりゃあ三十以上の言語に翻訳されるでしょう。

  • なんなんだこれは最高だ。カタルーニャ版、女の一生。

  • 幼いうちに母を亡くし父と後妻からは放置されて育ったナタリアは無邪気で世間知らずな少女。ある日ダイヤモンド広場でキネットという若者と一緒に踊り、以来強引なキメットに押されるがまま婚約者ペラと別れて彼と付き合うようになる。キメットはナタリアにクルメタ(小鳩ちゃん)というあだ名をつけ、最初のうちこそ優しかったが、つきあってるうちにモラハラ言動をするように。

    おせっかいおばちゃん読者としては、そんな男とは早く別れたほうがいいよー!と思うわけですが、ナタリアはずるずる交際し結婚、意外とモラハラも悪化せず、無事子供も生まれ、しばらくはそれなりの平穏な日常が続く。しかしお金持ちの家の女中としてパート仕事をしながら子供の世話をするナタリアの疲弊も知らず、家具職人のキメットは本職がうまくいかず家で鳩の飼育を始め、さらに1936年スペイン内戦が勃発、キメットは人民軍に加わり・・・。

    舞台はスペイン、カタルーニャ地方(バルセロナ)なので、キメットのお父さんがガウディが電車に轢かれたとき現場にいたとか、デートはグエイ公園だったりとか、登場人物たちの行動範囲がわりとメジャーな観光地界隈なので風景を思い浮かべやすかった。地図もついていて親切。

    戦争、食糧難、そして愛する人たちとの死別、ナタリアはどん底を味わうが、描写が淡々としているので、比較的距離を置いて冷静に読むことができた。ただただ生きることに精いっぱいで、ナタリア自身はあまり自分の内面を人に打ち明けたりはしない。というか、自分が自分がという主張をせず、起こることをただ受け入れて引き受けていくタイプの生き方をしていく女性という印象。性格は全然違うけれどなぜか『この世界の片隅に』(ちょっと前にテレビでアニメ映画を見た、良かった)のすずさんと重なった。

    ナタリアは、若くして恋愛結婚をし(婚約者を振ってキメットを選んだわけだし)、しかし夫の友人に実は密かに心惹かれていたり、戦争で夫を失い、子供をかかえて飢餓に苦しみ、しかし年配の優しい男性と再婚、美しく成長した娘の結婚式まで見届ける。現代人の私からみたら十分に波乱万丈だけれど、ある意味この時代の女性としては万国共通の「普通」だったかもしれない。

    つまりある意味、とても平凡な女性の話ともいえるのだけど、ナタリアの感受性がとても繊細で、度々ハッとするような美しい描写がある。巻貝のくだりとか好きだったなあ。最終的にはアントニがとっても良い人で、ナタリアがちゃんと彼を愛していることに気付けて安心した。ある意味、朝ドラにできそうな普遍的な「女の半生」ものなのだけど、それをナタリアの、というか作者の感性で独特の描き方をされていて、たまに幻想味を帯びてくるのが良かった。

  •  いい小説だった。生きるとはこういうことなのだろう、と思わせてくれる。
     人は誰しもが自分の意思を超えた巡り合わせを持っている。環境が平穏であるかないかにかかわらず、基本的にどの一瞬においても生と死は隣り合わせであり、また、生の中にも選び取られた道と選び取られなかった道が隣り合わせにある。私たちはその隣り合わせの両方を常に持っている。そういう日々を過ごしていくのが生きるということ。そして主人公のクルメタは、生きている。ロジックとかそういうものを超えて、生きている。ルドゥレダがクルメタのことをボヴァリー夫人やアンナ・カレーニナに劣らぬくらい賢いといったのは、こういう意味だったのではないかと思う。

  • スペインの内戦が舞台となっているようですが、それは物語の背景として(重要ですが)影響されるものです。一人の女性が、結婚し、子供を産み、生活を営み、その背景に内戦という悲惨があり、それによって壊れた生活をなんとか軌道修正を行いというドラマティックな物語が、主人公の視点によって描かれています。辛いことに耐え、理不尽に疑問を感じるも、夫や子供のために耐え、何とか生活し、その中でも案じてくれる幾人かに助けられ、時に感情が崩壊し、状況に翻弄されといった、濃厚で凝縮された人生がここに描かれています。戦争というものが、生活に悲惨さをもたらすことがリアルに感じられる一方、その中でも小さい楽しみや幸せを感じること、人間らしさを失わないこと、惑いながらも人を信じてみることなど、いろいろと思い知らされました。人は前が見えない不安の中でも、不安のまま決断しなければいけないし、決断しなくても前には進むし、それを受け入れていかなければならないものであること、今の時代に生きるために読んでおくべきものなのかと感じました。

  • 確かに、美しい小説だった。
    鳩が印象的。

  • 静かで暗い、どこか他人事かのような女性の独白
    気付かないうちにどんどん引き込まれていった

  •  訳者の「カタルーニャ語小さなことば僕の人生」からの流れ読みだ。
     なんだろう、フランコ将軍の独裁にう向かうスペインの内戦時の物語ではあるが、物語の中核をなすのはバルセロナの女性の生活、政治色はいっさい排除され、それだけに主人公の独白のなかで自ずと物語が浮かび上がってくる。
     では、その物語とは何なのだろう。それは銃後で、ひたすら戦いのイデオロギーを排したところの無垢な生活だ。著者はおそらくその「無垢」を、「鳩」として描くことで、主人公とともに、無垢な世界観を描き上げているのなだと思う。
     なるほど、確かにきれいな小説に仕上がっている。

  • カタルーニャ地方(スペイン本国から絶対独立したい)で書かれているとのことですが、特に文化的な発見はよくわからず。ある女性の一代記かな?呑気と言うかな?この街の感じ、植物の感じ、机の感じが好きだわと瑞々しく生きてる中、周囲に翻弄?される。最初の旦那は情熱的だが、釣った魚に餌は要らないタイプに感じられ、この女性でなかったら逃げ出すと思う。主人公は大人しい人柄だが、やはり全体的に民族的に血の成分が濃いなあと思う。あと、人間って物を信じてる気がした。昔の日本もそうかな?今がおかしいんだよね?

  • 何の知識も持っていないスペイン内線時代が舞台、初めて読むカタルーニャ文学だったが、儚げなのにたくましい主人公と先が気になる展開、流麗な文章ですいすい読めた。

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