沖縄密約: 「情報犯罪」と日米同盟 (岩波新書 新赤版 1073)

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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310730

感想・レビュー・書評

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  • 権力とは恐ろしい。使い方を間違えれば現在のようなウクライナ戦争も起こるし、北朝鮮のように国民が飢えてでも核ミサイルを飛ばそうとするなど、世間一般には間違っていると断言して出来ることが世界中で頻繁に発生する。
    我が国の権力の頂点と言えば、民主主義国家だから原則的には国民にあるのだが、その代表たる国会そして内閣総理大臣が実務上の最高権限となる。政治家たるもの誰しも最終的に目指すのは総理の地位であろうし、それを手にするためであれば汚い手、禁じ手を使う。
    本書前半は池田総理から佐藤栄作へと権力の移り変わりに際して「利用された」と言っても過言ではない沖縄変換問題、沖縄密約の発生経緯を辿っていく。当然、沖縄を返還してほしい日本と基地として失いたくないアメリカの間の外交問題だから機密事項も多いのはわかるが、後に日本がアメリカに支払った(実質的に沖縄を金で買ったと言われる)表向きな金額とは別に、アメリカに支払った金がある。筆者はその存在に気づき国家を相手にした結果、逮捕されるという悲劇に見舞われる(執行猶予付き)。ここでも国家という強大な権力には1人の人間が立ち向かえないのが現実にあった。
    なお、機密費問題に関してはその後に外務省の当事者が当時を告白したこと、アメリカ側では譲歩公開がされたことから、周知の真実として白日のもとに晒されるわけだが、それでも歴代外相はそれを認めない態度を続ける。しかし本書が言いたいのはそこではなく、沖縄という土地やそこに住まう住民たちの意思とは関係なく、国会議員の権力闘争に巻き込まれる事実についてである。
    現在の政治を見ていても、日本は外交が弱いと言われる一昔、二昔前から大きく進歩しているようには見えない。寧ろ外務大臣の海外訪問のニュースからは行った国と誰と会ったかだけに注目が集まり、中身よりも外見しか見ていないのは昔も今も変わらない。だから秘密も容易に作られてしまうし国民の監視も甘い。そして中身のわからない日本の外交は弱腰とも取られる。
    この弱腰傾向は太平洋戦争に負けてアメリカ占領下にあったのだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、戦後も続く日米関係を見てわかる通り、余りにもアメリカに対して逆らえない状況は続く。確かに極東の不安定さにはアメリカの軍事力はよく効いているし、日本もそれが無ければどうなるか判らない。残念ながらそれを解決出来るのも外交力しかない。だから根本的には対外的に強い(最低でも対等に渡り合える)外交力=国力が必要だ。
    現状を見れば少子化と超高齢化が続き、人口もじきに1億人を割る。若者は働く意欲を失い定職に就かないばかりか結婚もしない。地方の過疎化は益々進み空き家だらけで廃墟だらけのゴーストタウンと化していく。我が国だけが課題山積にも見えるが、それを解決している北欧の国々もある。
    まずは国民が目を覚まし、自分たちの国の現状をしっかり見つめ、今後10年、30年先を見て何をするべきか真剣に考える必要がある。
    話は飛んだが、国家権力に立ち向かう筆者の姿には勇気を貰える。

  • 佐藤栄作氏のノーベル賞が偽善に満ちていることがわかる。

  • 西山太吉『沖縄密約』岩波新書 読了。運命の人はもちろんだが、当人はいかなる人間か興味があったので。沖縄米軍基地問題が今なお混迷を深める根底には、佐藤政権時代の外交政策のまずさがあるのだとまざまざと突き付けられる。我が花道を最優先させた佐藤元総理の政治判断に対して憤りたくもなるな。
    2012/02/22

  • 西山太吉『沖縄密約ー「情報犯罪」と日米同盟』を読む。
    読んでいくうちに1972年の西山事件と2010年の一色事件の
    共通性に気づく。いずれも国家公務員法違反に問われた。

    僕はふと疑問に思う。
    僕たちは主権者として選挙のたびに投票を通じて
    政党、政治家に権限を託す。
    しかし、選挙と選挙の間に託した権力がどう運営されているか、
    国民が監視する仕組みは充分なのだろうか。

    沖縄返還にあたって日本がアメリカと密約と結び、
    税金の使い方を隠蔽し、責任者たちが国会でも偽証する。
    対中関係で領土が侵犯されている現実を示した映像資料を
    突然「国家機密」として一部国会議員以外には公開しない。
    国の未来を憂い、それらの情報を自己責任で公開した人間に
    社会的制裁を与える。
    一方でそもそもの国家運営について
    どこまでの情報を国民に公開するかについては議論を深めず
    仕組みも整備しない。

    その役割を期待されるメディアの機能も決して充分とは言えない。
    記者クラブでの限定された情報を
    限られたメディアが使用していることは再三再四指摘されている。
    民主党に政権交代しても期待したほどの変化は見られない。

    西山事件では情報を提供した外務事務官と記者の男女関係、
    一色事件ではインターネット時代の情報漏洩問題と犯人捜し。
    いずれも、短期間に情報を売るためによりセンセーショナルに、
    より扇情的に加工し、誘導する。
    人々が過剰な情報を消費し疲れ飽きるうちに、
    事件の本質はぼやけ次の事件に焦点がずらされ、
    すべてが忘却の彼方に追いやられる。

    国家を逆に揺さぶるメディアとしてWikiLeaksが現れた。
    WikiLeaksが出現する背景には
    国家、メディア、個人のパワーバランスの再修正を
    テクノロジーの進化によって果たそうとする意志があるように
    僕には思える。個人でなく集合的無意識の意志である。
    道徳倫理の善悪ではなく、パワーバランスである。

    日米関係について別の視点からも見てみよう。
    リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイ Jr、春原剛
    『日米同盟 vs 中国・北朝鮮 アーミテージ・ナイ緊急提言』(2010)
    を読む。
    そもそも日米同盟なしに、日本の安全は保障されるのか。
    中国、北朝鮮、ロシアの動きを見てみろ、
    とアーミテージ、ナイは言う。
    二人はアメリカ政界では、日本シンパと呼んでもいいだろう。
    中国より日本との関係をアメリカが重視する必要があると
    主張している。
    その二人が、安全は政治的そして軍事的責任を
    果たすことなしには得られない、現実を見よ、
    と日本人に警告する。

    「日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる」。
    イザヤ・ベンダサン(山本七平)の至言が頭に浮かぶ。
    国家、メディア、個人。安全と平和の代償。
    簡単には結論が引き出せない問題であることを真摯に受け止め、
    自分の頭で考え抜くことを続けてみたい。
    問題から目をそむけることで
    平和も安全も手に入らないことだけは確実なのだ。

    (文中敬称略)

  • 運命の人から始まって、この本に辿り着く。

  • こ、これは・・・けっこう衝撃的。沖縄返還の密約についてアメリカの公文書がその存在を証明し、さらに密約の当事者の証言が出てきたにもかかわらずそれを否定する日本政府。ほんとかよ。

    また、この本が描く安全保障についての問題提起は、相当の説得力をもって僕には迫ってきたのだが・・・。九条改正の前に、やることや考えることはたくさんある、ということを改めて知ることができた。筆者の主張については、今後も多方面から検証を積み重ねていく必要があるのだろうけれど、さしあたり問題の所在を知るには必読の書、ではなかろうか。

著者プロフィール

ジャーナリスト

「2013年 『終わらない〈占領〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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