反貧困: 「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書 新赤版 1124)

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  • / ISBN・EAN: 9784004311249

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  • 多くの人は、いかに客観的な状況が大変だったとしても、本人の心がけ次第、頑張り次第で道は開かれると考えると思う。自分もそうだ。
     だがそうした「自己責任論」が正義として内面化してしまうと、たとえ生活が厳しくても「人の世話になってはいけない。なんとか自分で頑張らないといけない」と思い込み、気づいたときには取り返しのつかない状況に追い込まれ、貧困当事者となってしまう。
     過度の自助努力と、それを求める世間一般の無言の圧力がこうした結果をもたらすことは、いわば理の当然であるが、厚労省がその心理を利用して「水際作戦」を展開しているという事実は、自助努力を後押ししなければならないという社会目的とあまりにも矛盾していて、怒りを感じた。
     「貧困大国アメリカ」とセットで読みたい一冊。

  • 反貧困——「すべり台社会」からの脱出・目次

    第1部 貧困問題の現場から

    第1章 ある夫婦の暮らし
       ・ゲストハウスの新田夫妻
       ・貧困の中で
       ・工場派遣で働く
       ・ネットカフェ暮らし
       ・生活相談に〈もやい〉へ
       ・貧困は自己責任なのか

    第2章 すべり台社会・日本
     1 三層のセーフティネット
       ・雇用のセーフティネット
       ・社会保険のセーフティネット
       ・公的扶助のセーフティネット
       ・すべり台社会
       ・日本社会に広がる貧困
     2 皺寄せを受ける人々
       ・食うための犯罪
       ・「愛する母をあやめた」理由
       ・実家に住みながら飢える
       ・児童虐待の原因
       ・親と引き離される子・子と引き離される親
       ・貧困の世代間連鎖

    第3章 貧困は自己責任なのか
     1 五重の排除
       ・五重の排除とは
       ・自分自身からの排除と自殺
       ・「福祉が人を殺すとき」
     2 自己責任論批判
       ・奥谷禮子発言
       ・自己責任論の前提
       ・センの貧困論
       ・溜めとは何か
       ・貧困は自己責任ではない
     3 見えない溜めを見る
       ・見えない貧困
       ・「今のままでいいんスよ」
       ・見えない溜めを見る
       ・溜めを見ようとしない人たち
     4 貧困問題をスタートラインに
       ・日本に絶対的貧困はあるか
       ・貧困を認めたがらない政府
       ・貧困問題をスタートラインに

    第2部 「反貧困」の現場から

    第4章 「すべり台社会」に歯止めを
     1 「市民活動」「社会領域」の復権を目指す
       ・セーフティネットの「修繕屋」になる
       ・最初の「ネットカフェ難民」相談
       ・対策が打たれるまで
       ・ホームレスはホームレスではない?
       ・生活保護制度の下方修正?
       ・「反貧困」の活動分類
     2 起点としての〈もやい〉
       ・「パンドラの箱」を開ける
       ・人間関係の貧困
       ・自己責任の内面化
       ・申請同行と「水際作戦」
       ・居場所作り
       ・居場所と「反貧困」

    第5章 つながり始めた「反貧困」
     1 「貧困ビジネス」に抗して——エム・クルーユニオン
       ・日雇い派遣で働く
       ・低賃金・偽装請負・違法天引き
       ・貧困から脱却させない「貧困ビジネス」
       ・労働運動と「反貧困」
       ・日雇い派遣の構造
     2 互助のしくみを作る——反貧困たすけあいネットワーク
       ・労働と貧困
       ・自助努力の過剰
       ・社会保険のセーフティネットに対応する試み
     3 動き出した法律家たち
       ・北九州市への告発状
       ・大阪・浜松・貝塚
       ・法律家と「反貧困」
       ・日弁連人権擁護大会
       ・個別対応と社会的問題提起
     4 ナショナル・ミニマムはどこに?——最低生活費と最低賃金
       ・「生活扶助基準に関する検討会」
       ・最低賃金と最低生活費
       ・最低生活費としての生活保護基準
       ・知らない・知らされない最低生活費
       ・検討会と「もう一つの検討会」
       ・「一年先送り」と今後の課題

    終章 強い社会を目指して——反貧困のネットワークを
       ・新田さんの願い
       ・炭鉱のカナリア
       ・強い社会を
       ・人々と社会の免疫力
       ・反貧困のネットワークを
       ・貧困問題をスタートラインに

  • 現状の日本に存在する貧困の問題を、1990年から、現場の最前線にいた筆者がわかりやすく整理して書いている。問題は、セーフティーネットのほころびのため、ネットからおちてしまことと落ちると這い上がれないことであり、これをすべりだい社会といって批判している。また、貧困世帯や、ワーキングプアの数が大幅に増加傾向である。
    対策としては、貧困が自己責任ではないことを社会が認め、生活保護を受ける人の人間関係やお金などの溜めを増やす必要性があるとのこと。

  • 8月29日

    この人とは反りがあわなさそう…

  • 第三章などでは、ミクロな視点での生活保護を受けれなくて悲惨な状況に陥っているという記述がなされている。
    でもだから生活保護を際限なく受給させるべきだと自分は考えていない。

    そもそもの問題は生活保護給付ラインが客観的事実に基づいて運用されず、
    かつ生活保護を申請する人間にとって厳しい基準がある(医者の診断書が必要等)ことにある。

    自分はそもそも生活保護という制度自体廃止すべきだと思っていて、
    代わりに負の所得税を導入すれば年収という客観的事実に基づいて再分配が行われるだろう。

    奥谷氏の発言については、確かに偏りがちな意見とは言えるなあ。
    でも、その後の湯浅氏のフリーターに置き換えるとっていうのは??って感じ。
    フリーターもそれぞれだし、仮に正社員になりたかったフリーターだとしたのなら、
    正社員になるような一定の努力を怠ったというのはあるのではないかと思う。
    正社員になるということはそれほど門戸が狭くはないと思うけれども。(これは主観)

    で、第四章P108では「政治はこの間、貧困を拡大・深化させる方向で動いてきた」と記述されている。
    ん?前章で政府が貧困のちゃんとしたデータを取ってないっていう話をしていたのだから、
    確かに貧困ではないとは証明されないけれども、だからといって貧困だとも証明出来ないのでは?
    (見落としているのならごめんなさい)

    P126では「滞納などによる金銭トラブルになるのは約5%前後」
    これを少ないといっているが、多くない?って個人的には感じますが…。
    6年半で1300世帯に対して連帯保証人提供をされてきたとのことなので、
    5%が2ヶ月家賃を滞納したら(5万円と仮定)650万円。一年に100万円か。
    まあ、湯浅氏が少なくてよいよいと思っているのなら、それは良いのですけれども。

    湯浅氏はP154で労働者派遣法を非難し、国が「貧困ビジネス」を支援してきたと断じている。
    けれど、派遣が開放されていなかったら今頃海外に工場移転出来る会社は生き残り、
    移転出来ない中小企業は価格競争から脱落して潰れてしまうという自体を招くと思うのだけれども。
    派遣社員と失業者のどちらがよいかと考えたなら、前者の方が全然よいと思うのは俺だけなのかな。
    派遣禁止をしたら、韓国のように失業率を高めるだけ。

    ただ、派遣の中間マージンがあまりに多いというのは問題だと思う。
    でも市場機能がうまく働いていれば、マージンは抑えられていくと思うのだけれど、
    なぜ高止まりしているのだろうか。派遣企業同士でカルテルを組んでたりするのかな。

    貧困の方々が悲惨な状況にあるのは分かった。
    ただ、具体策はいまいち見えてこないし、生活保護のという制度に頼るのはどうかと思う。
    (貧困者を救済することが悪いと言っているのではなく、生活保護という制度自体がよろしくないかと)

    どうでもいいけれども、この人一度見かけたことあるんだよね。もしもで働いていた時に。
    まあ、湯浅氏の善意の結果、地獄への道の扉が開かれるなんてことのないように願うばかり。

  • 生活困窮者を自己責任論で批判したり、社会保障を減らしたりすることは、「溜め」のない仕組みを作り、回りまわって生活困窮者以外の生活水準、そして国力を下げることになる。貧困のスパイラル。

  • 雇用の悪化→社会保障の崩壊。今年はちょうどこの過程の真っ只中か?!
    資本主義、新自由主義は万能ではない?
    貧が貧を生み、金が金を生む現状は打破できないのか?
    むずかしい・・・。

  • 非正規社員、フリーター、ネット難民、ワーキングプア、生活保護からすべり落ちる人々、そして彼らを自己責任の一言で片付けてしまう社会、また彼らの存在する気づかない市民、いわゆる貧困ビジネスの仕掛人。本書はセキュリティーネットの修復、溜めとすべり台社会からの脱出を説き、貧困をなくし、「強い社会」を作ってゆくことを提言する。なかなか目に見えない「貧困」の存在を明らかにし、その対策を訴えたこと、かつ貧困救済の代表が書いた本として名著のひとつと思う。2008年度以降の活動について、続編を期待する。

  • ・貧困問題で湯浅誠をもう一冊。「貧困襲来」と内容は重なるが、もうすこし現在の行政、特に生活保護受給の問題点について現場からの視点で突っ込んだ内容。
    ・貧困は社会の問題であり、憲法25条に反する状態なので政治で解決するべき問題だと本書は言う。貧困が自己責任の一言では解決できないのは良くわかった。貧困という状態は自己責任でどうにもならないから「貧困」だということも。
    ・生活保護というと、受給してない俺たちにとっては全然他人事という感覚だけど、生活保護基準が下がればそれに連動して条件が下げられる制度が多数存在しているので、注視していく必要がある。
    ・これを読んだからって今すぐ何かができるわけじゃないけど、関心は持ちつづけることにする。

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著者プロフィール

「反貧困ネットワーク」事務局長、「自立生活サポートセンター・もやい」事務局長。元内閣府参与。

「2012年 『危機の時代の市民活動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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