ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313076

感想・レビュー・書評

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  •  ネットの利用状況ではなく、ネットによって政治がどのように変わってくる可能性があるかということを書いたものである。長春で共産党軍の封鎖で何十万人もの餓死者が出たという話は日本ではほとんどされてこなかったと思う。
     中国の政治とネットの関係を描いたわかりやすい本である。

  • 非常にわかりやすかった。中国通でありながら、ネットに詳しい方というのは、珍しい存在ではなかろうか。

  • 【読みやすい新書】
     中国語で「谷歌」はGoogle、「博客」はブログ、「網民」はネットユーザーのことを意味する。ネット市民は4.5億人にまで達し、若者がその6割を占めている。中国でのネット言論と民主化の関係がよく分かる。

  • レポ作成のため飛ばし読み

    中国のネット環境や、行政との関係の独自性について触れている
    具体例と実情の両方が分かりやすく書かれている

  • 「中国には言論の自由がない」と言われて久しい。しかしネット技術の発展によって個人からの発信が促進され、言論の自由をめぐって様々な局面で中国政府としのぎをけずっている。中国といえば昨年もグーグルの中国撤退や、ノーベル賞受賞の劉氏の08憲法のネット上での流布など話題に事欠かなかった。本書は中国におけるネットと言論の自由について論じた本で、2010年4月20日に発行されたばかりなのでまさに今現在の動向が分かるのではないだろうか。 

    ① 「官VS民」ではとらえきれない構図
    中国政府がネットにおいても一部の言葉について言論規制を行っているのは有名な話であろう。例えば中国の百度という検索エンジンを用いて「六四天安門事件」と検索しても、「防火長城」という言論統制システムの下に多くの検索結果は表示することが出来ないし80年代以降生まれのものは存在自体知らない人も多いのだそうだ。こうした抑圧に対し中国のネットユーザーは統制されている言葉と同じ読み方の漢字をあてて隠語として用いるなどで抵抗してきた。しかし政府VSネットユーザーという構図は必ずしも一貫しているわけではない。例えばネットユーザーが地方官僚の汚職などを批判する動きがみられるときには、政府はその言論を統制しない。むしろその官僚に厳罰を与え、「いかに政府が人民の忠実な僕であるか」をアピールするチャンスととらえているようだ。そのためネット上での告発から地方行政の不正が暴かれた例というのは枚挙に暇がない。

    ② 政府の施策
    上記のように政府に批判的な言論には統制を、地方行政に批判的な言論にはネットユーザーとの共謀を基本原理としてきた政府だが、施策はその限りではない。特に胡錦濤国家主席は国家主席就任以前の2000年からネットの言論の潜在的な影響力に注目し、国家による政治思想教育のためのネット利用を提言してきた。この提言は網絡評論員という形で結実した。五毛党とも呼ばれる彼らは一般のネットユーザーになりすまし政府に有利な論調へと世論を誘導するいわばサクラである。彼らを大々的に育成するための機関まで存在する。彼らの存在はそれだけネット上の言説の影響力を政府が重視していることの証明となるだろう。
    中国ではこのようにネットの政治への影響がみられるが、ところで日本のネットはどれほど政治に影響を与え、どれほど「論壇」として機能しているのだろうという疑問が頭によぎった。中国と日本では政府の開示性から何まで違うので一概には比較できないが、アメリカのハフィントンポストのように政治的立場を明確にしたうえで論壇的に機能しているWEBというのは現在日本に存在するのだろうか。とはいえポリティコが有料化したことが叩かれていたりするのでまだこのような類のWEBサービスはビジネスモデルとして難しいのかもしれない。

    ③ 民間の意識
    しかし中国において言論の自由化をすぐに政治の民主化と捉えるのは飛躍があるる。チュニジアを火種にイスラム圏で民主化革命が広がったさいに、中国への波及という点で多くの人が関心をよせた。しかし筆者は多くの中国人は「革命」という形での民主化は良い選択でないことを明確に認識していると指摘する。理由として第一に目覚ましい経済の持続的発展という点においてこれまで中国を率いてきた共産党を放棄するのは経済の発展も同時に手放すことであるということが挙げられる。つまり国内の経済格差は小さくないものの絶対的な経済発展が共産党の独裁をささえているのである。第二には共産党にとって代わるような代替的な党が育っていないことも理由である。これは逆説的に経済の持続的発展が欠いたとき体制維持には困難が生じるであろうことを照射すると筆者は示唆している。
    また民間の意識という点でいうならば80年代生まれ以前と以降では大いにカラーが異なる。80年代生まれ以降の若者(彼らはネットユーザーの主な層である)の特徴としてアニメなどサブカルチャーの面で日本をはじめとする多様な海外文化・価値観に触れながらも、主文化しては愛国主義教育をほどこされているというダブルスタンダードをもっている。彼らの中にはネット発祥で反日デモを起こすものもいるが、基本は政治に無関心で個人の利潤に関心を集中させているという層が多くを占めるとの研究がある。ただ個人の利潤の追求の結果、権利意識は大きいため政府や企業との衝突も起こりうる。そういった点で80年生まれ以前の「中華人民」とは不連続な思想的変化がある。


    実は筆者は七十歳近いおばあさんである。にもかかわらず備え持っている鋭敏な時代感覚とあとがきに記されたバックグラウンドから伝わる言論の自由化への熱い想いには感銘を覚える。それでいて本書の本文はネットの持ちうる影響力の大小にも冷静で、一貫した客観主義で貫かれている。長くなってしまったが個人的には是非お勧めしたい名著である。

  • ネットの力で人民が政府に圧力をかけ、政府の動きを変える事例が何件も出てきている事に驚きました。

    中国にとってインターネットとは新しいステージに向かうきっかけになったと思います。

  • たまたま、手に取った一冊。

    中国のインターネット環境は、いったいどのようなものなのか?
    何が許されて、何がNGなのか、大変興味があった。

    あまりにも日本と違う場面に、理解に苦しみそうになったが、これが中国の民主化、ネット環境の現実なのだろうと思う。

  • ネット空間は官と民のネットパワーの攻防戦の様相を呈している。中国の憲法では言論の自由がうたわれている。
    しかし現実的にはそれは政府を礼賛し共産党を讃える自由である。
    グーグルが中国から撤退したことは大きな痛手となった。
    携帯電話からインターネットにアクセスするのは3.3億人で全体の62%。
    中国大陸のネット空間はGFW、Great Fire Wallと呼ばれている。
    ソ連崩壊から中国が学んだのは社会主義国家体制を維持するためには経済強国にならなければならない、ということ。でももう中国は世界2位の経済大国になった。

  • 中国の事情がとてもよくわかった。北アフリカ、中東などの独裁国家ではないということ。ですから、網民が炎上してもそのまま革命にはいたらないこと。中国をもっと正確に理解しなければならないなと強く感じました。

  • 著者ご自身の幼少期の中国体験、それもかなり過酷な体験があるにもかかわらず、新中国成立時の期待と興奮をも体感しているためなのか、客観的な中にも暖かく中国の行く末を見守ろうという態度が見て取れます。そこに時々甘さを感じたりもしますが、現実問題としては著者の見立てのように中国が進んでくれないと、日本も隣国として大きな影響を被りそうです。

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著者プロフィール

1941年中国吉林省長春市生まれ。1953年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)など多数。

「2015年 『香港バリケード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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