百年の手紙――日本人が遺したことば (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784004314080

感想・レビュー・書評

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  • 先月だったか。谷潤こと、作家・谷崎潤一郎の未公開書簡
    288通が見つかったとのニュースがあった。妻・松子夫人
    やその妹と交わした書簡だと言う。

    作家の全集にはほぼ1巻、書簡集がある。購入すると真っ先に
    手にするのがこの書簡集だ。日記と共に、手紙はその人の
    生活を覗き見する楽しみがある。

    20世紀の日本人が遺した100通の手紙を元にして綴られた
    エッセイが本書だ。

    手紙の内容とそれが書かれた時代背景、人物等について、それ
    ぞれ2~4ページでまとめられている。

    これは時代の証言としての資料ではないだろうか。先の大戦で
    戦地から家族へ送られた手紙は勿論だが、政治家が妻になる
    女性へ送った熱烈なラブレターもある。

    本書で一番の衝撃だったのは大逆事件で収監された管野すがが、
    幸徳秋水の為に弁護士を探して欲しいと新聞記者へ依頼した
    手紙だ。

    出獄する女囚に頼んで投函したのだろうと著者が推測する
    手紙に文字はない。しかし、光にかざすと紙面には小さな
    穴が開いている。秋水を助けたい。その激しい思いが、
    ひとつひとつの穴に込められている、哀しい手紙だ。

    田中正造の明治天皇への直訴状、昭和天皇と香淳皇后から
    疎開中だった今上天皇への手紙、いじめによって自殺する
    しかなかった大河内清輝くんの遺書。

    有名・無名を問わずに掲載された手紙は、それぞれに心を
    打つものがある。

    インターネットが発達し、手紙よりもメールのやりとりが
    多くなった。それでも、数少ない親しい友達には年に数回、
    近況報告の手紙を出す。

    本書には収録されていないが、野口英世の母・シカさんの
    手紙など、手書きで書かれた文章はメールとは違った人間味
    を感じる。

  • 歴史好きの後輩からオススメされた本。

    現代までの100年の間にかかれた手紙を有名無名問わず集めたアンソロジー。
    田中正造から、原敬の妻から、特攻隊員から太宰治などなど時代も職業も全く違う人たちの本物の言葉。

    勿論作者が抜粋、編成したのであって、多少の思惑や誘導はあるとは思う。戦時中の検閲から逃れるために、書きたいことが書けない状態にあるものもある。
    それでもやっぱり心揺さぶられるのは、手紙という、自分の気持ちを伝えたい相手に正直に伝えられる道具で、大切な人たちに思いを伝えているから。
    面と向かって会ったりすると、中々ここまで正直には言いづらいですもんね。


    人というのは時代が代わっても、同じ間違いを繰り返すこと愚かな生き物だなぁと思うのと同時に、思いは変わらないんだなぁと改めて気づかせてくれる、そんね素敵な本だと思います。

  • 宮本賢治が妻百合子に書いた情熱的な短歌には驚き、2首紹介。「道の辺の草深百合の花咲に咲まししからに妻と云うべしや」「筑波嶺のさ百合の花のゆ床にも愛しけ妹ぞ昼もかなしけ」仲みどり(原爆症第1号の女優)が終戦の年6月に広島から母へ書いた手紙も新発見。「広島に着きました。こちらは静で映画も芝居も満員」。米軍は広島の空襲をずっと行っていなかったのだ。終戦の15日後に香淳皇后が平成天皇に書いた『日本が滅びずによかった』という生の声、その他歴史の裏幕を感じさせる手紙が実に楽しい。それらは歴史の裏幕の証言であり、愛する者への隠すことのない愛情表現である。究極の人間の姿がそこに示されている。1975年にサハラ砂漠で亡くなった上温湯〓という22歳の青年の支援者への手紙の言葉はその後の「自己責任」という用語の氾濫を予見している。「もし万一、不幸にして小生の身に最悪の事態が起こったとしても・・・、あまりガタガタ騒ぐと日本人はここぞとばかり非難をするだけです。」また死刑囚・島秋人(実名千葉覚)の「この澄めるこころ在るとは識らず来て刑死の明日に迫る夜温し」という辞世の歌と、「私は短歌を知って人生を暖かく生きることを得、確定後五年間の生かされてきた生命を感謝し安らかに明日に迫った処刑をお受けしたい心です」との文章が心にしみる。

  • ちょうど吉野せい『洟をたらした神』を読んでいるときにこの本の存在を知った。吉野せいが生後まもなく亡くした娘に宛てた手紙を読んでみたかった。
    100通の手紙それぞれに、まつわる人々の思いがあふれていて、期待以上の一冊だった。

  • 戦時中のものが多いので、どうしても切ないものが多く、特に前途を断たれた若者たちの手紙は、胸に迫る。こんなことは二度とイヤだ!としみじみ思う。

    個人個人の手紙も、こうして集積すると時代を表す

    。最も印象的だったのは、原敬夫人・浅から長男・貢への電報だ。
    「父昨夜、東京駅にて暗殺さる。帰るにおよばず、まっすぐ英国へ行って勉強なさい。浅」。
    この毅然、この覚悟。

  • これまでいったい何通の手紙が書かれたことだろう。
    この百年だけでも1億人が3世代。日本人ひとりが一生の間に書く手紙を平均50通として、150億通。
    それらをぜんぶ紡いでいったとき、そこに現れる歴史というのは、教科書で習うような上っ面だけの歴史とはまったく別のものであるに違いない。

    http://daily-roku.hatenablog.com/entry/2013/05/12/015351

  • 想いが強い手紙

  • 手紙は書き手の想いが詰まっている。陳情書、戦争で離れ離れになった人たち、そして命の灯がまさに消えかかった人の想い、恋愛感情、そんな手紙、書物の言葉を多数収めている。心が揺さぶられる1冊です。

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4004314089
    ── 梯 久美子《百年の手紙 ~ 日本人が遺した言葉 20130123 岩波新書》
     
    <PRE>
     幸徳 秋水  著述  18711104-1105 高知 19110124 41 /絞首刑/明治 4.0922-0923
    ♀菅野 すが(須賀子) 18810607-0724 京都 19110125 29 /絞首刑/大阪(31)幸徳 秋水の内妻
     杉村 楚人冠 随筆  18720828  和歌山 19451003 73 /明治 5.0725/新聞記者/籍=廣太郎/俳号=縦横
     横山 勝太郎 弁護士 18771115   広島 19310512 55 /衆議院議員/東京弁護士会会長
    ♀梯 久美子  作家  1961‥‥   熊本        /
    </PRE>
     
    ── 梯 久美子《百年後の光で読む 20130401 図書》19100609 菅野書簡
    ── 《図書 20130401 岩波書店》P20-23
     
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/20110614
     烈女列伝 ~ ならぬものはなりませぬ ~
     
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4106102722
    ── 梯 久美子《世紀のラブレター 200807‥ 新潮新書》
     
    (20130428)
     

  • 1901年の田中正造の直訴状から平成の弔辞まで、百通の手紙からの引用を紹介するエッセイ。
    政治犯も戦犯も普通の人殺しもいれば、文化人やその家族もいるし、事件や事故や戦争に巻き込まれただけの一般人もいる。
    手紙はプライベートなものであるけれど、個人は社会の中にいるのだから並べてみると時代が見える。ということらしい。

    とはいえ人の選び方にも言葉の切りとり方にも語り方にも著者の考えが現れるわけで、その偏りに無自覚らしいのがイマイチ。
    元は新聞の連載とのことなので文字に限りがある中で題材を掘り下げられないのは仕方ない。
    それにしたってあんまり短絡的すぎる。

    たとえば田中正造が足尾鉱毒を救えないなら似たようなことはまた起こると書き遺したことに関連して、「予言」通りのことが福島で起こっている、と結ぶ。
    いや足尾と福島の間には公害が縷々横たわっていますけど。
    幸徳秋水らの大逆事件を「冤罪の元祖」とするなど万事この調子で「昔は」「今は」と簡単にいいすぎる。

    選び方の基準がわからないのももやもやした感じを助長している。
    一部は著者も書いている通り東日本大震災に浮き足立っちゃった風なのは仕方ないけれど、「教訓」に限ったわけではないし「名言集」というわけでもない。
    「時代」や「分野ごとの人」を選んだにしては偏りがある。(兵士や文化人多め、科学者やスポーツ選手はないか少ない)
    興味に沿って選んだならそれはそれでよいのだけれど、「良いもの」として選んだのか「反面教師」として選んだのかわからないところがある。
    とりあえず親子ネタは怖いのが混じっている。
    「私の苦労」を押し付けてのしかかる母だの、息子の人格を全否定したうえで借金だけは払ってあげる父だの、これが「親の愛」として描かれるのは気持ち悪いよ。

    ただ題材自体は面白いので、ブックガイド的な使い方をするにはいいかな。
    この人やこの出来事を知りたいと思う部分はたくさんあった。


    面白かったのは太宰治の「芥川賞(金)がほしいです」というお願い。
    必死すぎて必死に見えない。必死ごっこをしているようでなんだか笑ってしまう。
    『ろまん燈籠』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4101006172にあった、
    「古い知り合いを尋ねたら昔無心した時の手紙を添削付きで出された」という話はなんか関係あるのかな。
    おんなじような無心でも宮沢賢治のは卑しい感じがする。

    近衛文麿のエピソードは、なんか見たことあると思ったら 安倍晋三の総理辞任のときのコメントに似てるんだ。
    あれが悪いこれが悪いぼくはがんばったのにりかいりょくのないせけんはわかってくれない、と。
    すごい被害者意識。いやまあ見た目と若さと家柄でこの人を持ちあげといてあっさり手のひら返す世間への批判は外れてはいないけれどもお前が言うなと。
    近衛は「アメリカ人には貴族の気持ちなんかわからないんだ、イギリス人ならわかってくれるかもしれないけど」とも言ったらしい、すごいなあ。育て方が悪かったんだろうな。

    愛新覚羅溥傑と浩の娘、慧生は「現在、中国と日本は国交が断絶したままです。しかし、中国人の父と日本人の母によって築かれた私たち一家が、真の中日友好を願う気持ちはだれも押しとどめることはできません。」と書く。
    残留孤児を育てた親たちを描いたノンフィクション、『異国の父母』
    http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4000221531の中にも、同じ心のセリフがあった。
    この人が入ってるのに「日本人が」ときっぱり言い切っちゃうタイトルは嫌だな。

    戦後の日本人はマッカーサーにたくさんの手紙を出した。
    新聞への投書ノリのぼくがかんがえるこれからのにほん、みたいのもあれば、大好き愛してる統治して!みたいなもの、戦犯の夫に子の誕生を知らせたいという切実な願いもあれば揉め事の仲裁みたいな間違ったお願い事まである。
    現人神が人間になっちゃったあと、無宗教国家の民はマッカーサーを代用神にしたということか。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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