生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315490

作品紹介・あらすじ

とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の日本の生活面様がよみがえる。戦争とは、平和とは、高度成長とは、いったい何だったのか。戦争体験は人々をどのように変えたのか。著者が自らの父・謙二(一九二五‐)の人生を通して、「生きられた二〇世紀の歴史」を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 古本屋で何気なく手にして読み始めた。
    小熊英二が社会学の英知を傾けて描いた父親の『自分史』である。社会状況や経験した事実を丹念に聴き取り丁寧に書いている、視点や文調が独特で新鮮だ。
    戦争に明け暮れた昭和の混乱期、逆境を這いながら地道に生きた父親の人生を口承で辿った一人息子の計らいに共感を持って読むことができた。
    小熊謙二の自分史であると同時に、日本が太平洋戦争に向かう時期から、敗戦、戦後の高度成長へ、そして現在までの推移を、一国民の目を通して語り表現した『社会史』でもある。
    彼は敗色濃い満州に徴兵され、敗戦になり捕虜でシベリアに抑留され、帰国して結核で隔離病棟生活を経てスポーツ用品店の経営者となり、結婚し四人家族の長男に死なれ、残った一人息子の英二を育てる。
    貧困と不運が重なり、人に迷惑をかけず補償など国には頼らず、波乱のなかを実直に生きた父の生涯を感情を抑えて冷静に描写している。
    あの時代を生きた生活者への讃歌である。
    小林秀雄賞の受賞は宜なるかなであり、自分も星五つの評価をした。

    読みながら、地方の没落家系に育ち大企業の技術者から出征後零細事業者になり、妻や祖母と貧困に苦労し一人の娘を失い、事業税を払い続け軍人恩給の受給を拒み、子供たちを大学まで出した自分の父の切実な人生を思い胸を締め付けられた。

  • 戦前・戦中・戦後を生きた一人の国民の人生を、それぞれの時代の社会背景を交えながら綴った歴史書であると言える。

    記述の対象は、小熊英二先生の父親である小熊謙二氏。
    先の戦争に学徒兵として徴兵され、満州にて終戦を迎える。その後、ソ連軍の捕虜となってシベリアに3年間抑留された。
    帰国後もなかなか安定した生活基盤を築くことができず、「死の病」と言われた結核にかかるなど、不運は続く。
    サナトリウムからの退所後、職を転々とする中でスポーツ用品の販売会社に就職し、サラリーマン生活を送る。
    結婚し子をもうけ、「一億総中流」の日本社会の一員として戦後日本を生きることになる。

    こう要約してみるとなかなか分かりにくいが、興味深く戦後史を学ぶことができる良書だと思います。

    分量が多く、読み応えあり。

  • 【小林秀雄賞(第14回)】とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の日本の生活模様がよみがえる。戦争とは、平和とは、いったい何だったのか。著者が自らの父・謙二の人生を通して、「生きられた20世紀の歴史」を描き出す。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40227601

  • とある一人のシベリア抑留者がたどった人生の軌跡から、著者の父(小熊謙二)へのインタビュ-を通して、戦前から戦後の生活模様や世相を浮き彫りにしたドキュメンタリ-。▷サイパン陥落後、東条内閣が倒れたが「背景の情報はないし、何も分からなかった」▷最初の冬は飢えと寒さの闘いだったが、二年目からは少しずつ別の苦痛、捕虜たちの間で、共産主義思想に基づいてお互いを糾弾する民主運動が始まった。「母上様お元気ですか。私もしごく元気で、スタ-リン大元帥の温かいご配慮のもと、何不自由ない毎日を過ごしています...」

  • ・いわゆる学徒兵や将校など、中産層ではなく、都市下層の商業者という「庶民」の視点から、淡々と当時のシベリア抑留を起点とした戦争体験が描かれている。
    過剰かつ感傷的な表現が少なく、全体がとても読みやすい文章で描かれており、当時の日本軍や戦争に対するある意味「冷めた」感情もまた、当時のリアルの一側面なのだろうと感じた。
    ・時代を経ていくごとにいわゆる高度経済成長の波に乗り変化する筆者の生活に、
    当時の社会全体の「希望」を感じた。
    ・・その延長線上にある現代日本は若者が「希望」を持てる国になっているか?果たして信義をもって人権を尊重する国になっているだろうか。
    そんな疑問を持ちつつ、読み終えた。

  • 心に余韻を残す本だった。

  • 非常に面白かった。どう面白かったかを説明するのは難しいけれど。非常に淡々としたオーラルヒストリー。

  • オーラルヒストリーとしてとても興味深かった。
    小熊謙ニというフィルターを通して見る戦前、戦後の生活

  • ある一般市民がどのように戦争に巻き込まれ、戦後を生きたか記録されている。

    戦時に始まり、シベリア抑留から帰国するところで終わる本だと思っていたが、彼の両親・祖父母がどのように暮らしていたかから丁寧に紐解かれ、彼がどのようにして徴兵されたか、戦後どのように生計を立て、引退後の生活をどのように過ごしたかが克明に記録される。
    いままでわたしが触れてきた戦争について描かれている媒体では、戦争中の悲惨なエピソード、玉音放送を聴いて打ちひしがれる国民、という描写に留まるものが多かった。本書を読んで、一般的な市民にとっては、戦争が終わっても、無事生き残っても、必死の思いで生還しても、特に金銭的・物理的な救いがあったわけでもなく、ただ単に戦後の貧しい暮らしが続くだけだったということがわかった。
    あとがきにもあるように、個人の体験を残すのはその体験を文章に残すことができる高学歴の者によることが多いから、こんなに素朴というか、「下の下」の人の戦争体験は初めてだった。

    あの戦争で国民の日々の暮らしは否応なく変わり、命を失った人までいたにも関わらず、力のある者が声を上げ続けない限り国が補償を行わなかったというのはショックだった。
    そしてまた、謙二による裁判での陳述は胸に迫るものがあった。何も間違ったことは言っていないのに、それにもかかわらず請求棄却されたということが、日本人として本当に残念だと感じた。

    わたしの祖父母は戦争について語りたがらなかった。わたしの祖父母にも、本書で記録されているような、祖父母たち固有の歴史があると思う。聞くことができなかったのが惜しい。


    「昔は水族館だったというアパート」という描写が気になった。

  • 時系列が行ったり来たりするので第一章で挫けましたが、少し時間が経ってから何も考えずに開くと読めました。この一冊を参考に他の昭和を題材にした本を読むと面白いと思います。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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