グッドバイ

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516473

感想・レビュー・書評

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  • 朝井まかてさんの作品には、いつも夢中になってしまう。この作品も、週末に一気読み。楽しい時間でした。
    冒頭で主人公の大浦けいが、脚を広げて足許の土を踏みしめ、海風に着物が乱れるのをものともせずに、さらに胸を張る。幕末から明治にかけての動乱期に、自身の内なる想いに突き動かされるまま、何が起きても全て自分の身に引き受けて、懸命に前を向く、そのまっすぐに生きていく姿勢を象徴しているように感じた。

    (344ページ)
    維新回天を遂げた東洋の小国がいかなる近代化を遂げるか、私は見届けたかとよ。正義だけでも力だけでもなか、日本ならではの信義でもって世界と渡り合う。そがん奇跡ば見たか

    けいだけでなく、置かれた場所で精一杯、自らの良心に従い、誠実に真摯に生ききっていく人々の様が、実にすがすがしい。

  • 長崎出身の私としては、言葉に馴染みがあり、読みやすかった。

    女ながら油商の大浦屋を継ぎ、何事にも恐れず挑戦するお慶(お希以)が格好いい。

    幕末の聞き覚えのある名の人物が大勢出てきて、幕末好きにはたまらないんだりうな。

    大浦屋の火事をきっかけに店を捨て、娘を見捨てて後妻と息子と逃亡した父親にはひたすら腹が立つけど、後にのうのうとあらわれて、大きな顔で大浦屋に居座るなんて、腸が煮えくり返るかと思った。でもそんな父親をみとる覚悟をするお慶もやはり格好いい。

    そんな父親に裏で秘密裏にお金を渡し、お慶に余計な心配をかけないように取り計らっていた弥右衛門がまたまた格好いい。
    弥右衛門だけでなく、お慶の周りには素敵な人が大勢。

    読み応えがありました。

  • タイトル縛り8作目、「く」。
    現代貿易の先駆者とも呼べるであろう人物、大浦慶という女性を本書を読み初めて知る。

    長崎にお茶というイメージも無く
    とにかく初めて知ることだらけだった。
    なんともカッコ良く真っ直ぐな女性だなぁ。


    「知識を得たい」という前提で本を読んでいる訳では無いが
    自分の知らなかった人物、世界を知ることが出来る本はやはり凄い。
    0と1の差はとても大きいのだ。
    0が1になる事によって
    私の世界は果てしなく広がる。
    やはり本は良い。これだからやめられない。

  • 歴史の人物で女性が主人公の話は久しぶりかな

    新しいことをやるには反感をかったり、そんなことできるわけがないと笑われたりする
    大浦慶は女性であるし、何よりこの幕末だと女性の社会的立ち位置はかなり低かったことが容易に想像できるので一体どれ程の蔑みがあったのだろうかと

    女の分際で
    女のくせに
    女がえらそうに

    こういったことが、当たり前の世の中だったことでしょう。その中で異国を相手に商いをしていく姿は本当に格好いいです

    船に魅せられ、時に転覆しても幕末から維新を航海しきった物語

  • 幕末の油問屋から、茶葉貿易に転換した女主人の話。
    一気に読まなかったからか、中盤なかなか展開が進まず少し飽きてしまった。
    当時の文化が丁寧に描写してあって、そこは安定の読み応え。悪玉伝の方が好きかな。

  • 幕末の動乱期に茶葉交易で大成功した、女商人・大浦慶の物語。
    周囲の批判を押しきって「これだ」と思ったものに向かって突っ走る姿が爽快!
    だけど失敗する時もすさまじくてもうドキドキしながら一気読み!商売はやはりギャンブルなのだなと思った。

  • 小浦慶一代記。幕末に異国との茶葉交易で成功をおさめた長崎の女商人、小浦慶。
    彼女が経験した興隆と凋落。そして、幕末から明治という時代を経験した彼女が見据えた未来とは。

    富国強兵へと舵を切り、他国の侵略へと突き進んでいった日本の姿を見たとしたら、彼女はどう思ったのか。幕末を駆け抜け、注ぎ込んだ情熱を燃やし尽くして明治の世をさっていったかのように見える人物の小説を読むと、ついそう思ってしまう。
    少なからず来たる新しい社会に希望を抱き、時代の荒波にに抗い乗りこなして、過ごした人生。希望を託した国家、その行き着いた先が、という感覚です。

    「グッドバイ」というタイトルに込められた小浦慶の思いは、新しい時代の到来を寿ぐもの。友助や宗次郎のような、夢半ばで散っていった人たちへの別れの意味も込めてのグッドバイであったと思います。

    良い買い物という意味合いもあるのかなぁ、と思いながら読んでいましたが、ひねった感情を入れるでなく、素直に別れのグッドバイとして読みました。別れとまた会うことを約してのグッドバイ。会うことができなくなった人たちには、彼らが見たかったものを見届けることができたからの別れの挨拶。



    題材が茶葉交易ということで、緑茶の甘みと渋さと爽やかさが云々という感じもしないではないですが、いかにも気取った風になってしまうのでやめときます。粋人ぶっても仕方がないので。緑茶は大好物なのですが、一杯の高級茶よりもたらふく飲みたいという種類の好物なので。

  • 幕末の人物伝は数多くあれど、女性のものはなかなかない。
    時代を考えると、奇跡の偉業でしかない。
    その成功と挫折のなかで、古き日本に「グッドバイ」といえる粋な女性です。

  • 幕末の長崎で、海外との交易などが珍しかった時代に本業ではなかった茶葉で交易を始めた女商人大浦慶の生き方を描いた作品。

    海外との取引がないことなど今でこそ考えられないが、幕末と言えばまだ出島にしか外国人がおらず、外国語が話せる人などひと握りしかいなかった時代。しかも、2022年の今でも、女社長という肩書きは良くも悪くも話題になるのに、幕末という170年も前に女性の主がいたということは驚きだった。
    グラバーや坂本龍馬、岩崎弥太郎など、歴史上の人物たちが慶の目線から描かれており、日本史では何々をした誰々、というように覚えているのが勿体ないと思った。彼ら自身、激動の幕末の時代に海外に行きたいという夢を持ったり、日本を良くしたいという一心で日々一生懸命生きていたことが描かれていて、当たり前ではあるが、彼らも生きていたんだよな、と思えた。
    私たちは今当たり前のように外国語を学び、外国から仕入れたものを食べている。それが当時どれほど難しく、叶えられなかった人達がいたのだろうと思うと、簡単に外国と繋がれる世の中にしてくれた昔の人々に感謝しないといけないと思った。

    慶自身は元々油商だったが、ひょんなことから茶葉の交易を始める。知らないことに対して貪欲であり続けることが、きっと彼女の勘を磨き、商人としての成功に繋がったのだと思う。
    彼女の茶葉交易の成功に欠かせないのがテキストルだったが、彼との出会いもきっと慶の熱い気持ちが引き寄せたのではないかと思った。
    彼女は本当に人との繋がりを大事にしていて、その繋がりのおかげで傷ついたこともあったが、豊かな人生になっていたのだろうと思ったし、私自身見習いたいと思った。
    慶の人生の中で、祝砲が鳴り響くタイミングが何度があり、それが何かしらのきっかけとなるように描かれていて、読んでいて想像しながらワクワクした。

    日本史には疎く、きっと幕末がわかればもっと楽しめただろうと思えて悔しかった。
    また、長崎が、遊女の衣装ひとつとっても当時の江戸の吉原や京の島原とは比べものにならないくらいの豪奢さとはしらなかった。

    恥ずかしながら大浦慶という人物を全く知らなかったが、偶然化粧品のカタログの読み物で知り、この本に出会うことが出来た。歴史の授業などは苦手だったが、こんな素敵な生き方をした方がいたことを知れて本当によかった。出会わせてくれたカタログにも感謝。

  • 幕末から明治を生きた、長崎の女商人・大浦慶の物語。そういえば『龍馬伝』に登場したような?…ていうか、『青天を衝け』と同じ時代の話なんですなぁ。今でこそ女性社長も普通だけど、女性が商売をするのに当時はさぞや苦労も多かっただろう。支えてくれる人に恵まれたというのもあるだろうけど、何より誠実で自ら率先して動くから人もついて来るし、詐欺にあっても恨む暇があれば働くのだという気概が素晴らしい。実にダイナミックで爽やかなお話でした。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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