ことり (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022648037

感想・レビュー・書評

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  • 「小鳥の小父さん」と呼ばれた1人の男性が亡くなるところから物語は始まる。
    小鳥の小父さんはその名にふさわしく、鳥籠を大事そうに抱えたまま倒れて亡くなっていた。
    そして物語は彼の人生を遡っていく。その名で呼ばれるようになったいきさつや、どのような仕事をしてどのように生きてきたかが描かれる。

    小鳥の小父さんにはお兄さんがいて、お兄さんは人間の言葉が話せず小鳥の言葉だけが話せる。そしてお兄さんが話す言葉を周りは理解出来ないけれど、弟である小鳥の小父さんだけは理解できる。
    この設定を面白がれた時点で、小川洋子ワールドの7割くらいは楽しめていると思う。
    小鳥の小父さんとお兄さんは、ずっと2人で暮らしていく。その折り目正しい生活ぶりとか、日々の質素な楽しみがとても愛おしい。
    小鳥の小父さんはその名にふさわしく、生涯常に小鳥が側にいる。それはまさに必然と呼ぶべき流れで。

    楽しいことよりも、悲しいことや切ないことや理不尽なことの方が多い人生に見える。
    派手なことは一切せず、とても地味な生き方に見える。
    そんな風に見える人が身近にもいるからこそ、人の人生にはあらゆるドラマがあるのだと思える。地味に見えても、皆それぞれのドラマを生きている。

    そして物語は最初の地点まで戻って終わるのだけど、読後は切ないながらも充足感に溢れていた。
    とても素晴らしい1人の人間の一生を見せてもらえる。そんな物語。

  • 小川洋子さんでなくては出来ない 表現力
    本を読んで居ながら その人物や小鳥 全てに息づくものの描写が素晴らしく 背景をそこで 観ている気分になれる 温かくて切ない物語

  • 社会の片隅にひっそりと、誠実に暮らす人々の物語。小川洋子氏の真骨頂だと思う。
    暮らしの細部、些細な出来事を丁寧に描いている。読んでいて、世の中の理不尽さに腹が立ってくるが、傑作だと思う。

  • 小父さん(おじさん)の半生を描いた小説。

    かなり地味な小説であるが、ちゃんと読むとモノの捉え方や擬人化、比喩化した表現がとても多彩で細かく描かれている。
    こんな地味な小父さんを題材にして、300頁も持つのかと思ったが、最後までけっこう楽しめた。
    自己顕示欲もなく、淡々と人や鳥、仕事と向き合う小父さんの生き方は、評価されることは少なく、寂しくも感じるられるが、ある意味理想的でもある。

    社会不適合なお兄さんを受け入れ、リスペクトし、共存していく姿も素晴らしいと感じた。

    心情面の描写が好きな方にオススメかも。

    中年の男性の大人しい日常を描く小説というのは、なかなかないと思う。

  • 辛かった。
    今までがストーリーテーラーの作者
    ぐいぐいと読ませられてたから
    こんなに場面展開もなく、登場人物にも思い入れられなくて
    ただ読むのが、辛い「読みたくない」それでもつづけた。何かを掴みたくてー
    合うか合わないかといえば、答えは合わない。

    人生は短い、読む本は多い!
    こんな雑な読み方もいいかもしれない。

  • 大事に読んでいきたい物語でした。社会の片隅で生きている小鳥のおじさん、そしてお兄さん。毎日、何も変わらず悪い事は起こらず穏やかに過ごせますようにと祈りに似た気持ちで読んでいました。

    • 大野弘紀さん
      小川氏の小説は

      どこか永遠と刹那が共存しているかのようで

      祈りたくなりますね

      悲しくても
      愛しくても

      小川氏の小説は

      どこか永遠と刹那が共存しているかのようで

      祈りたくなりますね

      悲しくても
      愛しくても

      2019/04/12
  • 人の言葉とは違う小鳥のさえずりのような独自の言葉ポーポー語を持つ兄と、兄の言葉を唯一理解できる弟・小鳥の小父さん。
    二人の間に流れる静か時間。そこには他者を寄せ付けず小鳥のみ存在する。

    物語全体を覆う静寂、喪失、老い、孤独。
    「幸せ」とは他人によってあれこれと決めつけられる筋合いはなく、本人がどこまで満足して生きていけるのか、深く静かに問われたような気がした。
    小鳥の小父さんが最期まで共に過ごした一羽のメジロ。
    他の者と替えることのできない、たった一羽のメジロの言葉を理解し寄り添う人生…それもまた幸せなことだと思った。

  • 読んでいる間中「どうか小父さんのこの静かで穏やかな日々が続きますように…」という気持ちだった。
    人の一生にはどうしたって悲しい別れがあり、大切にしているものもいつかなくなってしまう。だけど幼児連れ去り事件の容疑者と疑われ幼稚園の鳥小屋の掃除が出来なくなってしまったときはどうしようもなくやるせない気持ちになった。
    最後は子供の時に観た"フランダースの犬"の最終回を思い出す。天国でお兄さんや小鳥たちと穏やかに幸せに…

  • 小川洋子さんの全作品を読んだわけではないのに、小川洋子ワールド全開だと思いました。なんというか、濁りなき世界。私は日ごろ各方面に対して取り繕ってばかりだけど、取り繕えない彼らの何が悪いのかと問いただしたいくらい。

    彼らのように本当に取り繕えないまま歳を重ねることが可能なのかどうかわからないけど、取り繕えないことの何が悪いのか。悪くない。これだけは言いたい。

  • ある日突然ポーポー語を話すようになった兄とその言葉を唯一理解できる弟。
    主人公は弟である小父さん。
    2人の小さな世界で鳥を愛で何不自由なく暮らしていたけれど世間の目からしたらハズれた人たちだったのだと思う。
    慎み深い、優しすぎる兄弟。
    兄が亡くなったあと、園の鳥小屋を掃除するようになったり、司書と交流するようになるのだけれど、どちらも最終的には気持ち悪がられて?怪しまれて?交流を絶ってしまうのが悲しかった。
    小父さんはただ純粋に小鳥が好きだっただけなのに。
    ただ、世間からしたら孤独でコミュニケーション能力の足りない中年男性に対する扱いなんてこの程度のものなんだろうなとも思ってしまったから余計虚しさが込み上げた。
    解説にもあったけれど、取り繕えない人たちという言葉がぴったりだと思った。
    読み終わってからもずっと心臓がバクバクして辛かったので一旦寝た。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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