物語のおわり (朝日文庫)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022648730

感想・レビュー・書評

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  • 小さな閉ざされたまちに生まれ、大きくは変わらない人間関係の中で地に足をつけて生きていくのだと思っていた。だけど大きな夢に気づいた時、自分はどう動くのだろう。誰を説得して何を捨ててどこに行こうとするのだろう。

    山に囲まれた田舎町でパン屋の娘に生まれた少女、絵美は、山の向こうに広がる大きくて光に溢れた世界に憧れつつ、小説家になりたい気持ちを募らせていく。絵美の才能を知った友人が東京の作家の元へ修行に出ることを勧めるも、婚約者であるハムさんも絵美の両親も強く反対する。気持ちを抑えきれずに、駅に向かう絵美。そこにはハムさんが待ち構えていてーー。

    結末が書かれていない原稿が、北海道という広大な大地を舞台に、様々な岐路に立つ旅行客の手から手へ渡っていく。それぞれの状況に当てはめながら理想的な結末を思い浮かべて、登場人物たちは自身の問題解決に向けて一歩前進していく。

    特殊造形の道に進むために渡米したいと主張する娘との確執を抱える父親は、娘の将来を心配しながらも笑顔で送り出してやろう、と気持ちを整える。
    「なぜ特殊造形の道に進みたいのか。具体的にどんな勉強をしたいのか。どんな職業に就きたいのか。なぜ映画なのか。メインは特殊造形なのか、映画なのか。夢を叶えるために必要な努力とは何だと考えているのか。リミットを設けるのか。夢を叶えるために、何を守り、何を失う覚悟ができているのか。」全部答えることができたら、娘の勝ちを認めよう、と決めて。

    地道な仕事を選びキャリアを積んだ女性は、大きな夢を追いかけていた恋人との別れを、少しの感傷を伴って懐かしく肯定できるようになる。
    「僕には地に足付いていないと思える職業を目指している人を見ると、働くってことをなめんなよ。とか、おまえの夢なんて地道な仕事に就いている大多数の人の上に成り立っている余興みたいなもんじゃないか、なのに、自分は特別な才能がある、って顔しやがって、なんて、その人から否定されたわけでも、バカにされたわけでもないのに、吠えてしまいたくなるんだよね。いっぱいいっぱいの自分を守る手段だってことにこの歳になってようやく気付いたんだけど。」と話してくれた男性との出会いに助けられて。
    彼と自分が人生の一点で交わったことは間違いではなかったのだ、と少しばかり涙を流して、同じ生活に戻る。

    そして最後には、「絵美」がおばあちゃんとして、孫娘の悩みに寄り添う場面に辿り着く。
    ハムさんは東京に向かう「絵美」を連れ戻さず、絵美は挑戦も挫折も味わい、自分の判断でパン屋に戻ってきたことが分かる。
    それでもこれから先の人生で、もう一度くらい物語をかいてみそうな希望を残し、優しさと潔さと深い思慮を感じさせる、自分と向き合う小説だ。

  • 妊娠3か月で癌が発覚した智子、娘のアメリカ行きを反対する木水…。迷いを抱えた人々が向かった先は、北海道。旅の途中で手渡されたのは、未完の小説だった。そして本当の結末とは-。

    連作短編集。湊かなえらしい細かな描写が続く。冒頭の篇を読んだとき、どうしてこういう結末?と思ったけれど、続く篇を読み続けて納得。ただそれぞれの登場人物たちに共感できるかというと、少なくとも私はNOだった。
    (Ⅽ)

  • 夢を追い求める人。
    夢をあきらめる人。
    夢の手助けをする人。
    夢への歩みをを見守る人。
    夢を見つけようともがく人。
    夢が見つかるまで
    静かに、ただひたすら静かに
    一歩一歩を踏み出す人。

  • 2018126 おそらく作者の思惑通り評価が分かれると思う。自分の感想としては、最初と最後だけでよかったのでは。になります。途中凄く嫌になったり、喜んだり、作者の思惑通りの気分の流れだった。そういう意味ではまた読みたい作家です。

  • 結末の書かれていない未完の小説が旅人から旅人へと読み継がれて行く。
    読み手によって想像する結末は当然違い、それぞれの生き方が出ていて面白い。私はどう読むだろうか。最後にじっくり考えてみようとおもったら、結末描かれていた。おばあちゃんになった絵美は相変わらずほんわりだけど、また小説を書いてもらいたいな。

  • 気楽に読めます。ミステリーではないです。
    1つの物語があり、それぞれの短編の主人公がそれを読み繋いでいきます。
    その物語は完結しておらず、悩みを抱え結論が出せずにいる主人公たちがその物語に自分を重ね、おわりを考えます。
    何かを選択しなければいけないとき、結果、後悔したり、うまくいかないこともあって、それでも向き合わないといけなくて、悔やんでも悩んでも、現状からスタートするしかない。このあたりのそれぞれの気持ちの描き方が上手いなと思います。
    最終章があることでスッキリとしてよかったなと思います。
    ただ、中盤のスローテンポが少し退屈さを感じてしまった。

  • 小説の中では珍しい方なのか、新たな良さを感じた。
    萌が人間に失望するには、人間と世界の関係などについてまだまだ経験不足で、何も知らないんじゃないかと個人的には感じた。

  • とても面白かった。
    なによりも湊かなえさんらしくない気持ちのいい終わりかたが本当に良かった。
    ハムさんと絵美さんの2人の関係もとっても微笑ましくて良かったし物語の本当の結末にもホッコリできた。
    いろんな夢を追いかけていたそれぞれの物語もそんなにたいしたことのない自分の若い頃の夢と少し重なる部分もあって色々思うところがあった。
    とっても素敵な絵美おばあちゃんの物語でした。

  • 全く同じ物語でも、ひとによって受け取り方・要約する部分・結末の紡ぎ方が異なっていて、自分ならどんな結末にするだろう?と考え、面白かった。
    なにより北海道に行ってみたい!!

  • 北海道の話と聞いて気になって読んだ本。
    北海道に住んではいるけれど、道内旅行をあまりしない私には、行ったことのある場所は少ししかなかった。けれど、北海道はいいなぁと思う本だったし、いつかゆっくり一人旅してみたいとも思った。

    自分の思いを整理して、前へ踏み出そうとする登場人物たちの未来を想像するのが楽しい。
    読後感が爽やかで、イヤミスではない湊かなえさん作品も好き!

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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