思考の整理術 問題解決のための忘却メソッド

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023304628

作品紹介・あらすじ

記憶が、「忘却」→「整理化」→「構造化」されると、抽象思考力(複数の事象を一般化すること)が高まる。抽象思考力が身に付けば、新しい問題を解決できる能力が得られる。忘れることを活用し、思考力や問題解決能力を高め、仕事や人生で幸福になるメカニズムを解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 独創的な思考や、創造的な思考に頭を切り替えるとき、記憶は足を引っ張る

    宣言的記憶(陳述記憶) 文章や言葉を使って表せる記憶
     意味記憶:ものの意味を記憶する場合 ex. リンゴとは何か? 愛とは何か?
     エピソード記憶:頭の中の日記やアルバム

    非宣言的記憶 身体で覚えている、スキルの記憶

    スキルの記憶 ex. プレゼンテーション能力
    自信がありそうに堂々と立つこと、指し棒は素早く力強く動かし、指したところにピタッと止めること、手はまっすぐに伸ばし、自信ありそうに見せること

    フィードバック制御 反射 原因から結果へ時間が流れる順方向
    フィードフォワード制御 結果から原因を逆方向に推定する働き
    フィードバック誤差学習 失敗は簡単に忘れるのではなく、「なぜ」と問いかけてから忘れるべき

    情報が溢れている時代に大切なのは、インターネットで簡単に入手できる意味記憶をたくさん溜め込むことではなく、膨大な情報を駆使して考える力を発揮できることや、考えたことを実現するために周囲の人を動かしていくことのできる力だ

    余分な意味記憶は忘れてシェイプアップする一方、スキルの記憶をしっかりと脳の中に記憶として刻み込み、あたかも身体が覚えているかのように意識せずとも使えるようにすることが大切。記憶は覚えるものではなく、実践の場で使えるものであることが重要

    いやなことやつらいことをそのままにしておくと不満や愚痴になる
    問題を解決すれば、つらい記憶や悲しい記憶は消えて行くのに対し、問題が解決できないままに先送りをしていると、悲しい記憶やつらい記憶は消えないどころか、記憶の中でより大きなものへと変化を遂げていく。しかも、過去のつらい記憶、悲しい記憶を放置すると、時間の経過とともに、さらに、解決が難しくなっていく
    「明日と自分を変えることはできるが、過去と他人を変えるのは難しい」
    失敗の原因を悔やんだり、忘れたりするのではなく、失敗の原因を「なぜ」と追求し、「次にどうすればうまくいくか」を考えること。フィードバック誤差学習だ。そして、次に上手くいけば、失敗もただの笑い話、懐かしい思い出、ないしは美談となる

    多すぎる知識や経験が、新しいアイデアの邪魔をすることもある。このため、記憶を溜め込むよりもむしろ余計な記憶を捨て去った方がいい

    積極的に忘れるために
    記憶の5S
    整理
    整頓
    清掃
    清潔
    しつけ

    断片的な知識をいくら詰め込んでも、考える力にはつながらない。考えるためには、断片的な知識を整理して、体系化・構造化していく作業が欠かせない

    成功の喜びはただのエピソード記憶だが、「こうすれば成功する」という成功の手順を身につけることができれば、それはスキルの記憶として身体に刻み込まれることになる

    失敗にしろ、成功にしろ、そこに反省がなければ、それはただのエピソード記憶に過ぎない。そこに「なぜ」という視点が加わると、記憶の全体としての構造が体系化され、スキルの記憶へと変わるから、エピソード記憶自体は覚えていてもいなくてもどちらでもよいものとなる。どちらでもいいようなものは、当然、忘れることになる

    まぐれ当たりは忘れなさい。さもないと運任せの気分屋ゴルファーに転落しますよ(ナンシー・ロペス)

    成功の記憶にとらわれ過ぎない
    エピソード記憶をスキルの記憶へと転化すること、外部に記憶しておくことが有効

    知識や経験はある程度詰め込んだら、記憶の5Sで思い切って捨て、そこから体系的・俯瞰的に考えることによって、初めて独創的なアイデアが生まれてくる

    個別の記憶への執着を捨てれば、思考や思想は全体へ向かい、システム思考力や、大局的俯瞰力や、他人の気持ちに立つ力、幸せに生きる力を手に入れることができる
    記憶をお金や若さや自我に読みかえることもできる

  • 【要旨】
     記憶力がPCに代替された現代に、必要な個人のスキルは問題発見・解決能力。故に抽象的思考力を鍛える必要がある。覚えるのではなく忘れることで、抽象化された「創造のための記憶(=スキル記憶)」を得て、使いこなす重要性とそのメソッド(方法)を問く。

    【要約】
    ・問題発見、解決力こそが現代に求められているスキル。
    ・記憶力至上主義から脱却すべし。
    ・記憶には、意味記憶・エピソード記憶などの宣言的記憶とスキル記憶(非宣言的記憶)の三つに分類され、実用的なスキル記憶の獲得を目指す。
    ・スキル記憶の習得には、理想と原因の差を明確にしてフィードバック制御を可能にするフィードバック誤差学習が不可欠。
    ・失敗と成功の記録をつけ、なぜそうなったのかを分析し、試行錯誤を繰り返すことでフィードバック誤差学習の効率を格段に上昇させる。
    ・忘却→整理化→構造化(忘却メソッド)で、問題発見、解決のための抽象思考力が高まる。
    ・具体的には「記憶の5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」を行う。
    ・考えることへのこだわりを持つ。


    【実践リスト】ー整理の鬼~わたしたちの脳内はゴミ屋敷~ー
    □記憶の5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を行う。
    □ステップ①「清掃」:書き出す。マインドマップやKJ法で一度頭の中にある思考や記憶を外に書き出して「見える化」する。
    □ステップ②「整理(分類)」:意味記憶とエピソード記憶・体験を「成功」「失敗」「ネガティブ(嫌な記憶、辛い記憶、悲しい記憶)」「ポジティブ」に分類して記録。※分類・カテゴリーに関しては多角的に。
    □ステップ③「整頓(分析)」:分類した記録を更に5W1Hの観点「なぜそうなったのか」「そうならないためにはどうしたらいいか」「もう一度再現するにはどうしたらいいか」「そうなった時間要因・環境要因はなにか」「改善点は何か」から分析し、理想と現実の差・フィードバック誤差を「見える化」する。(※分析のポイントは、多面的、多角的、多視点に)
    □ステップ④「清潔(取捨選択)」:分析の結果、自分とは関係ない記憶、興味を惹かれない記憶、自分にとってマイナスの影響しか与えていない記憶を「ごみ箱」に捨てる。(※自分の場合は、舌打ち、「○ね!」とほとんど反射的に出てきてしまうような過去の記憶をごみ箱に捨てる。)
    □ステップ⑤「躾(試行錯誤とステップサイクルの徹底)」:5Sのサイクルを徹底し習慣化する。
     □毎日の日記で日々の感情の整理整頓、一週間、一か月、一年間ごとの日記を付けて、定点観測。咄嗟のフラッシュバックや反応の記録(※ワンノートにページを作り、何か感じたら、アイホンのメモでもメモ帳でもいいからその場でメモすることにする)
     □「疑問に感じたこと」「なぜ」は思いついたその場でメモ。(※後から「WHY?」OneNoteページに記録)
     □読書.動画視聴などのインプットをしたらセットでアウトプット。(※アウトプットのフォーマットを体系的・構造化の観点から作る)
    □アイデアが浮かんだらその場でメモをとる(※そのために風呂にはスマホ、就寝時は枕の下にメモ帳とペン、他はズボンのポケットにメモ帳を入れておく)

    【感想】
     フィードバック誤差学習。この言葉にこれまでの学習概念を覆されました。公式や単語を暗記する学習しかしてこなかった自分が、ちっとも自分の頭を使っている感覚がしなかったのはこのためっだったんだなと理解できました。これは少し前に武井壮さんから学んだ「フォームは結果であって原因にあたる力の入れ方や体の動かし方を考えることが先」がまさにこのフィードバック誤差の内容で、日本特有の単一型正答学習の弊害が“自分の頭で考える”ことを阻害した結果なのだと感じます。

     自分のことを考えても、長時間考えることができない。今、小学生の算数をやっていても「分からない状態が耐え難い苦痛」に感じてしまいます。すぐに答えが知りたい。でもそれは考えることの放棄になる。リハビリとして「答えがすぐにわからなくてもいい」から「答えを見ないで自分の頭で考える」ことを実施しています。情けない。でも本当に、このレベルから始めないといけないくらいに自分の日常から考えるが抜け落ちているのだと自覚できたことがまず一歩なのかなと思いました。

     特にこの本を読んでいるときに聞きかじった「動詞を動作化する」(浅田すぐる)を基に、この本の内容をどうやって実践していくかを考えると途方に暮れてしまいました。言葉は沢山知っているはずなのに、ちっとも動作に落とし込めない。自分のなかで嚙み砕いて消化吸収するためのアウトプットが大切なのだとわかりました。

     「整理整頓」は子供の頃から言われている言葉ですが、この言葉もちっとも実践できていない。『超ミニマリスト』(四角大輔)のエッセンス“軽くする”は、本書では「記憶の5S」として、最後に自分の脳を軽くするに接続されています。脳はすぐにゴミでいいっぱいになる。情報過多の現代なら尚更で、もうほとんど自分の頭の中はゴミ屋敷だと思うとぞっとしますね。わたしたちは自分の頭を自分で管理運営し躾して行かなくちゃならない。でもそれは案外楽しいことでもあり、先ずはこのゴミ屋敷を片づけ始めました。

     四章までメソッドについてのハウトゥーと理解のための説明が書かれていますが、五章の「忘れるほど生き生きと生活できる」では「幸福は利他的」であるとして、記憶も幸福も断片・細部に執着することから解放されると、全体的・俯瞰的・構造的な世界理解の結果として幸福に至れるとしています。この「幸福論」はある意味とても端的にまとめられた簡潔な幸福方法論ではないのかとも思います。仏教で「すべては幻」と解くのも、この究極の忘却(=理解)を指しているのだろうなぁと思うとかなり芯を食った概念だと思いました。

     そこまでは、と思ったとしても忘却することが「過去の記憶に基づく不幸を減少させることができる」と実感出来れば、忘却の必要性を理解できると思いました。

     本書は「積極的に忘れる」こと、その忘却メソッドが、抽象思考力を高め、問題発見・解決能力を養うという内容でした。このメソッドを実践に落とし込みやすいよう、さらにマインドマップの学習と実践、記録ノートとその実践をやっていこうと思います。

  • 失敗と成功の可視化こそが人間力を磨く。
    日本の記憶重視の教育はいつになったら変わるんだろうか。

  •  著者・前野隆司氏は工学博士でロボティクス、システム工学が専門とあって、忘却のメカニズムを、「フィードバック制御」「フィードバック誤差学習」「フィードフォワード制御」という理論で説き明かす。
     若い時にはフィードバック制御でどんどん記憶していたが、年を取るとその速度・量とも衰える。そうなると、「フィードバック誤差」(理想と現実の差)を埋めるために学習を繰り返すことにより、知恵を働かせるというフィードフォワード制御ができるようになるという。
     年をとって記憶力が衰えたと嘆く自分がいたが、大局観を持って判断するためには、不要なものを忘れるという発想の転換も必要だと理解した。
     逆にいやな記憶は忘れようとしても、消し去ることができず、何かのきっかけでよみがえってくる。これに対しては、「記憶の5S」で整理・整頓して現時点での対応策を考えることにより、記憶から切り離されるという。
     前野氏には「幸せのメカニズム」という本も著しており、「幸福学」も提唱している。上手に忘れる技術を身に付けることが幸せの近道かもしれない。
     

  • ・次はこうする で
    忘れよう。

    フィードバック制御
    フィードフォワード制御

    テニスなら思った通りの場所にボールを打つために、何度も誤差を感じながらスキルの記憶を修正して記憶していく。

    同じように、新しいスキルもフィードバックとフィードフォワードで学習できる。

    思い通りの動きができるまで何度も忘れる。
    次はこうする
    次はこうする
    次はこうする

    ・書いて忘れよう
    書くと安心して忘れられる。

    紹介されている方法では、gmailがあった。
    ただこれが出版されたのは2009年なので。

    今はEvernoteでも、メモアプリでも好きなものを使って書きまくればいい。

    ただし、「次はどうするか」を考えて導き出す作業机として使って安心して忘れるようにしよう。

  • フィードフォワード制御(こうやったら、ああなるだろう。やってみたらこうだったから、今度はこうしてみよう。)を目指す学習のための記憶。ああすればよかった、ここでこう選んでいればの後悔はそれなりに有効な思考実験。
    記憶に関しても、5S、整理、整頓、清掃(排出する)、清潔、躾(共有・習慣化)。嫌な記憶外に出して5Sの対象にする。マインドマップ、KJ法を使う。
    失敗の可視化と共有方法としての、ブログ。
    岐路に立ったとき、なるべく早い時点で、どの道を選ぶかを自分の頭で(全体構造を)俯瞰的に考え、自分の責任で選び、納得する必要がある。そのうえでやっていることを好きになる。
    スキャナで取りこんで誰かわかる方は訳してください。とブログにあげておく。
    変化を知覚する(それを伝えられる形にする)力が重要
    幸福になるフェーズ3つ 不幸を忘れること、そのために問題を解決すること。高い目標に向かい成長する。記憶の意味がつながり全体システムがシステムとして腑に落ちる状態。やさしく朗らかで、自分勝手ではなく、楽天的で、親切で、いつも微笑んでいる。人の気持ちがよくわかり、おもんぱかることができ、貢献する、自己犠牲的な人。

  • 『思考の整理術』を読了して、僕は、やっぱり情報の記憶が苦手だと再認識しましたし、情報を記憶することの呪縛から解放された気もします。勝手に放棄していた感も否めませんが(笑)。
    これからも「体験」「感情」を「記録」しながら、日々の生活を楽しんでいきたいと思います。その点では『壇蜜日記』に触発されて始めた日記。今、66日が過ぎましたが、100日、1年、・・・と記録を積み重ねていきたいとも思いました。

  • 知識や経験はないよりはあった方がいい。何ごとも知らないよりは知っている方が圧倒的に打ウリだし、経験を通して身に着けた知識は何ものにも代えがたい貴重な財産となる。
    多視点からの可視化
    求められる能力は時代とともに変化する。

  • 【「蘭岳」第122号(2010)による「私の推薦図書」記事の転載】

    勉強にも仕事にも記憶は必要であるが、この記ι憶には3種類があり、豊かにたくましく生きていくためにはスキルの記憶(身体で覚える記憶)が最も重要である。更に一般的に知識として認識されている意味記憶はより高度な記憶の活用においては邪魔になることもあり、敢えてこれらを忘れる努力が必要であると説く。つまり社会で必要とされている考える力の磨き方を解説している書籍で、パターン化学習をしてきた学生にはぜひ読んでもらいたい。

    もの創造系領域 藤木裕行

    図書館の所蔵状況はこちらから確認できます!
    http://mcatalog.lib.muroran-it.ac.jp/webopac/TW00335751

    #「蘭岳」内の「私の推薦図書」コーナーに掲載された記事を許可をいただき転載しています。

  • 「忘却」についてプログラム工学の立場から詳しく書かれており、記憶を外部(PC)に移し、覚えたらなかなか忘れない記憶スキルの使い方を多く身につけられるようにする、というアイデアは面白かった。
    あえて忘却を大事にすることで脳内の整理がつきやすい、というものだった。
    しかし言っていることは繰り返しが多く、単調な印象をもった。

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著者プロフィール

慶應義塾大学SDM研究科教授・ウェルビーイングリサーチセンター長、一般社団法人ウェルビーイングデザイン代表理事。1962年山口県生まれ東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、キヤノン入社。カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年より現職。『幸せのメカニズム―実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『幸せな職場の経営学』(小学館)、『ウェルビーイング』(前野マドカ氏との共著・日経文庫)など書著多数。

「2023年 『実践!ウェルビーイング診断』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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