- Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
- / ISBN・EAN: 9784035508502
感想・レビュー・書評
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スカイハイツマンションにすんでいる雨森さんは、60歳くらいで黒い服を着ていて、他の人と関わろうとしない。
でも子供たちは雨森さんに関わる不思議な体験をしているんだ。
引っ越してきたばかりの頃、ぼくはもとの横丁のことばかり考えていたんだ。すると遠くにいた雨森さんが、滑り台を示したんだ。夜にぼくが滑り台にいくとそこには指揮棒があった。目の前はちょうどマンションの窓。ぼくがマンションの窓に向かって指揮棒を振ると…/『スカイハイツ・オーケストラ』
いけなくなった海水浴のことを考えていたおれは、雨森さんに「きみはボートがこげるかい?」って聞かれたんだ。雨森さんに言われたマンションの空き部屋に行ってみたんだ。その扉を開けるとそこは海だったんだ。/『青みどりのかぎと麦わらぼうし』
わたしが前に住んでたとこには海があったん。引っ越して来る前に最後に一人で海に行ったんよ。すると黒い服を着たおじさんに「あそこにボートをこげる男の子がいるよ」って言われたんよ。/『白いボートと麦わらぼうし』
すごい雨の日があったじゃない。わたしがマンションの廊下にいると雨森さんが「公園の池はどうなっているかな」って言ったのよ。だから私長靴を履いて公園へ行ってみたの。すると池にはナマズがいてね、わたしたち友だちになることになったの。/『ナマズの恩がえし』
その日はぼくひとりで留守番だったんだ。廊下から雨森さんの声がしたと思ったんだけど、そこにいたのは女の子だったんだ。そしてぼくの部屋に友達が入って出られなくなってるなんていうんだ。/『水玉もようの…』
ええっとね、ぼくチョークを持って公園に行ったんだ。そうしたらベンチに雨森さんがいて、鳩たちにパンくずをまいてたの。雨森さんはぼくが落としたチョークを持って鳩たちに言ったんだ。「このチョークはもっともっとひろいところで、まあっすぐな線をひきたいって思っているんだ」そうしたら、鳩がチョークを加えて飛び立っていってね…/『まあっすぐな線』
私のお母さんはデザイナーなんだけど、夜は遅いしお酒飲んでるし、デザイナーって変わった人たちよね。ある夜私はお母さんと喧嘩して部屋に閉じこもったの。どうしても気持ちが晴れなくてベランダに出たら私の影が公園に写っていたわ。そして同じようにベランダに居る人の影が公園に写っていたのよ。/『真夜中のコンニチワ』
わたし、雨森さんにもらった紙飛行機を作ったの。それはそれはとても高く飛んだのよ。そしてわたし、その黄色い紙飛行機に乗って…/『黄色の紙ひこうき』
みんなの話を聞いていると、雨森さんはみんなに不思議なことをしているのに、そので会うと、自分じゃないって顔してるよね。わたしは雨森さんが「おじさんはね、お礼を言われたり、褒めたり褒められたりするのが苦手なんだ」って言うのを聞いたことがあるの。/『迷子のお礼のチョコレート』
不思議だなあ。今日こうしてみんなで滑り台のトンネルで雨宿りしなければ、みんなが雨森さんが出てくる不思議な夢を見ていたなんてお互いに知らないままだったね。そんな雨森さんはむかしは…/『雨森さんのこと』
おやおや、人間の子供たちが面白いはなしをしていたねえ。あっしらヤモリだってその飛行機とやらに乗ってみたいもんだねえ/おまけ『下の景色』
そしてその夜、マンションから引っ越しをする雨森さんは、自分を送り出すマンションの子供たちの心遣いを感じることになった。
人と関わらない、お礼や褒め言葉が苦手な雨森さんは、ついに「ありがとう」の言葉を口にするのだった。
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一つ一つのお話が本当に素敵なファンタジー。
子供たちに不思議な経験、それは夢だったのかもしれない、でも子供たちの寂しい気持ちやつまらない気持ちを読み取って、素敵な夢だったと思える経験をさせてくれるなぞのおじさん。なにより謎なのはその雨森さん自身。
子供たちはたまたま同じマンションではあったけれど、いままで知らなかった雨森さんのお話を通して、お互いのこともよく知るようになっていきます。そして子供たちの変化は、最大の謎である雨森さんの心も変えます。
一つ一つのお話で、子供たちの生活や、仲良くなっていく様子が見えてとても素敵なお話です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
そんなに不思議なことがあるんだなぁと思った。
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小学生の頃に読んだ本。この本に出逢ったおかげで読書が大好きになりました。私の本の原点。
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こどもに必ず読んでほしかった1冊。
読書感想文に向けて再度。
こどもの頃何度も読んだ本。さいごが、すばらしい。
こどもも、岡田淳さんの本が大好きで嬉しい。 -
子どもの頃から大好きな、岡田淳さんを久々に。
今でもやっぱり胸に染み込む。
子どもは楽しい、けれどしばしば苦しい。
岡田さんはそれをよくわかっていて、明るい物語の中にもいたわりや呼びかけを込めてくれている。
子どもの頃の私は、それを感じ取っていたのだと思う。
この作品のラストは、大人の方が泣く気もするけどね…!泣いた! -
構成が素晴らしい。子どもたちが雨宿り中に、同じアパートに住むおじさんについてぽつぽつと話し出すというストーリーなのだが、異なる子どもたちの語り口が重なりあうことで、おじさんの人物像が少しずつ浮き彫りになっていく。
ファンタジー要素がうまい具合に現実と溶け合っていて、読者が「もしかしたら、ありえるかも」と思えるような作りになっている。
身近なファンタジーを描いた作品の中で、これほど良い作品はないのではないだろうか。 -
雨宿りに入り込んだ滑り台の下で、子どもたちが語るちょっと不思議な雨森さんのお話。
子どもたちの描き方が巧いです。ごく普通の子たちって書きにくいと思うんです。いい子いい子にするなり、変に斜に構えたりするのは判り易い書き方なんでしょうが、ちょっと寂しい気持ちやちょっとのイタズラ心などの微妙な心の揺れを何気なく描かれ、それがちょっとした不思議な出来事で消化されていく様がよかったです。雨森さんの人嫌いな雰囲気が却って、子どもたちの心の中にズカズカ入っていかない距離の取り方に見えて、素敵なんですね。まあ、ちょっと無愛想ですが。
また、異年齢の子らが語り合うことによって相手の今まで知らなかった顔を知るようになるのも面白いです。ちょっとしたイロイロが詰まった素敵な本でした。 -
もっとお話を聞いてみたい。雨森さんはだれもいないところではなしかけると話してくれるんだなあ。