同調圧力 (角川新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040823027

作品紹介・あらすじ

自由なはずの現代社会で、発言がはばかられるのはなぜなのか。重苦しい空気から軽やかに飛び出した著者たち。会社や友人関係、家族など、さまざまなところを覆う同調圧力から自由になれるヒントが見つかる。

感想・レビュー・書評

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  • 望月衣塑子さんは知っているが、前川喜平さんとマーティン・ファクラーさんは何か本を読みたいと思っていた。
    メディアの問題を考えたかったこともあり、本書は自身の要求を満たすのにちょうど良かった。

    この本は「安倍政権が、いかにメディアや教育に介入してきているか」などをテーマにした議論をまとめたもので、
    議論から浮かび上がってきた言葉が「同調圧力」だった。

    福島での汚染水放出に対する中国人の反応は、まさに「同調圧力」によるもので、中国の政権やメディアのコントロールが強く感じられる。
    「日本の海産物は食べたくないですか?」に対し「その質問には答えたくない」と口を閉ざすのも同調圧力に屈しているからだ。

    日本でもコロナ禍でのマスク着用強制やライブハウス・飲食店の営業非難など「自粛警察」が多発した。
    これは歪んだ正義感によるもので「同調圧力」とは若干違う感じはあるが、個人攻撃がエスカレートする点では同じだと思う。

    ・第一章 記者の同調圧力(望月衣塑子)

    望月衣塑子さんは、菅官房長官から露骨に嫌がらせを受けていたが、
    それよりも同じ側にいると思っていた他社の政治記者から迷惑だと言われたことに憤慨している。
    「お前がでしゃばるから、菅氏が機嫌をそこね、ぶら下がり取材の情報が取れなくなった」のがその理由だったらしい。

    内閣情報調査室からの脅しも受けているし、官邸から望月記者を名指しした東京新聞への申し入れが9回も来ている。
    こうした圧力がかかるから、記者クラブに属する政治記者は、政治権力側からの監視対象にならないよう"気をつけて"仕事をしている。

    朝日新聞の南彰さんが、
    「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料で、その作成を怠ったことは国民への背信行為だ。」
    と、そういうことをおっしゃった政治家(菅義偉のこと)もいるのですが、どなたか官房長官はご存知ですか?
    と質問し、直接菅官房長官を攻撃したことがある。
    政府側が「あいつ(南彰)は何とかならんのか」と言った相手が、他社の記者クラブの面々だったということが「同調圧力」の環境ができている証拠である。

    このような状況は記者クラブ制度がもたらした弊害の最たるもので、権力の乱用の見張り番というメディアの使命を著しく損ねている。
    「政府の方針にケチをつける者は許さない」という、どこかの国みたいな社会にならないように、各社の記者達の奮起を望みたい。

    ・第二章 組織と教育現場の同調圧力(前川喜平)

    前川喜平さんが挙げるのは、文科省の体質と、安倍政権の教育への乱暴な介入。

    文科省に限らず、各省庁で不毛な仕事とされているのが「国会答弁づくり」。
    この仕事を振られると、まず「ウチじゃない」と断る理由を考え押し返すので「振り揉め」という言葉ができていた。
    余計な仕事は作らない慣習が根付いているので、安易に仕事を受けるなという「同調圧力」があるという。

    もう一つが、道徳教育の教科化で、検定に合格した教科書を使わせ評価まですること。
    特に、安倍内閣が"教育勅語"の精神を復活させることに傾倒していることに憤りを感じていた。
    戦前回帰の愛国主義、国や家庭のためなら個人を犠牲にするのが美徳であるという精神の押し付けに危機感を覚えた。

    私も日本の文化を大切にすることに反対はしないが、
    2017年の道徳教科書検定について、「パン屋」を「和菓子屋」に書き換えさせたことを覚えている(くだらないと思った)。
    「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」つまり愛国心に関する扱いが不適切として修正させられた内容がこれだ。
    今思えば、この道徳問題も某宗教の影響を受けており、国家による国民のマインドコントロールの手段として使おうとしていると感じる。
    学校の先生たちは教育委員会や文科省の決め事には逆らえないので、同調圧力を受けながらの道徳の授業をしていると思うと気の毒だ。

    ・第三章 メディアの同調圧力(マーティン・ファクラー)

    アメリカとの比較になりがちだが、日本のメディアを客観的に論じている。
    ファクラーさんは、中国では頻繁に取材が妨害され何度も拘束されたという経験がある。
    アメリカでもトランプによってニューヨークタイムズやワシントンポストがアクセスを断ち切られ、最高権力者にフェイクニュースとののしられてきた。
    ロシアでは権力によってジャーナリストが摘発され、命の危険にもさらされる。

    日本のジャーナリストの環境は恵まれているのに、日本の記者たちは何に怯えているのか疑問を呈している。
    その理由としてたどり着いた結論は「記者クラブの制度が生み出す同調圧力」に怯えているということだった。
    逆らうと仕事を奪われるという恐怖心を植え付けられている。

    日本では役所の取材になると読売新聞でも毎日新聞でも同じような記事になる。
    アメリカではそのような誰が記事を書いているのか分からないような新聞は売れない。
    アメリカでは記者の署名を入れ、主語が「I」の記事を書くようになってきた。
    主観的な記事で信頼性を競い合っているので、他社との差別化となる取材に力を入れ独自性を出している。

    対して日本は取材対象者との円滑なコミュニケーションを維持するのが良しとされ、
    受け取った大本営発表をそのまま記事にし、その裏で並行して実際に起きていた"事実"に踏み込めないでいる。

    この体制は、民主党政権の時には出来上がっていた。
    福島第一原発事故の時も、メルトダウンしていた事実や、放射線物質の拡散データも隠され続けた。

    事故から3年も経って朝日新聞の特別報道部が報じた「吉田調書」のスクープ記事は大きな波紋を広げたが、
    これはその時、原子力発電所の輸出を推進していた安倍首相にとって大迷惑だった。
    当時ことあるごとに朝日新聞を名指しで批判していた安倍首相は、読売新聞と産経新聞に「吉田調書」のコピーをリークし、
    朝日新聞の記事のミスを徹底的に攻撃させた。

    残念だったのは、なぜか朝日新聞はここで特別報道部を縮小し権力監視を弱めてしまったことだ。
    内部で何があったのか知らないが、権力に近寄り過ぎた多くのメディアの同調圧力に屈したようにしか見えない。

    ・座談会 同調圧力から抜け出すには

    この問いに答はない。
    人は死の間際に「じぶんがやりたいことをやっておけばよかった」と悔いるのだという。
    親が言うから、組織の方針だから、と他人のせいにする言い訳に従って行動している限り同調圧力から抜け出せない。
    自分の行動は、自分で考え納得し判断したものかを振り返ってみるといい。

    私も「本当はこうしたい」と思っていても「同調圧力」軍団と戦うパワーがないから我慢してしまいがちだ。
    一緒に戦う仲間を見つけることが必要だな。

  • 安倍政権とその支援者から徹底的に嫌われていた東京新聞社会部の名物記者、望月衣塑子氏の主張をちゃんと読んでみよう、と思い立って読んでみた。

    結論としては、とてもまともなジャーナリストで好感を持った。「記者クラブ」の排他的体質や、アクセス・ジャーナリズムが権力に取り込まれる危険性も、具体例を通じて、ひしひしと感じた。

    アメリカ礼賛の意図はないが、権力とジャーナリズムの緊張関係は、アメリカの方が100倍くらい高い、という共著者ファクラー氏(元ニューヨーク・タイムズ東京支局長)の指摘は、意外だった。
    権力寄りで有名なFOXニュースですら、ジャーナリズムそのものが攻撃を受けていると感じれば、攻撃先がCNNであっても共闘するのだそう。

    共著者の中の元文科省事務次官、前川喜平氏のパートは本の作り上、無い方が読みやすかったと思う。どうしても、『新宿の出会い系バー』にフィールド・ワークに行ってました、というとても苦しい答弁が頭にあるので、主張が全く頭に入ってこない。「時の政権に嵌められた」的主張をしているが、反政権的意図のジャーナリズムを使って、苦しい反論を試みた、という印象なので、どうしても、政治・行政と一部ジャーナリズムの癒着・もたれあい、という本著の攻撃先が獅子身中の虫っぽい感じで取り込まれてしまっている印象だ。

  • 望月衣塑子記者の「歯に衣着せぬ」ぶり を
    フムフム なるほど と うなづきながら、
    改めて 再確認。

    前川喜平さんは 断片的にしか
    読む機会がなかったので
    本書にて じっくり一緒に考えさせて もらえました。

  • 「自由とは心を縛られないこと
    真に自由な人間に同調圧力は無力である」
    この言葉に出会うためにこの本を読んだんだな。

    あなたはどうやって今のあなたのような
    人間になったのですか?
    という問いに、自分の学生時代の話や
    両親からの影響、本から受けたものなど
    色んな話が書いてある。

    自分を振り返ってみる。
    18歳のときに思いもよらぬ出来事
    そして自問自答した日々、
    結局自分がどうしたのかと内省をかさね
    出した結論。
    答えは自分の中にしかないという確信。
    それが今の自分を作っている。
    この本にも「答えは自分で見つけるしかないと悟った高校時代」
    と書いてあるが
    まさしく自分もその時に自分自身の生き方に
    責任をとっていくことを決断したのだと思った。


    道徳の授業についても書いてある。
    こういう風にするのが正解!
    これがいいことである!
    うーんほんとにそうなんだろうか?
    と思ったこともある。
    道徳の本を読むのが好きだった私、
    私はこう思う、こう感じる
    と自分と対話しながら読んでいたのかな。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/724387

  • 2019刊行、「新聞記者」映画化に伴う鼎談からの本。

    官邸に、歯に衣着せぬ質疑をあびせて排除寸前に追い立てられた女性記者。
    文科省で安倍政権の教育への政治介入や縦割り行政の現場に立っていた官僚。
    ニューヨークタイムズの記者として、アメリカのジャーナリズムと日本の報道を比較しその忖度体質を炙り出す記者。

    ここで語られている事が、実際の日本の中枢で21世紀になっても起こっている事であり、長期政権下でますます露骨になっているやり方でもある。
    公正とか正義とか…行政や報道に対し、厳しく求められるべきものは、どこにいったのだろう。本職の人間たちがこの有様では嘆かわしい。

  • 同調圧力マインドマップ
    https://note.com/prometheus1966/n/n363a990493c3

  • 前川さんの言論が力強い。

  • ”同調圧力”とは。
    すなわち、今、私たちが従っている大きなルールの一つなんだろう。
    ただ、それは、その中に生きている自分にはなかなか気付けない、判別できない力で、まさか自分がそんな力に影響され、流されているとは受け入れ難いものだということに気付かされる。
    3名のそれぞれの立場から提示される目に見えない圧力の存在。
    それは、随分前から今日に至るまで、私たちにまとわり付いて、多くを束縛してきた。
    その事に、今気付く為の一冊だと思う。
    はたして、私たちは、本当に自分の気持ちに正直に生きられるのか。

  • 冒頭を読んで面白そうだと思ったのだけど、政治に関心の薄い読書初心者の若者にはめちゃめちゃに難しい本だった。読むのに1週間くらいかかってしまった。

    あまり政治や報道の分野を知らないので、初めて聞くことが多くて、気分的には新鮮に読むことができた。けれどこの分野を知らないので、何をどこまで信用して、この本を読んだ感想のどこまでを私の意見として採用していいのかわからない。私は意見をコントロールされていないか?いちいち疑心暗鬼になってしまった。やっぱ、自分で考えることに慣れていないのだろうか。己の知識や思考能力の無さ、平和ボケを認識させてくれる本でした。これは本の感想になっているのか…?

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。著書に『権力と新聞の大問題』(集英社)など。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞

「2018年 『しゃべり尽くそう! 私たちの新フェミニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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