怖い絵 死と乙女篇 (角川文庫)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041004395

感想・レビュー・書評

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  • バックグラウンドを知ることで、絵の見方が変わる。怖い、というか、薄ら寒い感じがする。
    イギリスの「ガヴァネス」という立場の人について、初めて知ることができた。『シャーロック・ホームズ』シリーズは読んでたのに、ワトソンの妻メアリがガヴァネスだったことは記憶に無かった。
    イタリアの「カストラート」が非人道的で寒気がする。日本では宦官制度すら採用しなかったのに、美声を聞きたいという理由だけで去勢するなんて残酷すぎる。しかも教会が始めたなんて。 

    勉強になったので、シリーズのほかの本も読みたい。できれば Unlimited になってほしい。

  • 中野京子が名画の背景を主観と批評を交え読み解いていくシリーズ第三弾。
    正直絵画にはそこまで興味がなかったのだが、時にユーモアたっぷりに、時にエスプリを効かせ、時に辛辣な観察眼を発揮し綴られていく文章は名人芸の域。当時の時代背景や風俗と巧みに絡め、作者の人生や心情をも投影させるような文章は読みやすく面白い。
    絵画そのものの迫力もさることながら、その絵が描かれるに至った背景を知る事によって、人間性の深淵をも抉り出すような凄みと深みが増す。
    今巻で特に印象的だったのは「悪しき母たち」。
    某翻訳恐怖小説短編集の表紙にも採用された有名な絵だが、不勉強な自分は恥ずかしながらこの本を読むまで作者はおろかタイトルさえ知らなかった。しかしまさか堕胎の罪を犯した女(娼婦)の罪と罰をテーマにした絵だったとは……
    章立てが短いので集中力を途切れさせずに好きな所から読むことができるのも親切。

  • なんの問題も感じない絵が、細部に言及された途端恐ろしさを増すのも、元から恐ろしさしかないものも、どちらも良い。
    女性、子供、殺される平民。まだまだ抑圧は続くものの、命なぞボロ布よりひどい時代だったと実感する。西洋史をもっと勉強したくなった。
    好きなのは「ベアートリーチェ・チェンチ」と「王女メディア」。ベアートリーチェはどんな時代も美しい物語を求めてしまう警鐘に思えるし、メディアは元から好きな話だったものが、よりおぞましさ悲しさを持って肉迫してくる。
    「かわいそうな先生」もいい。ガヴァネスとして働かざるを得なくなった女性と、その未来を予感しているような右の少女、そして何も悩まず縄跳びに興じる少女。怖い。
    今年開催される展覧会、是非とも訪ねたい。

    この村上隆さんの解説必要だったかね。美形の青少年だったら作者に囲われたかったって失礼極まりない。

  • 単行本版『怖い絵』3巻に2編追加して文庫化したもの
    (たぶん追加されたのは2つ目の「ヴィーナスの誕生」と「悪しき母たち」)。
    見ただけで怖さが分る絵、中野さんの解説によりなぜ怖いのか分り、改めてぞっとする絵など。
    やはりその絵が描かれた背景を知らないと、より深く絵画鑑賞できないのだなあと痛感させられた。

    怖い絵だというのに強く惹きつけられるのは「悪しき母たち」「ベアトリーチェ・チェンチ」「夢魔」「怒れるメディア」「ムーランの聖母子」「死と乙女」など。
    第3弾はまだかしらー。
    それにしても表紙の皇女ソフィア、強烈すぎ

    • 黒百合お七さん
      コメントありがとうございます。

      早く1巻を文庫化していただいて、安心させて欲しいですねー

      今レーピン展が来てるんでしたっけ?
      この本を読...
      コメントありがとうございます。

      早く1巻を文庫化していただいて、安心させて欲しいですねー

      今レーピン展が来てるんでしたっけ?
      この本を読んでから行ったのとそうでなかったのとでは
      「皇女ソフィア」を見た時の印象はまったく違ってくるんじゃないかと思います。
      いいタイミングでの文庫化でしたよね!
      2012/09/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「今レーピン展が来てるんでしたっけ?」
      Bunkamuraザ・ミュージアムで10/8まで、、、その後、浜松・姫路・神奈川(葉山)に巡回するら...
      「今レーピン展が来てるんでしたっけ?」
      Bunkamuraザ・ミュージアムで10/8まで、、、その後、浜松・姫路・神奈川(葉山)に巡回するらしです。
      2012/09/12
    • 黒百合お七さん
      10月8日まで、ですか。
      行けたら見に行きたいんですが、秋は運動会シーズンで
      土日が潰れるんですよね(涙)。
      もし見に行かれるんでしたら、印...
      10月8日まで、ですか。
      行けたら見に行きたいんですが、秋は運動会シーズンで
      土日が潰れるんですよね(涙)。
      もし見に行かれるんでしたら、印象を教えてください~
      2012/09/15
  • シリーズ通して面白いです!

  • 2021.4.17
    今作もめちゃくちゃ面白かったー!
    お気に入りは皇女ソフィア、ジン横丁、かわいそうな先生。

    絵だけでなく、描かれた時代の背景や歴史を、一般人にも分かりやすく、だけど少し皮肉を込めた口調で説明してくれるのが読んでいて楽しい。

  • 戦争、争いを人間はいつになってもやめられない。

    それは、今も昔も変わらない。
    ただ、当時の人間はそれを口にしてはいけなかった。
    画家だけが(ギリギリ危ないところで)表現できた。

    画家だけが、当時の風景を残すことができた。
    証人のようなものだ。

    美しく、若い少女が処刑されるところをみたいと願う人々のために少女が犠牲になったこと…

    戦争で追い詰められ銃で撃たれた人々…

    美しい声のためにカストラート(去勢)された男性歌手…

    貴族たちのドロドロとした権力争いに巻き込まれ殺害された兵士たち…

    飲み物が高騰しミルクよりも安いからと子供にジンを飲ませ
    自らもジンに酔いつぶれ狂態をさらす貧民街の大人たち…

    この作品では著者の解釈ありきの作品だけどそれでいい。
    絵画の見方は人それぞれで答えなどない。

    答えはたぶん、今はなき画家たちに聞くしかないだろう。

    でも、そんなことは不可能…だから、読み手は考えなければならない。

    画家が世界に怒り、苦しみ、不条理を感じた
    その思いをキャンバスに思う様ぶつけたその絵画を見て
    画家が後世に遺そうとしたその感情を
    読み手は解釈しなければいけない。

    人の争い、醜さ、残酷さ全てを受け入れるために思考を止めてはいけないのだ。

    たぶん、それが過去を偲び、未来を変える
    一つの方法でもあると私は思う。

    なかなか今回の怖い絵は重かった。

    表題作である「死と乙女」という作品も
    争いとは関係はないがなかなか怖い…というよりも「かわいそう」な作品。

    著者の読み解く絵の解釈は鋭いものがあるので
    読んでいて勉強になるし
    自分も独自の解釈を考えたくなる。
    良い意味でも悪い意味でも好奇心を刺激される作品。

    時代を通した色んな怖さを知ることができた一冊。


     

  • 安定の面白さ。

  • 相変わらずの面白さで2日足らずで読み終わりました。
    一番印象に残ったのは、ヨルダーンスの『豆の王様』。現代を生きる私たちはハレとケの境目が曖昧になっている、という著者の見解を読んでからこの絵を見ると、確かにここまで我を忘れて酒を飲むこともないな、と感じます。
    表紙を飾るレーピンの『皇女ソフィア』もインパクトが大きい。まさかここまで壮絶な兄弟喧嘩が過去にあったなんて、と驚きました。
    解説で村上さんも書かれてましたが、本当に一作品一作品、映画を見ているような気持ちになります。絵が書かれた背景を知れば知るほど怖くなる。このシリーズ、もっと読みたいです。

  • 3巻目にして失速するのではなく、飛び抜けてきたと思う。村上隆のあとがきが素晴らしい。

著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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