壊れやすいもの (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041078464

作品紹介・あらすじ

ホームズがSFに? ベイカー街に住む偉大な探偵が遭遇した緑の血が飛び散る殺人事件の顛末を描くヒューゴー賞受賞作「翠色の習作」の他、空前絶後の想像力を駆使した、鬼才ゲイマンの魅力満載の短編集!

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読む作家だけれど実は映画化された作品は何作か観ていました。アニメの『コララインとボタンの魔女』(https://booklog.jp/item/1/B003IJ11IU)そしてエル・ファニングが宇宙人役だった『パーティで女の子に話しかけるには』(https://booklog.jp/item/1/B079Q2Y7JT)本書には「パーティ~」の原作が収録されていることと、解説:山尾悠子というので間違いないだろうと思い分厚い文庫をお買い上げ。

    詩も含め全部で31作。映画の脚本からコミック原作までとにかく多方面で活躍する作者らしく、トーリ・エイモスのCDのライナーノーツのために書かれたもの(ストレンジ・リトル・ガールズ)や、映画『マトリックス』のウェブサイトに掲載されたもの(ゴリアテ)、イラストからインスパイアされたものなど、とにかく成立が雑多なので、ホラー、SF、ゴシック系などいろんなタイプの短編を楽しめた。冒頭の献辞に名前のある3人の作家=ブラッドベリ、ハーラン・エリスン、ロバート・シェクリィらが好きならきっと楽しめると思う。巻末に作者自身による作品ごとの解説もついていて親切。

    個人的にゾンビや吸血鬼、不死者など、ゴシックホラー系が好きなので、ゾンビもの?の「苦いコーヒー」、一緒にサーカスに行った女性が行方不明になる「ミス・フィンチ失踪事件の真相」、イタリア喜劇のキャラクター:ハーレクインが人間の女性に恋して結果とんでもないことになる「ハーレクインのヴァレンタイン」、謎の老婆と係わったばかりに恐ろしい目に合わされる「食う者、食わせる者」などが好みだった。ゴシックホラーへの皮肉なパロディというか、現実と幻想が逆転した世界の「顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で」も中2病みたいで面白い。

    パスティーシュ系の作品も何作かあって、シャーロック・ホームズとクトゥルー神話が融合した「翠色の習作」、ナルニア物語シリーズで唯一生き残ったスーザンの後日譚「スーザンの問題」、千夜一夜のシェヘラザードの苦労「アラディン創造」など、どれも面白かった。

    映画原作の「パーティで女の子に話しかけるには」は、映画の導入部にあたる部分だけで完結しており、その後の壮大な(?)エイリアン VS パンクスは映画オリジナルの展開だったようだ。原作は短編だけに、明確な答えは提示されておらず、色んな想像の余地が残されている。

    最後の「谷間の王者」は、「アメリカン・ゴッズ」後日譚とサブタイトルがあるように、ドラマ化もされた別の長編『アメリカン・ゴッズ』の後日譚らしい。スコットランドを舞台に、ベオウルフよろしく怪物グレンデルと闘わされる主人公シャドウを北欧の妖精フルドルが助けに来てくれる。黒幕ミスター・アリスの忠実な手下スミスは本書に収録されている「形見と宝」の主人公。

    ※収録
    翠色の習作/妖精のリール/十月の集まり/秘密の部屋/顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で/メモリー・レーンの燧石/閉店時間/森人ウードゥになる/苦いコーヒー/他人/形見と宝/よい子にはごほうびを/ミス・フィンチ失踪事件の真相/ストレンジ・リトル・ガールズ/ハーレクインのヴァレンタイン/髪と鍵/スーザンの問題/指示/どんな気持ちかわかる?/おれの人生/ヴァンパイア・タロットの十五枚の絵入りカード/食う者、食わせる者/疾病考案者性喉頭炎/最後に/ゴリアテ/オクラホマ州タルサとケンタッキー州ルイヴィルのあいだのどこかで、グレイハウンド・バスに置き忘れられた靴箱の中の、日記の数ページ/パーティで女の子に話しかけるには/円盤が来た日/サンバード/アラディン創造/谷間の王者―「アメリカン・ゴッズ」後日譚

  • 短編や詩31篇が収められている。

    「パーティーで女の子に話しかけるには」
    映画をみたので原作を読んでみた。本は最初のお屋敷でのパーティーの場面のみ。男の子も本人のイーンと友人のヴィクのみ。映画は原作をふくらませて撮ったようだが、お屋敷でのパーティの様子は原作の雰囲気を損なうことなく映画は表現していた。

    相手の宇宙人の女の子とそうとは知らずにイーンたちは会話してるのだが、なんだか変な世界だとおもいつつも、会話が成立してしまっているのがおもしろい。初対面で話す時は地球人同士でもこんな風かもね。

    原作は30年前のできごとをイーンが語る形式。音楽については、はっきりとグループ名などが出てきて嬉しくなってしまった。

    「ちょうどパンクが流行りだした頃だった。自分のレコードプレーヤーできくのは、アドヴィーツ、ザ・ジャム、ストラングラーズ、ザ・クラッシュ、セックス・ピストルズといったところ。よその家のパーティでは、ELO、10cc、ロキシー・ミュージックなんかも耳にした。運がよければデヴィッド・ボウイも何曲かきけた。交換留学でドイツにいったときにきいた音楽でみんながいいと思ったのは、ニール・ヤングの『ハーヴェスト』というLPだけで、『孤独の旅路』を旅のあいだずっときくことになった」

    その御屋敷のパーティで流れていたのは知らない曲で(そりゃそうだろうね、宇宙人なんだから)ドイツの電子音楽ポップスのグループ、クラフト・ワークに少し似ていて・・」 クラフト・ワークを電子音楽ポップグループと作者が書いているところがおもしろい。

    御屋敷でコーラにペルノを入れた甘い飲み物を作ってイーンは飲むが、それは「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライヴLPで、聴衆のだれかがペルノをちょうだいといっていたからだ」
    ペルノを知らなかったので調べると、ペルノとは フランスの世界的酒造メーカー・ペルノ・リカール社が製造するリキュール「ペルノ」だそうだ。

    最後にヴィクがパーティのお屋敷を間違ったようで早く出ようとする場面で、「その晩初めて、ぼくの知っている曲が表側の部屋でかかった。悲しげなサックスの音色のあと、流れるような和音が押し寄せ、男性ヴォーカルが沈黙の時代の子どもたちのことをカットアップ詩で歌う。」この曲は何だろう。

    その他絵と名前の記述もおもしろい。
    イーンはステラに惹かれるもヴィクにとられてしまい、トリオレットと話すがその顔について「コミック『コナン』シリーズに出てくる女性キャラを連想した。五年後だったら、ラファエル前派の絵画に描かれているフジェイン・モリスやリジー・シダルを連想しただろうが、そのときはまだ十五歳だった」

    彼女の名前について「ぼくの世代には、ヒッピー風の名前は少ない。レインボーとかサンシャインとかムーンとかいう名前の子どもたちは、当時まだ六歳から八歳くらいだった」とあり、イギリスで60年代末のヒッピーたちが「キラキラネーム」的な名前をつけていたのか、と興味深い。

    巻末には作者の作品解説があり、この物語は、地球にやってきた観光客の話として書き始め、・・書きあげると、ニューヨークの伝説のライヴハウス、CBGBでのチャリティの催しで、この作品を朗読した。パンクロックと1977年の話を読むのには最高の場所で、とてもハッピーな気分に浸った」とある。


    2009.10.31初版(単行本) 図書館

  • ゲイマンの作り出す世界観が好きな人にはお勧め。短編集とはいえ読みでがあります。他の本を読みながら、気分転換に読んだりしました。

  • 祝文庫化!

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    すべてのページに驚きと感動があふれる、いまだかつてない短編集!
    ホームズがSFに? ベイカー街に住む偉大な探偵が遭遇した緑の血が飛び散る殺人事件の顛末を描くヒューゴー賞受賞作「翠色の習作」の他、空前絶後の想像力を駆使した、鬼才ゲイマンの魅力満載の短編集!
    https://www.kadokawa.co.jp/product/321810000047/

  • 英国の作家ニール・ゲイマンの掌短編小説(+詩*)集。
    収録作は

     翠色(エメラルド)の習作
     *妖精のリール
     十月の集まり
     *秘密の部屋
     顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で
     メモリー・レーンの燧石
     閉店時間
     *森人ウードゥになる
     苦いコーヒー
     他人
     形見と宝
     よい子にはごほうびを
     ミス・フィンチ失踪事件の真相
     ストレンジ・リトル・ガールズ
     ハーレクインのヴァレンタイン
     髪(ロック)と鍵(ロック)
     スーザンの問題
     *指示
     どんな気持ちかわかる?
     おれの人生
     ヴァンパイア・タロットの十五枚の絵入りカード
     食う者、食わせる者
     疾病考案者性咽喉炎
     最後に
     ゴリアテ
     オクラホマ州タルサとケンタッキー州ルイヴルのあいだの
     どこかで、グレイハウンド・バスに置き忘れられた
     靴箱の中の、日記の数ページ
     パーティで女の子に話しかけるには
     *円盤がきた日
     サンバード
     *アラディン創造
     谷間の王者――『アメリカン・ゴッズ』後日譚

    盛りだくさんだが、
    こんなにときめきを覚えない読書体験も珍しい……。
    ネットを見回すと概ね好意的な評価が並んでいるので
    鼻白む。
    相性が悪いの一語に尽きる――か。
    但し、シャーロック・ホームズ・シリーズへのオマージュ
    (×クトゥルフ神話!)「翠色の習作」、
    中年男性が奥手だった少年時代の奇妙な体験を振り返る
    「パーティで女の子に話しかけるには」は面白かった。

    ※細かい話は後日ブログにて。
    https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

  • 昔図書館でハードカバーを見つけた時にも読んだし、その後も確か入手して読んだと思う。今度の文庫版で3回目のはずだが、不思議と読んだ覚えのない話が多い。これは読み手の集中力の無さかもしれないが、あやふやで夢の中の城のような不思議なファンタジー短編のせいかもしれない。優しくて意地悪でさみしくてなんだか結局一人のような、そんなダークファンタジー短編集。きっとまた忘れたまま四周目を読むだろうが、不思議とそれが悪くない気がする。忘れないのは「翠色の習作」ですね。

  • 色んな種類の短編集

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00602432

    ホームズがSFに? ベイカー街に住む偉大な探偵が遭遇した緑の血が飛び散る殺人事件の顛末を描くヒューゴー賞受賞作「翠色の習作」の他、空前絶後の想像力を駆使した、鬼才ゲイマンの魅力満載の短編集!(出版社HPより)

  • 解説が山尾悠子だったので購入してみたら、『墓場の少年』の著者だった。角川文庫の翻訳ものはあまり注目していなかったからな……。
    硬質な短編と詩を収録。詩のことはよく解らないが、本書においては、詩の存在がいいアクセントになっていて、スパイス的な存在感があった。短編もバラエティに富んでいて、幻想小説だけでなく、ホラー色の強いもの、SF寄りのもの、パスティーシュなど、次は何が飛び出してくるか解らない、おもちゃ箱のような1冊になっている。

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著者プロフィール

イギリスの作家。1960年生まれ。短編・長編小説、コミックブックやグラフィックノベルの原作、声劇や映画の脚本で知られる。代表的な作品には『サンドマン』、小説『スターダスト』、『アメリカン・ゴッズ』、『コララインとボタンの魔女』などがある。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ブラム・ストーカー賞、世界幻想文学大賞など多数の文学賞を受けている。
ニール・ゲイマンが陰陽師の世界を書き、イラスト天野義孝、夢枕獏翻訳の『夢の狩人』(原題:The Sandman: The Dream Hunters)は2000年にヒューゴー賞の関連書籍部門にノミネートされた。スタジオ・ジブリの「もののけ姫」の英語版の脚本でも知られる。米国ミネソタ州在住。

「2023年 『サンドマン 序曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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