いくさの底 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 110
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041083994

作品紹介・あらすじ

「そうです。賀川少尉を殺したのはわたしです」第二次世界大戦のビルマ北部。日本軍警備隊が駐屯することになったある山村で、一人の将校が殺害される。村人には死因を伏せたまま、連隊本部から副官が派遣され事態収拾が始まるが、第2の殺人が起きてしまう。通訳を務める日本人商社員、依井の視点から描かれる正体不明の殺人者と協力者とは? 第71回「毎日出版文化賞」「日本推理作家協会賞」(長編部門)W受賞作! 「戦場」という閉鎖空間の山村を舞台に、重厚繊細に描かれた戦争ミステリの名作!

感想・レビュー・書評

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  • これぞまさに古処さんにしか書き得ない戦争小説×ミステリ。改めて古処さんの戦争小説の凄みを感じた作品です。

    舞台は太平洋戦争下のビルマの小さな村。戦争小説といっても、この小説では大きな戦闘もなく、殺人事件こそは起こるものの特攻や玉砕といった、戦火の悲劇が描かれるわけでもなく、非情に地味な展開が続きます。
    古処さんの文体も、感情や修飾的な著述を排した静かなものなので、前半は退屈に感じるところも多いかもしれません。

    事件が起こってからが俄然面白くなってきたかなあ。戦時下、ビルマ、この状況ならではの犯人の見当と推理の仕方がかなりロジカル。
    そこに、被害者の中将の過去の行動の不審な点も相まって、どんどん本格ミステリらしくなってきます。このあたりは、さすがミステリ界隈からも評価を受けただけのある作品だと感じました。

    そして、クライマックス。真相が明らかになり犯人の動機が語られるとき、これが戦争ということなのか、と考えてしまいました。
    この状況で、そしておそらく日本軍でしか起こりえない事件と動機の設定に加えて、軍の暗部、兵士の哀しみを折り込み、戦争に狂わされた人生の悲哀と戦争の業を描いていたと思います。

    先に書いたように特に戦闘シーンもないので、これを戦争小説でやる意味はあるのか、と思わなくもなかったのですが、読み終えてみると、これは確かに戦争小説であることが分かるのです。

    いつも思うのですが古処さんの戦争小説は、他の戦争小説とは一線を画しているように感じます。戦争の悲劇や死をドラマチックに描くことを避け、反戦や厭戦の意味を物語に積極的に込めるわけでもない。
    徹底して冷徹に、そしてリアルに戦争という極限状態での人の業を見つめる作品を書かれているように思います。

    だからこそ逆に人の業を通して、戦争の目に見えない部分。ドラマチックに語られがちな戦争の悲劇とは違う、表面化させることが許されなかった人々の叫びが、聞こえてくるように思うのです。

    精緻に練られた構成に、抜群のリアリティの本作は、特殊状況下のミステリとして、ホワイダニットのミステリとしてはもちろん、戦争小説としても、とても強い力を持った作品でした。

    以下、余談。
    この作品が賞を二つ取って、このミスでもランクインしたので、これを機に絶版になっていたり、文庫化されていない古処作品に何らかの動きがないか、ちょっと期待した自分が当時いたのですが、結局何もなかったなあ。確かに売れにくいジャンルだとは思うけど、勿体ないよなあ……少なくとも自分は買うのに。

    第71回日本推理作家協会賞
    第71回毎日出版文化賞
    2018年版このミステリーがすごい!5位

  • 古処誠二『いくさの底』角川文庫。

    毎日出版文化賞、日本推理作家協会賞受賞の戦争ミステリー。受賞作というのは時として面白くない場合が多い。本作もまた、あの古処誠二の作品かと思うくらい面白くなかった。

    第二次世界大戦のビルマ北部の日本軍警備隊が駐屯することになったある山村で、1人の将校が殺害される。さらには村長までもが同様の手口で殺害される。主人公の商社社員で通訳の依井は少しずつ犯人と動機に近付いていくが……

    本体価格880円
    ★★★

  • このミス2018年版5位。第2次世界大戦初期、日本がビルマに進行した際の駐屯先の村での殺人事件。同行した通訳の視点での状況描写で進行していく。一般的にはなじみのない時代背景や登場人物の置かれた状況についての俯瞰的な説明が一切なく、いきなり登場人物視点での描写が始まるため、とても分かりにくい。途中までは人間関係の理解も困難で少ない分量だけどなかなか進まなかった。後半は徐々に事実が明らかになっていくのがとても心地よく引き込まれる。事件の構想や解明していく展開などすごくよくできてるし、真相を明らかにしていく際の心理的な駆け引きがサイコパスもののような臨場感があって一気に進んだ。前半にもうちょっと人間関係を注意しながら読めばもっと楽しめだろうと少し残念になった。あえての選択ながら、時代設定が古臭い上に前半の読みにくさで、若い人はなかなか好まないだろうなとか思ってすごく惜しい。

  • 太平洋戦争でのビルマを舞台にした戦争小説のようなサスペンスもので、まさかのオチがあり普通に面白かった。主人公が通訳という立場なのも、中立的視点となって良かった。
    また、ビルマ人・日本人の人々の人間性がそれぞれのキャラに表れていて、日本人としては共感とともに反省しないといけない一面があるなと、、

  • ビルマが舞台というのが新鮮で面白かった

  • 初めて知った作家だったが面白かった。単なる推理小説ではなく、単なる戦争小説でもなく、そして余分な修飾語もなく全体的にシンプルで読み易い。けど先が読めてしまうような安直なストーリー展開ではない。というわけで総じて面白かった。

  • 購入済み

    2021.09.04.読了
    ほんとうに、さすが!の作品。古処さん大好き。
    古処作品ハズレなし。
    読み進める中、なんで?となることも多かった。でも読み返して読み進めてを繰り返すうちちゃんと辻褄が合っていることに気づく。
    軍隊用語も多く、私の読解力では1度で理解できないことも。そんな時は焦らずめんどくさがらずに戻って何度か読み直すとちゃんと視界が開ける

  • 第二次大戦時、ビルマで農村に駐留する小隊で発生した殺人事件を扱うサスペンス。戦争がからむサスペンスというのが初めてだったので、こんなのあるんだと思ったが、解説を読むとジャンルとしてあるみたい。民間人で通訳として徴用された主人公の目を通して事件が進むが、実は華僑だの重慶軍だの真相がわかるシーンとかのロジックがやや難しかった。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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