悪の芽

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041099674

感想・レビュー・書評

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  • アニメファンが押し寄せるイベント会場での惨劇。行列に火炎瓶を投げつけ何人も殺害、本人も自殺。犯人は斎木、41歳、小学校時代にいじめられていたと報道された。動揺するのは安達。斎木をいじめていたのだ。物語は、なぜそんなことをしたのか探ろうとする安達、犯行を録画していた大学生、娘が被害にあった母親のその後を描く。

    うーむ。あまり面白くなかった。

    なぜ斎木が犯行に及んだかについては特に面白くはないので、事件後の関係者の動きが読みどころになるはず。でもそちらもそれほどでもなかった。狙いすぎて、明後日の方向に矢が飛んでいった感じ。(楽しもうとして読み方を変更すれば楽しめたのかも知れないけれど・・・)

  • 無差別大量殺人を起こした挙句、動機を明かさないままに自らも死を選んだ犯人。それが小学生時代に自分が苛めた相手であり、しかもその苛めがきっかけで不登校になった過去があるとしたら、そのように追い込んでしまった自分もまた事件を引き起こした「犯人」たりうるのか。現在何不自由のない恵まれた生活を送る男性が、ふと自らの過去の罪を突き付けられ、事件の真相を暴こうとするミステリ。
    実に「痛い」物語。言うのは簡単なのです。どれだけつらい目に遭おうが、理不尽に晒された過去があろうが、それでも無差別殺人が許されるはずはない、と。完全に犯人だけの責任であり、他の誰かに責任を求められることではないのだと。……だけど、心情としてそうはいかないよね。もっともそれで責任を感じる安達の心情は、とてもまともな人間のものであるとも思います。
    過去の苛めを後悔する者、事件現場に居合わせ動画を撮影したことで脚光を浴びた者、事件で家族を奪われ怒りの矛先を探す者、さまざまな人たちがそれぞれの立場から描かれ、それぞれの苦悩やあるいは傍目から見た醜さが感じさせられますが。どの人も完全な悪人ではないし、かといって善人でもない。そして一歩踏み外してしまえば犯罪者になっていてもおかしくない部分があります。これって犯人も同じだったんでしょうね。きっかけが積み重なって事件が起こってしまったけれど、必ずしもどれかが明確な原因だったというわけでもないんだろうなあ。
    昨今問題になっているネットリテラシーの問題も盛り込まれていて。本当に想像力って大事。考えなしの言動は、容易く誰かを追い込んでしまうし、逆に自分が追い込まれてしまうのかもしれません。誰もがきっと、他人事ではないはず。

  • 犯罪者とのかかわりに悩むエリートの社会小説。

    著者の描く等身大の登場人物たちがリアルっぽくて、感情移入をしては苦い思いをしてしまいました。
    主人公はアニコンで無差別大量殺人を行って自殺した犯人が小学生の時にいじめられるきっかけを作ったことで、この事件の遠因が自分にあるのではないかと悩み、エリート街道を進んでいた銀行に出社できなくなり、犯人の動機を探ることで克服しようとする中、他人の痛みへの想像の欠如を思い知っていきます。
    他の登場人物たち、小学生同級生でいじめ始めた人物、事件の動画を撮影して注目された学生、子供を殺された母親などが過激な行動に走りかけるもとどまることで、犯人との絶望に対する克服の差が描かれていると思います。
    特に同じく息子を殺された母親の「憎しみを広げたくない」という言葉と態度には感動しました。
    主人公も自分の至らなさに気づいて、病を克服するラストになっていて、いつもの読後のザワザワ感はなかったのでちょっと物足りなかったです。

  • さすがのリーダビリティ。アニメフェスでの無差別大量殺人事件から始まる物語にグイグイ引き込まれた。犯罪を犯すでもない、一人一人は善良と思われる普通の人間の悪意や無意識、時に暴走する正義、それらが巡り巡って引き起こす大きな事件は、作者の作品で私が一番好きな「乱反射」を彷彿とさせる。
    主人公・安達が小学校時代に呼び起こしたいじめ。それが引き起こした同級生・斎木の転落人生。社会から弾き出された斎木は、なぜそんな大きな事件を起こしたのか?
    パニック障害になり最初は保身から、次第に自分のやったことの責任として知らなければならないという義務感から事件の動機を調べて続ける安達が最後にたどり着いた真相。

    「社会から弾かれたのは努力が足りないから」
    「弱肉強食だから仕方ない」
    競争に勝ったと思っている人間たちがいう決まり文句。闊歩する自己責任論。それが圧倒的な想像力の欠如からもたらされる驕りであることを思い知らされる。私たちは負けたら最後、決して救われることのない世界を本当に望んでいるのか?

    私たちの想像の及ぶ範囲は狭く、同じ境遇になって初めて気づくという事実。
    ラストの言葉がいつまでも胸に響く。
    「世界に絶望し、人間に絶望し、自分自身にすら絶望した果てには、もう何も残っていなかった」

    貫井さんとしては珍しく読後が悪くない作品。
    動機の弱さを指摘する意見もあるけれど、私はそんなことでもこんな事件を引き起こすことはあるだろうなと思う。「絶望は死に至る病」なのだから。

  • 地味にひたすらリアルに、ぼんやり感じていても言葉で説明しようともしなかった事柄を丹念に書いていて、悪意や無関心はおもしろいものではないし、派手などんでん返しもないので、貫井さんの最高傑作かと言われたら、それは?だが。
    不快なのは今の世の中がそうだからなんだよね。


    想像力の欠如を補うためのひとつの方法は読書ですよね。

  •  2019年9月刊行の『罪と祈り』以来の、貫井徳郎さんの新刊である。『罪と祈り』について自分はこう書いた。「どう消化すべきか、大変困ってしまった」と。本作は、どう消化すべきか、前作よりはるかに困る作品だった。

     銀行員の安達は、無差別大量殺人犯が、小学生時代の同級生であることに気づく。安達は彼がいじめられるきっかけを作った。そのせいで不登校に陥り、普通の人生から道を踏み外した彼は、こんな事件を起こしたのか。罪悪感に苛まれる安達。

     安達の身勝手さに、早い段階で感情移入は不可能になった。安達が心配しているのは、自身がかつてのいじめの首謀者であることを世間に知られ、今の幸せが壊れてしまうこと。反省しているわけではない。罪悪感というのは違うだろう。

     安達はその同級生を知る関係者に接触を図る。おいおい、両親にまで会うのか。要するに、安達は自分のせいで事件が起きたのではないという確信が欲しいのだ。こんな事件が起きなければ、その名を思い出すこともなかった。パニック障害の発症だの出世コースからの脱落だの、その程度では一切同情できない。

     安達だけでなく、現場を偶然撮影していた青年、事件で娘を失った遺族と視点は変わるが、中途半端な印象を受ける。中でも、中心になっていじめていた「あいつ」の章。えっ、これで終わり? これで一件落着? 安達より神経が図太いと言ってしまえばそれまでだが…。多視点が効果を上げているようには思えなかった。

     現実に、いじめの加害者の個人情報がネット上に流布した事例は多い。小出しにされる情報で安達は徐々に追い詰められていくが、読んでいる自分はどんどん冷めていく。この作品、遺族の女性視点を多くした方が感情移入できただろう。少なくとも、自分は彼女の行動を否定する気にはなれない。最後の決断を含めて。

     かなりネタバレなのを承知で書くが、安達さん、あなた運がよかったねえ。誰よりも気の毒なのは、まったく無関係な事件の被害者であり、遺族だ。安達がそれを理解する日は来るか。最後の最後まで釈然としないまま読み終えた。

  • 無差別大量殺人の犯人は、小学校のときに苛めてことのある同級生だった!自分の苛めをきっかけに不登校となり、人生の歯車が大きく変わってしまった。全ては自分の他愛もない渾名が端緒だったとすれば、何か止める方法はなかったのか!
    読ませて、考えさせることに主眼を置いた小説であっという間に読み終えた。序盤中盤は作者の力量からぐいぐい引きつけられるように読み進める。ただし、結末が凡庸。明るい未来の希望に期待させるエンディングとしたのだが、もう一波乱もふた波乱もあるような結末を期待していただけに残念。

  • 一気読み。

    あぁぁ・・・ツラいよ。
    人間の想像力には限界がある。
    悪意がなくても人を傷つけることはどうしたってあるし、傷つけられることもある。
    絶望することもあるけど、それでも生きていくんだよなぁ・・・

  • 『悪』という文字が目に飛び込んできたため。
    読んでみた

  • イジメは駄目
    人生が狂う

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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