青瓜不動 三島屋変調百物語九之続

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041121603

作品紹介・あらすじ

行く当てのない女達のため土から生まれた不動明王。悲劇に見舞われた少女の執念が生んだ家族を守る人形。描きたいものを自在に描ける不思議な筆。そして、人ならざる者たちの里で育った者が語る物語。
恐ろしくも暖かい百物語に心を動かされ、富次郎は決意を固める──。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズもとうとう第九巻目。
    なにはともあれ、おちかが無事に出産できて一安心。
    母子共に健康。それが一番。
    このシリーズで度々不幸に見舞われた親子の話が出てきたのでおちかのことが心配だったけれど、何事もなくて本当に良かった。
    それにしても、おちかが産気づいた時の三島屋の皆さんの慌てぶりにほっこり。皆さんほんといい人。伊兵衛さんが「お民、湯をわかせ。湯だ湯だ湯だ!」と興奮して叫ぶのを「うちでわかしたってしょうがないでしょう」(おちかは嫁ぎ先で出産するから)と冷静にツッコんでいる場面には笑った。
    おちかの長女・小梅ちゃんが大きくなって、いつか黒白の間で聞き手になる日が来るだろうか。それも今から楽しみ。

    小旦那こと富次郎の胸のうちに芽生えた決心に驚いた。いつも飄々としているお気楽な次男坊だとばかり思っていたのに、こんな悩みがあったなんて。

    今回は四つのお話。
    「語って思い出しては泣くくらいなら、食って寝て元気になって働く方がいい」
    「語りながら笑って、その話の恐ろしかったこと、悲しかったこと、辛かったことの毒抜きをしてるのかな」
    「この世のどんなものよりも、尊いのは人の念だ。人が心に思うことだ。しかし、この世のどんなものよりもおっかねえのも、また人の念じゃぞ」

    理不尽な境遇に立たされても、悲運な目に合わされても、こんな前向きな言葉をもらえる。だからこのシリーズをずっと読み続けたくなる。
    悩める富次郎が晴れ晴れとした気持ちで黒白の間に居られることを願って次回を待とう。

  • 面白かった。三島屋9作目。
    表題の青瓜不動が、やはり一番印象に残った。
    女性の守護神青瓜の顔を持つ不動明王、
    バトルゴーレムだんだん人形、
    欲を喰らう魔物、自在の筆、
    紙人形の里
    ホラー度は低いし、その物語の意味するところを変に解釈を加えるわけでなく(加えないわけでもなく)、読み手にぶんなげるところの塩梅がとてもええさじ加減。さすが宮部語り。
    おちか、無事女児出産
    富次郎の絵描きへの執着
    田楽と芋菓子が食べたくなる。
    最近の個人的ブームの百珍レシピもでてきて嬉しかった。

  • 三島屋九之続の一冊。

    今作はいつも以上に楽しみな巻、そして人の愚かさ、良くも悪くも人が心に抱える思いの強さをしみじみ感じた巻だった。

    兄、伊一郎が帰ってきて、ちょいと自分の立ち位置を掴めない小旦那こと富次郎。

    そんな彼の元に必然的かのように訪れるお客さま。

    表題作は青瓜畑での富次郎の闘いと生命の闘いの重ね合わせ、その描き方が秀逸。

    命の尊さ、人が人を想う心の温かさ、恩の温かさ、愛が全面で感じられるのも良かった。

    語り手と一緒に泣いて笑う富次郎の姿がまた良い。

    そういう彼は語り手に寄り添い心和らげる立派な聞き手だと思う。

  • 行念坊の、巨体のわりに気が小さいところとか。
    いねの、明るさとたくましさとか。
    文三郎の、親しみやすさとか。
    伊一郎と富次郎の、田楽づくしにまつわるコミカルなやり取りとか。

    聞き手が富次郎になって、陰鬱になりすぎず、テンポもよいのがいい。

    人の業や欲深さといった悪しき面が現れる一方、人の善性も見えて、ぐっとくるものがあった。

  • 宮部みゆきの新作は、読むまでいつもワクワク。どの作品も必ず楽しませてくれるから。
    三島屋の百物語、おいちのときは、面妖で悲壮な話で、聞くも地獄な話が多かった。
    富次郎に代替わり後は、聞き手がまだ頼りないのか、救われる怪談が増えた気がする。マンネリ化せず、毎回違う怖さがある。
    本当に百になるまでシリーズが続きそう。

  • 三島屋変調百物語 第九弾。

    私の“抱えている”数あるシリーズ物の中でも、とりわけ個人的にお気に入りの当シリーズ。
    今回は四話構成(+序)となっております。

    “変わり百物語”の二代目聞き手である、富次郎の兄・伊一郎が三島屋に戻り、早速商いの手腕を発揮して頼もしさを見せています。
    富次郎も店先でファッションショーのモデル(人台)をやらされるなど、伊一郎のお手伝いをしつつ、自身の今後の身の振り方を考えてしまう・・そんな悩める“小旦那”のもとにやってくる“語り手”達の物語とは・・。

    安定のクオリティで、今回も不思議な物語の世界に浸らせて頂きました。
    表題作の第一話「青瓜不動」では、行く当てのない女たちの駆け込み寺のような場所となった洞泉庵と彼女達を守護する不動明王“うりんぼ様”のお話で、富次郎も物語とリンクした夢の中で、畑の大量の“うりんぼ”達を大百足から助けることによって、おちかの安産祈願に繋がる展開となっております。
    その甲斐あってか、おちかも無事に“小梅”(某一発屋芸人にあらずw)という可愛い女の赤ちゃんを出産して、いやぁよかったですね。おめでとうございます!
    第二話「だんだん人形」は鬼畜のような悪代官によって悲惨な目にあった少女・おびんの作った土人形の不思議な物語でこちらも読み応えがありました。
    この話の語り手・文三郎は富次郎と馬が合うようで、この後も富次郎の友人として再登場してほしいですね。
    第三話「自在の筆」は話としては短いですが、内容が凄惨なので、こちらもインパクトありました。
    これによって富次郎が絵師を断念するという決断をし、そんな心情で第四話「針雨の里」に進む流れです。
    個人的にはこの「針雨の里」が物語として好みでした。孤児を引き取って貴重な鳥の羽毛と卵で生計を立てる、村全体が家族のような狭間村に引き取られた少年の成長と、その平和な暮らしが突如終わりを迎え、村人の正体が判明した時に、何とも言えない切なさと温かさが胸にみちてくる感じがしました。
    ただ、この物語を聞いていた富次郎に“ある思い”がこみあげてきたところで、第四話自体が終わってしまうのが何だか唐突な印象を受けてしまいました。
    あれからナナシ達がどうなったのか・・・語られていた“物語”が途中で終わった感があるのがちょっと残念でしたが、それだけ話にのめり込んでいたということですね。
    次の巻では富次郎も決意も新たに、聞き手を務めることができそうですかね・・小梅ちゃんの成長と共に続きを楽しみにしております~。

  • 公明新聞2021年8月2日〜2022年7月30日連載のものに加筆修正し、2023年7月角川書店刊。シリーズ9作目。青瓜不動 、だんだん人形、自在の筆、針雨の里、の4つの連作ホラー。いずれも怖いところのある話ばかりだが、救いや、幻想的な部分もあり、面白い。だんだん人形には、話が語り伝えられたそのものの理由に救いが潜んでいるのが興味深い。

  • 全部で4つのお話
    青瓜不動
    おちかがそろそろ出産という時、無事を祈って少し変わった不動明王を担いで来た人あり
    白黒の間に像を置いて、その像の持ち主の人生を語るところから始まります
    昔の女性は自分が悪くなくても、立場が下なのだなと可哀想になる
    さて、産気づいたおちかを救うのは
    白黒の間で別世界に行った富次郎!
    かわいいのと、怖いのが出てくるけど
    ゲームのダンジョンのようw
    ドキドキでした!

    だんだん人形
    弱いものいじめの悪代官
    なす術がないのは可哀想というより、怒りを感じる
    不幸な少女が拵えた、だんだん人形
    皆んなを守ろうとした少年の危機を救う人形
    コレはすごかった!

    自在の筆
    あいつが出てきた!
    人に欲望がある限り、いつでも出てくる

    針雨の里
    年に数えるほど、針のような雨が降る
    穴が開くほど危険だが、普段は気候の良い里
    その秘密はなるほどと納得する
    昔は迷子や捨て子が沢山いだんだなぁと
    びっくりしてしまう

    宮部みゆきさん、流石だなぁと・・
    恐怖しそしてあったかい気持ちになる
    物語

  • 三島屋シリーズの魅力は語り手の物語自体の面白さに加え、富次郎・おちかをはじめとする主要な登場人物の成長がきちんと描かれている点にある。
    表題作の「青瓜不動」はこの2点が見事に融合しており、悲しみを通奏低音としながらも、後味の良い爽やかな読後感を与えてくれた。
    他の作品もレベルが高く、単行本を買った価値は十二分にあった。

  • 毎度毎度のことながら、宮部さんの、この力量たるやどうよ!?
    って思うくらい、力強く、そして泣ける。
    いつも同じこと書いてしまうけど
    「よくこんなお話を思いつくなぁ!」としみじみ思う。やっぱり凄い。
    聞き手としては、おちかとはまた違う富次郎だけど…。いかにも次男坊らしくおっとりな、しかし優しく素直。子供みたいに拗ねたりするけれど、それもまた、なんというか、読み手からすると、ほっこりもする。私的には、今しばらくは(100話もあったらまた聞き手が変わるかも?)富次郎の成長物語の部分もあると思う。もちろん、おちかも、成長したんだものね。これはネタバレして良いと思うけど、珠のような可愛らしい赤子に恵まれます。

    しかしながら…どんな世であれ、天災や事故、危険は伴うとは思うけれど、かの昔の時代の命の軽さには、ほんと辛いものがある。あるシーンでは、もう電車の中で思わず「うそ、そんな!」と声をあげそうになった。しかし、もしかしたら、現代だって、知らないところで似たようなことはあるのかもしれない。悲しいよなぁ。

    私的には『だんだん人形』が一番読み応えあり、強く印象に残りました。いくつものシーンで涙が滲んだ。切ない。

    そして、四話読み終えて思うのは…自然界で起こることって、人はとかく後から理由をつけるけど…やっぱり人智の及ばないところというか…うまく言えないけれど、この世の不思議、そして人の怖さも温かさも、たっぷりどっぷり感じられる作品なのでした。

    印象に残ったところ少し。
    ーーーーー
    人の思いを雑に扱ってはいけない。

    誰の心の内も、問うてみなければわからない。問うて返事をえたところで、全てがわかるわけでもない。いつもいつも問うていては、うるさくて暮らしていかれない。

    少しでも思い出話の種になることを言っておかんと。

    知ったかぶりは罪だが、その味は甘い。

    死ぬのはちいとも怖くない。やっと勇さんに会える。あのとき何もできなかったことを詫びられる。

    この世のどんなものよりも、尊いのは人の念だ。人が心に思うことだ。
    ーーーーー
    百話まで追い続けるぞお〜〜〜!

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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