魔法の水 (角川ホラー文庫 402-1 現代ホラー傑作選 第2集)
- KADOKAWA (1993年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041586068
作品紹介・あらすじ
現在を呼吸する九人の作家によって切り拓かれる、魅力的で怖ろしい九つの物語。
感想・レビュー・書評
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村上龍氏1993年編著のホラー小説アンソロジー本。
村上龍氏本人の他、文芸作品を書く作家達の作品が全9編収録されています。
景山民夫氏の作品のみ、書き下ろしで、それ以外の作品は一般文芸誌に発表された非ホラー小説、という性質上、全体的に地味な印象。
先輩作家を含め、全て地味な文芸作品を据えておきながら、直線的な身体破壊描写がある村上龍氏自身の作品をラストに据えているという構成が、先輩作家達を地味な脇役に据えて、村上龍氏一人だけプリマドンナのように目立とうとしているのではないか、と想像した時に始めて、この本を読んでゾッとしました。
以下簡単に各作品の感想を↓
鏡
1983年の村上春樹作品。
夜の学校+鏡が怖い、というショートショート。割と他愛ないストーリーですが、語り口で読ませます。
桔梗
1989年の山田詠美作品。
7歳の少女が恐怖を感じた瞬間を描いた短編ですが、少女が大人の女性に憧れる気持ちを描くのが主となる作品なので、これをホラー小説に分類するのは強引な気がします。
ひと夏の肌
1983年の連城三紀彦作品。
失った記憶を辿るミステリー。これも、ホラー小説とは言い難いです。でもルチオ・フルチ監督の映画『ルチオ・フルチのザ・サイキック』をホラー映画と思えるなら、この作品もホラー小説だと思えるかもしれませんね。
箱の中
1990年の椎名誠作品。
狂った女が怖い、という密室シチュエーション・スリラー。イヤーな予感を感じさせる結末が素晴らしいです。
飢えたナイフ
1989年の原田宗典作品。
曰わく付きのナイフ、という小道具はあるものの、怪談風にはならず、人の心の闇を描いたミステリーになっています。予測可能なオチを、大どんでん返し的に描いたラストシーンのせいで、作品自体が安っぽい出来に思えてしまいました。
らせん
1990年の吉本ばなな作品。
不思議系の女性とその恋人の会話が中心になる物語。完全にホラー小説ではありません。
葬式
この作品のみ、このアンソロジー本への書き下ろしの景山民夫作品。
ということは、他の一般文芸雑誌に発表された作品とは違い、このアンソロジー本がホラー小説集であることがわかって書いているはずなのに、全くホラー小説ではない、というのが不思議。
霊感がある主人公が、大学時代の同級生の葬式で、友人の幽霊と話をする、というだけの物語。
海豚
1983年の森瑶子作品。
幼少時代の一時期、海豚の肉を食べる習慣がある漁村で暮らした女性が、海豚を食べたという事実を隠して生きてきたのに、高校生の娘が夏休みのバイトとして千葉の海洋センターでイルカの世話をすると聞き、海豚を食べた罪悪感を思い出す、という短編。
隠していた事実がいつ発覚するのか
という恐怖心を描いてはいますが、この作品をホラー小説とは全く言えません。
ペンライト
この作品のみ編著者である村上龍の作品。初出はわからないんですけど、文中の固有名詞から1986年に書かれた作品かと思います。
幽霊が怖い、もしくは多重人格ホラーかと思わせておいて、実はスプラッター。
どの作品も、自分にはあまり響かなかったんですが、一番印象に残った作品を挙げるなら、狂人の怖さを書いた椎名誠『箱の中』。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あんまり怖くない…?
ホラー小説って言うものをあんまり読まないから、いまいち"ホラー小説"っていうのがどんなものなのかがわからない。
ただ、怖いっていうのなら、最後の"ペンライト"(村上龍さん)が一番怖かった。
それにしても。やっぱり吉本ばななさんは好きだなぁ。 -
この本を読んで、なにか知っているストーリーがあると感じた。
おそらくタモリの世にも奇妙な物語で見たのだと思うが詳しいことはわからない。
編者は小説の醍醐味は「想像」と述べているがこれには同感。
ただ、予定調和を否定するのは同感できない。
あくまでも予定調和に「ひねり」を加えて、さらに深い意味を持たせるのがいいのであって、ひねりばかりだとそもそもストーリーとして成立していないというのが個人的な意見。
この短編集の中にも、そのように完全に読者に放り投げている感がある作品を何作か見受けられた。
ただ、感受性の問題なのでたまたま自分には合わなかっただけかもしれないが。
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本当に久しぶりに、椎名さんと原田宗典の作品を読んだ。ベストは山田詠美の「桔梗」。でもやっぱり、短編はちょっと物足りない。
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鏡 村上春樹著
桔梗 山田詠美著
ひと夏の肌 連城三紀彦著
箱の中 椎名誠著
飢えたナイフ 原田宗典著
らせん 吉本ばなな著
葬式 景山民夫著
海豚 森瑶子著
ペンライト 村上龍著。
ビッグネームで話題性はあったのかもだけど、山田詠美はどう考えてもホラー向いてないから入れなくてよかったかなと思う。
原田宗典は安定ですね。
ペンライト、怖いです。 -
個人的には、「箱の中」が一番良かったです。
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日常の中に潜む不思議を集めたような短編集でした。
澄んだ夜の空気の中で静かに読みたい1冊です。 -
2012年7月17日読了。村上龍編集によるホラー短編集。W村上や吉本ばなななど執筆陣はなかなかに豪華だが、他のアンソロジー集などで既読の短編も多く、私にとっては刺激が少なかったか。S・キングのような大上段から力技でカマしてくる大長編ホラーも好きだが、村上龍の後書きにもある通り「恐怖」は想像力をかきたてられるところから生まれるものだと思う。短いボリュームで、シチュエーションと「語られなかった」余韻を残すホラー短編小説は、気軽に楽しむ(と、いう表現は語弊があるが)のに最適だと思う。収録先の中では原田宗典氏の「飢えたナイフ」の完成度が最も高いと思うが、きれいに決まりすぎていて若干食い足りないか、有名作品だが椎名誠氏の「箱の中」の不条理・リアルな感じがとても面白い。
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作家陣の顔ぶれが好み。龍氏以外の作品は未読だったので。
ただ、『海豚』(森瑤子)に関しては恐怖というよりやや不愉快さを感じた。海豚を食した、身内が海豚の虐殺に荷担したという罪悪感から……というストーリーだが、日本では海豚を食べる地域が存在する。海豚を殺して食べたことがおそろしい背徳感と罪悪感、そして恐怖に繋がっているという筋立ては、海豚を食べる地域の人を非難しているようにも見える。
日本語で書いた小説として、禁忌を犯したが故の恐怖を描くなら、別の題材を選んだほうが傷つける人は少ないんじゃないだろうか。
久しぶりに読んだ龍氏のこの頃の作品(収録されているのは『ペンライト』。短編集『トパーズ』に掲載されていたので、私にとっては再読)は、恐怖というよりもグロテスクなものだったが、懐かしかったのでよし。