恋する文豪 (角川文庫 さ 29-9)

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  • 角川グループパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041901090

感想・レビュー・書評

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  • 柴門ふみが明治・大正・昭和の“往年の名作”をぶった斬る痛快エッセイ。

    どんな著名な作家であろうと、その作品が名作ともてはやされていようと、魅力がないと思えばバッサリと斬って捨てるし、面白い素晴らしいと思えばどこがどう良いか理由とともに述べられており、分かりやすい。

    そして、“文豪”と呼ばれる作家たちもその私生活や人間性は結構しょーもなかったりするんだな。
    結局人間のエゴとか業とか、男と女の惚れた腫れたは100年経っても変わらない。

    それにしても、当時の文学って今の小説よりも展開も描写も格段に激しいよね……。
    現代では官能小説や昼ドラの世界でしか描かれない人間関係のドロドロや性描写が、臆面もなくバンバン出てくる(イメージ)。
    リアルの世界では、こと恋愛や結婚に関しては今よりずっと“堅苦しい”時代であったはずだから、一般庶民は小説の世界で欲求を満たしていたのであろうか。

  • 12/08/31 日本の名作メッタ斬り! 
           日本の文豪ブッタ斬り!!

  • 「恋、と書いたら、あと、書けなくなった。」

    何度目だろう。また性懲りもなく恋をした。
    太宰治の言葉に。

    読んで数分ぼうっとただただその言葉にとりつかれる
    これほど贅沢な恋があるだろうか。


    「あさましくてもよい、私は生き残って、
     思うことをしとげるために世間と争っていこう。」

    「戦闘、開始、恋する、すき、こがれる、本当に恋する、本当にすき、本当にこがれる、恋しいのがしようがない、すきなのだからしようがない、こがれているのだからしようがない。」

    軽やかながらサイコ。
    それでもかず子は一旦は上原とうまくいっちゃって
    (あ、デジャブ)

    「『しくじった。惚れちゃった』
    とそのひとは言って、笑った。」

    名文過ぎて涙が出る。ううううううう
    こんな台詞言っちゃう人ならば、
    騙されてもいいと思う。私も。


    頭がよく(でも本当はダメ男)
    こんな台詞をしゃあしゃあと言えて
    で、捨てられる。

    かず子は、私ですか?ってね


    でも、捨てられてもいいと思える男なんだよね
    これが見る目がないと所以か。


    ちなみに。

    村上春樹の描く男性に嫌悪感を(改めて)抱いた。
    大嫌いだ。本気で。

    「それにしてもワタナベくんはやたらモテる。(中略)
     大してハンサムでもないくせに」
    「困っていると信じられないくらい優しい言葉をかけてくれるくせに、
    平気で半年も連絡をくれなくなってしまう。」
    「ワタナベくんのようなその場しのぎの優しさ男が、
    じつは女を一番傷つけるのも事実だ。」


    いるんだよ、こういう男。本当に。
    更に「結局ワタナベくんて御身が大事、
     自分がイチバンの人間なのである。
     自分が傷つかないように生きることが人生最大の関心事であり、
     自分を傷つけない女性にしか近づかないし、
     女性に好かれるために女の喜ぶような言葉しか口にしない。
     でも、そんな人間が本当の愛を手に入れることが出来るのであろうか。」

    できないと思います。ええ。
    本当の愛?
    そんなブザマなことはかっこ悪くて求められないんだよね。
    そんな態度が逆にダサ。

    「ワタナベくんはブザマな格好を女に笑われたりは絶対、しない。
     そのための努力なら死に物ぐるいでやりそうだ。」

    見栄っ張りでプライドが高い。
    太宰と村上春樹の描く男の違いはここではないのかな、
    とか思う。

    どっちも騙されてはいけない男のタイプではあるのだけれど、
    まだ太宰の方がかわいげがあるというか、
    憎みきれない感じがするのよね。

    好みの問題かな・・・・・

    で、そこで登場するのが薫クン(!)ですよ!!!
    庄司薫と村上春樹が似てる?やれやれ(www)

    「『赤頭巾ちゃん気をつけて』の薫クンもまた傷つくことに敏感であったが、
    彼は足の親指の爪をはがしたブザマな恰好で
    自転車をこぐシーンを女に笑われても、
    でも頑張っちゃう可愛らしさがある。
    ガールフレンドの由美ちゃんと、マジでケンカして腹も立てる。」


    だって薫クンは「かなり知的で誠実でいい奴なのだ」から!

    世界に頑張って丸をつけ続けようとする薫クン。
    世界を信じようとした薫クン。
    でもちょっとヤサグレる薫クン。
    でも『赤頭巾ちゃん』の絵本を買いにゆく幼い少女との交流で
    我を取り戻す薫クン。
    由美ちゃんとの仲直りで
    「言いたいことが山のようにあったけれど、
    何をどう言ったらよいのか分からなかった」薫クン。
    そして「由美のやつがもうなにも気をつかったり心配したり嵐を恐れたりなんかしないで、無邪気なお魚みたいに楽しく泳いだりはしゃいだり暴れたりできるよう」に「海のような男になろう、あの大きな大きなそしてやさしい海のような男に」なろうと決心する薫クン。

    ステキ!!!!なんてステキ!!!!!!!!
    やはり庄司薫は読みつがれるべき青春小説の古典だわ!!!!!


    と言うわけで、結論。
    太宰(でもこれにはどうしても惹かれてしまう)にも
    村上春樹的主人公(マジで騙されないようにしよう)にも決別をして
    自分にとっての薫クンを探そうと思いました。
    いまどきいないか。いやいや、頑張る。

著者プロフィール

1957年徳島県生まれ。お茶の水女子大学卒。79年漫画家デビュー。『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同窓生 人は、三度、恋をする』『恋する母たち』など、著書多数。エッセイ集として『恋愛論』『大人の恋力』『そうだ、やっぱり愛なんだ』『老いては夫を従え』など多数。2016年、25年後の物語として描かれた『東京ラブストーリー  After 25 years』で柴門ふみブーム再燃。夫は弘兼憲史氏。

「2020年 『オトナのたしなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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