- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784042083061
感想・レビュー・書評
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ある朝突然巨大な虫に変わってしまった主人公の話。
こういった話でありがちなのは、
・虫から人間に戻る展開
・(どんな姿でも貴方は貴方!的な)家族愛展開
だが、そんなハッピーエンドで終わらせないのが作者フランツ・カフカである。
カフカはユダヤ人で、ドイツでキリスト教徒のふりをしながら生活をしていたという経緯があり、常に自分とは何かを問い続けながら生きてきたという。
この本ではカフカ特有の不条理な世界観を味わうことができた。
ハッピーエンド好きには少し腑に落ちない結末となるだろうが、作者の生い立ちや時代背景を踏まえた上で読むと「ハッピーエンドを読む楽しさ」とは別の学びを得られるかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
物凄く淡々としているお話だった。
いつか、どこかで盛り上がるのかな?と、少々の期待を込めて読み進めていたが、これといって盛り上がる部分はなく、ひたすらに淡々と終了。
ありえないことが起こっているのに、それを自然に受け入れる周囲の人間。ただ、「普通ではないことが起こっている」という感覚は読者と同じなため、ひたすらに“それ“を世間から隠そうとはしている。原因や、構造を知りたくはならないのだろうか。
今まで一家の支えとなっていた1人の人間が、姿形が変わっただけでこうも扱われ方が変わるのか。
“それ”になって以降の彼に対して、人間の言葉は通じない、彼にはもう人間の思考は無い、と思っているかのような周囲の対応が、物凄く寂しい。
なんとも言えない気持ちになる。
ただ、現実にこれが身内で起こったら、私も避けることは確実。笑
この家族が幸せになることを願いたくなる。
いやぁ、終始不思議な感覚。 -
ある朝、虫になってしまっていたグレーゴルとその家族の苦悩が描かれている。
話の大半が虫となったグレーゴル目線で描かれているが、最後の描写から虫となった息子(兄)を抱えた家族が、部外者たちでは理解できない苦しみを抱えていたことがわかる。またその苦しみからの解放が家族にもたらした変化が妙にリアルだった。 -
難解。文章のリズムに体をうまく乗っけることができず、中編なのにも関わらず読了に時間がかかった。
ザムザ自身に降りかかる不条理よりはザムザを取り巻く家族の心の動きの方がある種、共感をもって、興味深く読み進められた。ザムザの死をもって、家族に訪れた平安。家族を冷血と断ずることはできるが当事者として愛情を持ってザムザに接することは難しいと感じた。 -
誰もが知る有名な問題作。あまり文学に造詣が深いわけでもないので、単に一読したという感じ。読了して、やはりなんとも心地悪い、不快を催す作品だと感じた。突然朝起きたら虫になっていたという設定は非常に奇抜に思えたが、主人公に対する家族の態度を見ていて、現実にも似たような状況はたくさんあるなと思えてきた。しかしここまで読んでいて不快な心地にさせる文章に感服せざるおえない。
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虫になることは名誉なことではない。が...なんというか、カフカは実のところ、最初こういったものになりたかったんじゃないだろうか。仕事に行きたくない、軽く社会と断絶していたいという内なる願望から、こんな生物になってしまったという仮説は成り立つ。最初なんか虫であることを楽しんでしまっているし。(私はそう思えた)
ただこの虫は、孤独だった。
最初は社会の中で孤独だった。次第に家族の中で孤独になっていく。虫である自分を邪魔もの扱いする妹や父。最後は自分が死んで安心されるという、なんとも切ない話。
グレーゴルは虫になってしまったことで、家族から気味悪がられ、いなかったことにされてしまった。虫だから助けての声も出せず、孤独だったのだろうと思う。
現代の家族問題に通ずるところが多い気がする。病気になってしまった人、なんらかの障害を持ってしまった人、老いた人。
自力では生きていけない人は、だれかの心からの寄り添いがないと生きていけない。
私の周りにもいそうだし、もし気がついたらカフカの「虫」にさせたくないと思ってしまう。
偽善だし、奢りでもあるのかもだけどね。
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昨日まで働いていた息子が突然ニートになったら。
一家の大黒柱だった父に介護が必要になったら。
働き盛りの夫が事故で寝たきりになったら。
専業主婦だった妻が鬱になったら。
誰もがグレーゴルになる可能性がある。
その時、親は、子は、妻や夫は虫になった大切な人を理解してあげられるか?虫にしたまま見殺しにしてしまうのか? -
【突飛な物語だろうか?】
初めて読んだ時、「これが介護だったら」と思ったのを覚えている。
身内が虫になることはないが、身内に介護が必要になることはある。会話もできない、身なりを整える力もない、下の世話も必要、そんな姿になったら?
今、自分の身内がそんな状態だ。
数ヶ月は関われていたが
今の私は、その人から逃げている。
会いに行かないし、当然世話もしていない。
また読まねばならぬと、強く思っている。 -
以下引用。
「(略)――まあ、考えてごらんなさいよ。ひとりぼっちで、自分のベッドへはいって寝るわけですからな。あの掛け蒲団のやつが、どのくらいたくさんの幸福な思いをおしつぶしてしまうことでしょうねえ。しかも、反対に、あいつは悲しい夢だけはいくらでも暖めてくれるんですからね」(ある戦いの描写、p.106)
「もちろん、行きますとも……」そう私は言って、ひとりで立ちあがったのだが、ひどい苦痛を感じた。(中略)ところで、月が私をも照らしてくれるとは、まったく嬉しいじゃないか。たが、月が地上の万物を照らすのはあたりまえのことだ、と思いついた。謙虚な気持ちになって、あの橋の塔のアーチの下へ身をおこうとしたときに……すると、嬉しくなって私は両腕をすっかりひろげ、思いきり月光を楽しんだものだ。その腕をなげやりに動かして水泳ぎの所作をくりかえすと、私はべつに苦痛もなく骨折りもせずにやすやすと前へ進むことができた。そんなことをいままで一度も試してみたことがなかったとは! 私の頭は冷たい空気のなかへ浮かびあがり、右の膝が格別に飛翔の役に立った。その膝をたたいて私はほめてやったものだ。(p.118)