アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.84
  • (111)
  • (139)
  • (132)
  • (19)
  • (2)
本棚登録 : 1074
感想 : 115
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043636051

作品紹介・あらすじ

栄光の都に迫る敵軍に、エジプト部隊は恐慌を来し遁走した。『災厄の書』の譚りおろしはまにあうのか。奴隷アイユーブは毎夜、語り部の許に通い続ける。記憶と異界を交差しながら譚りつむがれる年代記。「暴虐の魔王が征伐される。だが地下阿房宮の夢はとどまらない-」。闇から生まれた物語は呪詛を胎み、術計は独走し、尋常ならざる事態が出来する!書物はナポレオンの野望を打ち砕くのか??怒涛の物語、第三部完結篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1-3巻読了。おそらく20年以上ぶりの再読。現代のアラビアン・ナイトみたいな惹句にひかれて手にとったのだったか。18世紀末ナポレオン軍が迫るカイロ、迎え撃つマムルークのベイたち、そのうちの一家臣アイユーブが、迎撃のためという名目で読むものに破滅をもたらすという「厄災の書」を語り部ズームルッドから話を聞きつつつくりあげていくパート。語り部ズームルッドの語るストーリーのパートの2部構成が、交互に、時に作用しあいつつ進んでいく。語られるのは、親にかえりみられなかったり、親に捨てられたり、生まれ落ちた直後に親が死に、親の愛を知らぬ三人の男たちアーダム、ファラー、サフィヤーンの物語。サフィヤーンの物語あたりまでは奥行きも味わいも感じられたが、三者が出会って以降の魔術的修辞、魔術大戦的な記述は、正直、SF・ファンタジー苦手勢にはくるしく、3巻の前半は放りだしてしまおうかと思ったほど。しかし、終幕に向かっては畳み掛けるような大団円。ひとつ腑に落ちないのはあれだけの大掛かりな仕掛けをほどこしておいて「厄災の書」の使い方がそれだけなの?といったところ。語り語られ記し記され、それが連環していく様が描きたかったのかなとは思いつつ。◆人間には普遍的に「人間性」というものがあって、それを描写する…描写できると思って試みるのは、ただの錯誤であるかもしれないのだ。(Ⅰ.p.13)◆罪悪感を無に等しいものとなすために、精神は暗黒に堕ちるのです。(Ⅱ.p.106)◆それは魔術的な媒体であり、それは歴史に侵触される存在にあらず----いっそ歴史を侵蝕する。そのような存在が、歳月と無縁なのは当然ではないのか?(Ⅲ.p.121)◆一冊の書物にとって、読者とはつねに唯一の人間を指すのです。(Ⅲ.p.268)

  • 三巻まとめて一気に読めば良かった!失敗した。それほど面白かった。

  • あとがきを読んで困惑する。これは本当に翻訳なの?作者の創作ではないの?語り?それとも騙り?もうすっかり筆者の術中にはまっている幸福な読者だ

  • 「読み終えたのに、読み終えた感じがしない」※個人の感想です。

    三人の主人公の話が繋がり、混沌とした展開が続く。そして現実世界はジリジリと追い込まれていく…

    「語ること」によってつながっていく物語の姿と、読むことによって自分の身体に取り入れて変容していく感覚などについて考える。

    物語が紡がれて浮かび上がるもう一人の主人公…

    真夜中に読み終えて、朝起きた時
    「読み終えたんだよね?」と夢から覚めた様な…なんだか落ち着かず。
    続編があるとかではなく、なんだかまだ続いている気分。

    何故かはわからないけど「私達は物語の断片にしか触れることはできない」という言葉が頭に浮かんだ。

  • ついにズームルッドとアイユーブの謎が明かされる。
    おおお。

  • なんて熱量の高い奇書。翻訳小説、ファンタジー小説、歴史小説、時代小説、娯楽小説といった、様々な「物語」的要素が虚実とともに渾然一体となり、凄まじいエネルギーの塊へと化けて読み手の思考を凌駕して奪ってきます。
    そして迎える、予想外の結末。

    ヨーロッパ世界において、フランスはナポレオンが覇権を握った時代。彼は対イギリス政策もあり、エジプト遠征を開始する。
    迎え撃つイスラムのエジプト勢は、宗主国オスマン・トルコの弱体化に伴って諸勢力が乱立して一枚岩ではなく、軍の近代化もヨーロッパ勢に比して著しく遅れている。

    そんな中の秘策として、エジプト側に与する奴隷青年アイユーブは、読んだ人間を破滅に追い込むとされる伝説の書「災厄の書」をナポレオンに献上するため、主君の許可を経て翻訳作業に取り組むのだけど…。

    謎多き語り手が、夜毎に少しずつ、作業者たちに授ける災厄の書の物語は、生まれた時代や空間を異にしながらも、やがては交わった三人の青年たちの物語。
    淀みなく語られていく、それぞれの数奇な人生におけるむき出しの劣等感、鬱屈、孤独、執着性、凶暴性、はたまた、それらと表裏一体とでもいうように現れる不思議と陽性な感情は、なんだかじわじわと読者を捕食していくような危うい感覚に陥らせるのに、それでも、読み進めずにはいられない。
    そして、四人目の青年の物語も。

    読みきるのにかなりのエネルギーが必要だし、文体も古川さんらしく少し独特なので、好みは分かれそう。
    でも、その壮大な世界にどっぷり浸かってみたい方にはおすすめ。
    (ネタバレしてしまうと面白くないタイプの作品だと思うので、どうにも言葉足らずなレビューになってしまい、魅力が伝わらなかったかもしれません。けれど、個人的には、とても没頭、というか、災厄の書の聞き手さながらに耽溺できた作品でした)

  • 長かったー!読み終えるのに随分時間が掛かった。分量的にはそんな多いわけではないのになかなか読み進めるのが大変だった。
    内容的には予想していたのとは違う終わり方だった。『災厄の書』の目的もそういうことだったなんて……。でも私はこういう終わり方は結構好き。サフィアーンよかったねえ、と思いながら読んでた。

  • いやあ長かったなあ、というのが全編を通しての印象。そして、肩透かしを食ったようなあっけないラストに消化不良感が残った。

    第3巻では、魔王サフィアーン(サフィアーンとアーダムの人格が同居し、片方が眠ると片方が覚醒する、そして石室の守護者たる巨竜をも宿している)と魔術師ファラーが対決する。ここまでは結構盛り上がっていたのだが、その後、サフィアーンが竜を説得してあっさりと石室を脱出、パワーアップしたファラーと再度対決した魔王サフィアーンの中のアーダムがあっさり敗北を悟り、サフィアーンとファラーが力を合わせて蛇神ジンニーアをこれもあっさり退治。ファラーの説得によりアーダムもあっさり消滅、と夢物語は呆気なく一気に終息してしまう。

    そして、「災厄の書」の本当の役割(狙い)が明らかとなって、現実世界の物語も終了となる。こちらは捻りが効いていて、ちょっと予想外の結末ではあった。

  • 著者の古川日出男さんが中東旅行で発見した本を翻訳したとばかり思っていたら、書評家の豊崎由美さんのお話によると、「偽書もの」のスタイルを取っているのだそうで、すっかり騙されてしまいました!アイユーブの物語が始まるところで終わり、ゾクッとさせられました。面白いのに何故か数行で寝落ちる不思議な文体!

  • 今までに出会ったことのない類の本。本当に翻訳なのか?翻訳を騙った創作なのか?
    でも、物語には引き込まれる。語られる物語にも、エジプトでの出来事にも。

全115件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1966年生まれ。著作に『13』『沈黙』『アビシニアン』『アラビアの夜の種族』『中国行きのスロウ・ボートRMX』『サウンドトラック』『ボディ・アンド・ソウル』『gift』『ベルカ、吠えないのか?』『LOVE』『ロックンロール七部作』『ルート350』『僕たちは歩かない』『サマーバケーションEP』『ハル、ハル、ハル』『ゴッドスター』『聖家族』『MUSIC』『4444』『ノン+フィクション』『TYOゴシック』。対談集に『フルカワヒデオスピークス!』。CD作品にフルカワヒデオプラス『MUSIC:無謀の季節』the coffee group『ワンコインからワンドリップ』がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古川日出男の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×