日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)
- KADOKAWA (2004年3月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047041578
作品紹介・あらすじ
ベストセラー『日本人とユダヤ人』で有名な評論家・山本七平は戦時中フィリピンで生死を彷徨い捕虜となった。戦後三十年、かつての敗因と同じ行動パターンが社会の隅々まで覆っていることを危惧した山本七平が、戦争体験を踏まえ冷徹な眼差しで書き綴った日本人への処方箋が本書である。現在、長期の不況に喘ぐ中、イラクへ自衛隊を派遣し、国際的緊張の中に放り込まれた日本は生き残れるのだろうか…?執筆三十年後にして初めて書籍化される、日本人論の決定版。
感想・レビュー・書評
-
大蔵省出身で、陸軍専任嘱託となってフィリピンにわたり、そこで敗戦を迎えた、小松真一が残した「虜人日記」をテキストに日本軍の敗因21ヶ条を1つ1つ検証する労作。その内容は衝撃そのものでありました。
「虜人日記」とは、戦後の民主主義の洗礼をうけておらず、戦後の現実に中立の立場で書かれたものであるとしている。
大東亜戦争の日本軍と、西南戦争の敗軍とは驚くほど類似している。そして、西南戦争の教訓を、活かしきれないかったとありました。
衝撃を少し紹介すると、以下のような内容です。
■暴力と秩序
・組織の確立している間はまだしも、一度組織が崩れたら収拾がつかなくなるのは当然だ。兵隊たちは寄るとさわると将校の悪口をいう。ただし人格の優れた将校に対しては決して悪口をいわない。世の中は公平だ。
■自己の絶対化と反日感情
・日本人は一切の対日協力者を、その生命をも保証せず放り出し、あげくの果ては本多氏のように、その人たちに罵詈雑言を加えている。
■性悪説
・日本は余り人命を粗末にするので、終いには上の命令を聞いたら命はないと兵隊が気づいてしまった。
・人の口に食物をとどけることが、社会機構の基本であって、それが逆転して機構のため食物が途絶すれば、その機構は一瞬で崩壊する
・戦友も殺しその肉まで食べるという様なところまで見せつけられた
・負け戦となり困難な生活が続けばどうしても人間本来の性格をだすようになるものか。
目次
第1章 目撃者の記録
第2章 バシー海峡
第3章 実数と員数
第4章 暴力と秩序
第5章 自己の絶対化と反日感情
第6章 厭戦と対立
第7章 「芸」の絶対化と量
第8章 反省
第9章 生物としての人間
第10章 思想的不徹底
第11章 不合理性と合理性
第12章 自由とは何かを意味するのか
あとがきにかえて
ISBN:9784047041578
出版社:KADOKAWA
判型:新書
ページ数:320ページ
定価:781円(本体)
発行年月日:2004年03月
発売日:2004年03月10日詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本研究者であり、陸軍少尉として南方戦線に立っていた著者が戦争の敗因について考察し、その考察からは日本人と言うものが見えてくる。
日本の敗因は、アメリカが圧倒的な物量を持っており、日本が少なかったからではない。
敗因は日本人のなかにこそある。そして、敗因を反省しないので、この日本人としての特性は戦後も全く変わっていないということも指摘している。
例えばその一つ。戦中日本を取り巻いていた「或る力」に拘束され、明言しないことが当然しされてきた。みな、心にもない虚構しか口にしない。これは戦前戦後を通している原則である。
このことは、昨今の自粛という言葉が日本を覆っていることに共通性を見出してしまうのだ。 -
太平洋戦争での日本敗戦の教訓について考える人におすすめ。
【概要】
●陸軍専任嘱託として徴用され、ブタノールを製造する技術者としてフィリピンに派遣された小松真一氏が書いた『虜人日記』の敗因21カ条の分析
【感想】
●『虜人日記』には、太平洋戦争のときフィリピンに派遣されていた際のことが書かれている。何の力も顧慮せずに書かれたものであることから、ありのままの内容であるため、読めば有用な教訓が得られるであろう。
●著者が書いた、小松氏の敗因21カ条の分析を読むと、今日の日本社会に通ずる内容が多々あり、なるほど改善されていないと思われる点が多々ある。反省すべきではないだろうか。 -
日本人の本質をあぶり出した素晴らしい本。歴史の勉強にもなる。
-
この本もう何度読み直しただろうか。10年以上も本棚に置いてあり折に触れ読み返している。小松真一著「虜人日記」を紹介しつつ、山本七平氏が解説を加えていく体で構成されているこの本を読めば、日本人というものがどんなものなのか、よくわかる。太平洋戦争末期の状況下における日本人たちの振る舞い。
時折「日本の軍備は実はどこそこの国よりも凄いから、日本人が戦争をしたとして弱くはないのだ」というような物言いを見かけるが、ハード重視ソフト軽視な日本人らしい見方だと思う。この本に示されている「出鱈目な人たち」は、まんま、昨今会社で見るあの人や電車で見掛けるあの人らと、何ら変わらない。今日本が戦争に参戦したとして、どんなことになるのかは、この本を読めば火を見るより明らかだ。
そして戦争に限らず、外交や諸々の政策において、日本のダメさというのは、小松真一氏が敗因二十一ヵ条としてまとめたうちのひとつ「日本文化に普遍性なき為」これが非常に大きいのだと、思わざるを得ない。 -
虜人日記を下敷きにした冷静な歴史の検証。
時制の峻別。その時代の目撃者の証言か後代の記録か。
戦時中の愚かしさ、それが今なお変わらぬこと、二重に戦慄する。
・予定稿を押し付ける記者となれ合う取材者、世論。これに侵されていない記録としての虜人日記。
◯人びとは危機を叫ぶ声を小耳にはさみつつ、有形無形の組織内の組織に要請された日常業務に忙しい。そしてこの無反応を知ったとき、危機を叫ぶ者はますますその声を大にする。しかし声を大きくすればするほど(略)人びとは耳を傾けなくなる。(略)だがそのとき、だれかが、危機を脱する道はこれしかない、と具体的な脱出路を示し、そしてその道は実に狭く(略)全員の過半数は脱出できまい、といえば、次の瞬間(略)一斉に総毛立って、その道へ殺到する。
◯バジー海峡の「死のベルトコンベア」
→制海権のない海に一坪14人の兵員を満載したボロ船で戦地に送る。戦わず何もせず死ぬ。士気、思考の喪失。
→意図、方法論、組織立ったこともなく場当たり的な対処で結果としてアウシュヴィッツ以上の効率で大量殺人装置となる。
→同一方法、同一方向へとただ繰り返し拡大にのみ終始し、その極限で崩壊。「やるだけのことは、やった」
◯「員数」という架空の数を実数と仮定しての命令だから、はじめから実行不可能。できぬといえば精神が悪いと怒られるので服従するが、実際問題として命令は実行されていない。
◯「相手を自分と同じ人間とは認めない」という立場で発言しており、その立場で相手の非を指摘することで自己を絶対化し、正当化している。
→一方で、ゲリラとの会話により交渉している個人もいた。 -
当事者ではないからこそ、「あれは昔のこと」精神で済ますのではなく、何故愚かな戦争への突入を止められなかったのか、考え続けないといけない。
-
東浦