ある島の可能性

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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047915435

感想・レビュー・書評

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  • 人は老いにどのように追い詰められていくのか。
    なら原因を断てばよいのでは?を実現した場合の、シミュレーションとして読んだ。

    年齢の低いうちに宗教をとことん突き詰めておけば、新興宗教に影響されることはないんだなと思った。

  • すげえな。ウェルベックは。

    テーマは中年の性と老い。セックスを中心的なテーマにしている現代作家と言えば、たとえば村上春樹が思い浮かぶが、何というか、スケールのデカさが圧倒的にウェルベックの方が上。

    性が氾濫して、それに関する規範がとうに失われた現代において、愛は如何にして可能か。そうした重厚なテーマが、セックスショップ的、ワイドショー的な下世話さと全く不自然さのない形で同居していて、そのごたまぜ感を人類史/地球史的なヴィジョンへと展開させていく。

    だが、そうした思念的な強度よりも、具体的な人間臭さが実にリアルなのが、この作品の小説としての見事さであるだろう。

    若い恋人のバースディ・パーティの乱痴気っぷりの中で、必死に居場所を見出そうとする主人公の中年男の姿とか、とてもよく描けている。この場面のいたたまれさには、ホント、胸が締め付けられる思いがしたものですよ。

  • つらい。ウェルベックというのは皆がキャッキャウフフと雪合戦を楽しんでる中1人鉛入りの玉を無言かつ全力で投げ付けてくる様な、身も蓋もなさが本当に凄まじい作家だ。高度資本主義と科学技術と現代宗教、生と性への欲望三点締めのアングルから描かれるダニエルの生き様は未来からの注釈で一層悲哀を増し、誰もが老いと死から逃れられない現実を無慈悲なまでに突き付ける。人間とは所詮粘液に塗れ朽ちるだけの生物なのだろうか。否、それでも人は愛や美を求めようとする。それは愚かさなのかもしれないが、ウェルベックは決して否定しなかった。

  • クローン技術が発達すれば生殖行為は必要なくなるだろう。『素粒子』の続編という位置づけかもしれない。未来の世界が描かれてはいるけれども、これはSFではなく、クローン技術もカルト宗教も、いまの全世界の人類にはずいぶん身近な話題で、読者に馴染みのある現代が描かれている。あまりにも具体的な固有名詞が多すぎて、誰かに訴えられそうなくらいだ。
    ウェルベックの作品に脈々と一貫している思想である、生きていくことへの疑問、性欲の強迫観念、さらに今回は加齢の恐怖が追加。小説に出てくる宗教団体は、おそらくラエリアン・ムーブメントという実在するカルト宗教がモデル。どこの宗教も基本的には似通っている構造であることよ。
    なぜ書くのか、そのウェルベックの信念が主人公ダニエル1とシンクロする。読者は未来の世界を見つめることができるだろう。この物語は、いったいどうやって終わるのかなと思ったら、最後の最後まで、ある世界が丁寧に描かれていて、うーん脱帽。

  • 衝撃的な作品だ。世間的な価値観にとらわれず、クールで個人主義を貫く、ダニエルの愛の物語。現在のダニエルとクローン複製された未来のダニエルが、人生とは何か?愛とは何か?老いとは何か?文明とは何か?を交互に語り継いでいく。ジャンルとしては、SFの範疇に入るのかも知れないが、セックスもせず、交わりもせず、ある意味で仏教でいう悟りの境地に達した未来人(ネオ・ヒューマン)が人間存在とは何かについて考察するという設定が、僕たちが、普段、見過ごしてしまっている人間の本質について問いかけてくる。425頁のボリュームの随所に哲学的な思索が散りばめられ、いたるところに日本語としては馴染みのない卑猥な文章描写があるので、一部の読者にはかなり読むのに抵抗があるかもしれない。

    だけど、ダニエルの愛に対する苦悩には圧倒される。売れっ子コメディアンの彼は、美しく知性に富む女性雑誌の編集長イザベルと恋に落ちる。イザベルは性的快感に身をまかせることができない。年齢を重ねるにつれ、自分の肉体美を維持できないことが彼女の心をしだいに蝕み、いつしか二人の間には性的な関係はなくなる。愛は性的な関係なしに存在し続けるものなのだろうか?ダニエルは感じる。『性行為がなくなると、相手の体が、なんとなく敵対しているものに思えてくる。それがたてる物音、その動き、その匂いが気になるようになる。そして、もはや触れることもできず、交渉を通して聖化することもできない相手の体は、少しずつわずらわしいものになっていく。・・・エロチシズムの消失にはもれなく愛情の消失がついてくる。鈍化された関係なんて存在しない。高度な魂の結びつきなんて存在しない。・・・肉体的な愛が消えたときに、すべてが消える』

    ダニエルにとっては男女の関係のみが人間関係の全てだ。ダニエルは、『一定の年齢を超えたふたりの男にしっかりと話し合えるテーマなんてあるだろうか』と男同士の人間関係に懐疑的だ。肉体が老衰し、性的魅力が失われていくと共に、人生の意味や喜びが徐々に消えていく。誰もが愛のために死ぬというより愛の欠如のために死ぬのだ。イザベルとの離婚後に、ダニエルは若くて、最高にセクシーな女優エステルと交際するようになる。エステルは、ダニエルに最高の性的満足を与えるが彼女は愛を知らない。ダニエルは次第に奔放に生きるエステルの恋の奴隷となっていく。『愛とは、弱者が強者を糾弾し、強者生来の自由と残忍さを制限するためにつくりだした虚構にすぎないだろう』『愛は個人の自由や自立の中に存在しない。あるとすれば虚構である。愛は無への、融合への、自己消滅への欲求の中にしかない』

    『結局のところ、人はひとりで生まれ、ひとりで生き、ひとりで死ぬ』

    愛とは何だろう?

  • 同一的な人物が2つの隔たった時で、物語は進んでいく。
    入れ子構造だ。モチーフもいつもながらの性と宗教。主人公はコメディアン。語りは露悪と感傷が入り混じっている。コメディアンだからだろうか、老いの重さがひときわ切実に伝わってくる。二重構造にすることで、老いが乗り越えてはいけないものであることも暗示している。最後の「ある島の可能性」の章の荒涼さは本当にひどい。本を閉じればおしまいではなくて、こびりついて離れない荒涼さだ。ボードレールをちゃんと読もうと思った。

  • ウェルベック2冊目。これも強烈。
    (以下、ネタバレには気を付けていますが序盤のクライマックスには触れてしまっています)

    芸能の世界で寵児となり、放埓な日々を送る主人公、ダニエル。いろいろな偶然からある宗教団体に接近していく。そこでは、DNAの複製を通じた永遠の生命が真剣に研究されていた。

    物語は、ほぼ現代の「ダニエル‐1」(第一世代)と、その数千年先のダニエルの複製にして遺伝的はるかに発達したネオ・ヒューマン「ダニエル―24」(24代目)と「25」の考察が交互に進む。未来では人間は感情も完全に安定し、ただ第1世代が残した記録を読み返す日々を送っている(おお、村上春樹の「ハードボイルド・ワンダーランド」の世界)。

    ダニエル‐1側の性描写がとにかく激しく、電車の中で読みながら「違います、純文学です」というオーラを必死に出したが意味があったかは分からない。

    そんなことより圧巻なのは、CNNのヘリが飛び交う中、教祖が実際に「復活」するシーン。さらに息を呑むのは、DNA再生技術は実は未確立のままで、にもかかわらず「いずれは実現する」ということを信じる信者たちが自分の遺伝子を登録したのち、自ら老衰した身体を「終了」させていくという展開。
    科学の時代の「死後の世界の信じ方」がこれだと・・・。

    これ以上はポリティカリー・コレクトに紹介する自信なし。必読に値する本とだけ言っておきたい・・・

  • かっこいい。

    騒々しくて賑やかな世界が行き着いた、淡々と静かな世界。自閉は進化から取り残されたのか、進化を先取りしているのか、それとも生物学的多様性の一つなのか。そんな視点で読みました。

    著者の他の本は、カッコ良さげな割にいまいち話題は下世話だったり、プロットの面白さだけで引っ張ってたりするんだけど、この本はいいとこだけ出た感じ。のってる時なのね。

著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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