ロシア 苦悩する大国、多極化する世界 (アスキー新書 198)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048708715

感想・レビュー・書評

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  • グルジアが2008年8月の北京オリンピック時に南オセチア侵攻を急いだ背景には、オリンピック期間中であれば、ロシアも大きな反撃に出ないだろうという甘い予測とアメリカの軍事支援への期待という2つの誤算に加え、グルジアの内乱の混乱があった。

    冷戦の遺産であるNATOがソ連解体後も存在するなど、ロシアと欧米、とくに米ロ関係はつねに緊張してきた。世界戦略について、ロシアが多極化を目指してきたのに対して、アメリカは自国主導の一極支配の世界秩序を追求うしてきた。

    ロシアにとっても新冷戦を避けなければならない事情があった。欧州はロシアに天然ガスを依存しているが、そのことはロシアにとって実は外交カードにならないl。ロシアの方が高値でガスを安定購入してくれる欧州諸国に経済的に依存している。それはプーチンも理解している。

    プーチンは自身の支持率を上げるためにもチェチェン攻撃を行った。愛国主義と外国人排斥を煽ってきた。

  • ここ数年のロシアの外交を分析している。あわせて周辺国の情勢分析もあり、問題がわかりやすい。
    著者を引き続き追いかけたい。

  •  近年のロシアを巡る国際情勢を概観する上でためになる本。 シノドスジャーナルやウェッジ・インフィニティの連載をもとに,最新の事情を加筆してある。
     冷戦終了後も,旧ソ連諸国への影響力を失いたくないロシアと,西側諸国の対立は解消されなかった。ただ,イデオロギーが抜きになった分,緊張はだいぶ緩和。プーチン政権誕生後,911で国際社会がテロとの戦いを錦旗とするに至って,チェチェン問題等を抱えるロシアも大手を振って分離独立運動を封じ込めていけるようになる。ここで一時米ロ関係は好転するが,一極的世界を追求する米と多極化を求めるロシアとの路線はやはり対立。2002年からグルジアやウクライナで親米的な色革命が起こり,NATOのMD配備問題等もあり,米ロ新冷戦の様相を呈する。
     しかし,イデオロギーの衰退のほか,進行した経済的結びつきもあって,かつてのような対立は抑止されている。欧州はロシアから天然ガスを輸入しているが,逆に欧州も天然ガスで急成長したロシアにとって生命線。中国はまだ大量のガスを高くは買ってくれない。
     ロシアは旧ソ連諸国を「近い外国」として重視。欧米への接近を警戒している。それと,これら「近い外国」には,未承認国家問題を抱えるところが多い。「民族自決」と「領土保全」という矛盾する原則をどう扱うか,難題だ。チェチェン問題の存在にもかかわらず,ロシアはグルジアの未承認国家アブハジアと南オセチアを国家承認している。これはコソヴォの独立を欧米諸国が支援したことへの対抗策で,2008年「グルジア紛争」の主要因の一つにもなっている。
     ウィキリークス問題の波紋も興味深い。米外交公電が暴露されたことで,ロシアの米国,NATOに対する不信感が増した。また米国によるウィキリークスへの弾圧を,ロシアが言論の自由の侵害だと批判。ロシアの方が露骨な言論弾圧をしているのだが,「内政問題」との逃げ道を確保。
     今年は世界各地で暴動が起こって騒がれたが,ロシアでも民族問題にからむ暴動は多い。プーチンはじめロシア政権は,民族主義を自らの権力強化の手段として利用してきたが,それが裏目に出てきている。
     巻末には追補として,311の震災に対するロシアの対応等がまとめられている。アルメニアの原発問題にも触れる。アルメニアも地震国で,危険な原発を抱えている(格納容器がない型)。欧州が運転停止を求めているが,代替電源がなく難しいようだ。事故がおきないといいが…。

  •  廣瀬さんは慶応大学の先生。

     この本は、冷戦が終わって、多極化する世界情勢の中で、ロシアが微妙な外交のかじとりをしていることを、詳細に分析している。

    ①オバマは対ロシア関係をリセットして、MD配置計画を見直すなど、ロシアとの関係を回復しつつ、国務大臣のクリントンは対ロ関係が悪化しているポーランド、ウクライナ、アゼルバイジャン、グルジアを訪問して、自分たちが見放されたのではないことを伝えている。(p54)

    ②ロシアは、2009年にイスラエルから無人偵察機を購入するとともに、イランに対する対空ミサイルの供与を停止した。(p64)

     イスラエルはアメリカから軍事技術の提供をうけており、それがロシアに環流することに、米国政府はどう反応したのだろう。

    ③メドベージェフ大統領の昨年の北方領土訪問は、強い大統領を鼓舞したいという内政要因もあるが、コーカサスなどで、未承認国問題で火がついた領土問題とも無関係ではない。(p79)

     民主党の日米同盟にひびをいれた手違い以外に、ロシアとしては、東方での領土問題との関係も北方領土訪問にあるという指摘は新鮮。

  •  若手(中堅?)コーカサス研究者として時事問題も含めて広く議論をする廣瀬氏の3冊目の新書。正直、これまでの2冊より評価できる部分があるような気がする。

     今回の著書は、前回までの本と違い、若干、価値判断に留保を設けたり慎重になっている点があり、また物事の評価についても両側面から見ようとする姿勢も見られる。他方で、一方的、断定的になり過ぎる点もあるが、それでも時事問題を今まで担当してきた古株の先生方(Y内先生やS米先生、H田先生)と比べれば、こちらの方が若く新鮮な感じがしていいようにも思える。

     高校生や学部生などが関心として読み始めるには良い本かもしれない(知的好奇心をくすぐられるという意味においては)

  • 著者の廣瀬さんは慶應義塾大学総合政策学科の准教授でロシア・コーカサス関係が専門です。

    本書は、その廣瀬さんによってロシアと中国、コーカサス、そしてNATO(欧米)諸国との関係について書かれた本となります。

    基本的に「ASAHI WEB RONZA シノドスジャーナル」に連載した記事を基にした内容となっており、その為か、ロシアと周辺諸国との関係をテーマにはしていますが、それぞれの項目の内容に余り連携が見受けられない感じもします。

    とは言え、日本ではほとんど報道されない事柄の解説などもあり、決して読んで損はない内容となっております。

    本書では、

    中国と関係を深めていくロシアも、中国が資源目当てに、ロシアが「近い外国」と呼んで自国の強い影響圏下にあると見なしている中央アジア諸国に対して接近していく様子に強い苛立ちを感じている事や

    ロシアを仮想敵国と見なし、ロシアの近隣諸国へ接近するアメリカに対して、ロシアが強い苛立ちを感じている様。

    そしてこれがグルジア紛争の一因になった点。

    グルジア紛争でイスラエル製の最新兵器に悩まされたロシアが、イスラエルをはじめとする西側諸国の兵器を導入し始めている様子。

    ロシアと極右勢力、大規模山林火事とそれによる政権批判などが書かれていました。


    またその他に、

    ソ連崩壊後、力の真空地帯を埋める為、NATO(欧米諸国)が進出。
    それを自国の強い影響圏「近い外国」に対する手出しと見なしたロシアの強い反発。

    力の低下によりロシアとの協力を余儀なくされたアメリカが、反ロシアを掲げる「近い外国」とロシアとの間でバランスを取る事に苦慮している様子。

    国力が不十分な米ロ両国やコーカサスの諸国の腐敗した独裁政権によって生み出された力の真空地帯が、イスラム勢力により埋められ様としている事なども解説されていました。


    そして本書の最後に追補として福島第一原発の事故に対するロシアの対応やその思惑についても書かれていました。


    どちらかと言えば、ロシアと周辺諸国との関係に関する事柄の紹介と言った内容が多い為、専門の研究者の分析を読みたいと思っていた方は少し当てが外れるかも知れません。

    #ロシアそのものについてもっと詳しく知りたいという方には、「ロシアの論理 武田善憲/著 」の方がおすすめかも。

    その為か、ロシアに関してある程度の知識を持つ方が読むのが一番良い感じではあります。

    しかし、ロシアを巡る国際情勢について多元的な見方をする良い切っ掛けになるのではないでしょうか?


    お時間のある時にでも一読をおすすめします。

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著者プロフィール

政治学者。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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