今回もベトナム戦争。
「僕が戦場で死んだら」では、彼の体験が直接書かれていた。
「カチアートを追跡して」ではカチアートという不思議な人物を使い、幻想的にベトナム戦争を表現していた。
「ニュークリア・エイジ」では変質的に核を恐れる人物(考えてみるとまともな人間なのかも)を登場させ、彼の恐怖を通してベトナム戦争とは何かを表現していた。
今回はベトナム戦争へ参加し、虐殺に加わり、戦後その体験を隠して生きてきた人物を登場させる。
物語は選挙に落選したジョンが妻と人里離れた湖畔のコテージに引きこもっているところから始まる。そして、妻キャシーがボートと共に行方不明になり、その事件を中心にして物語は進んでいく。
ベトナム戦争と行方不明の妻のことが僅かに形を変えて、繰り返し繰り返し、しつこい位に描かれている。
小説の中にでてくる虐殺は実際にあった話で、「ソンミ事件」といわれている。有名な事件で、ニュークリア・エイジの中でも出てくる。こういう問題を数字で表すのはどうかと思うが、殺された人数についてはアメリカ軍の数字は109名、ソンミ村の記念碑に刻まれた数字は504名となっているようである。小説ではこの虐殺の場面が描かれているが、とにかく酷い。実際に見ているわけではないのに、目を覆いたくなった。
ティム・オブライエンは様々な表現方法でベトナム戦争を書いてきた。彼は作品全てを使ってベトナム戦争を表現しようとしている。しかし、彼の視点は常にアメリカの側からのものに過ぎない。彼はアメリカ人であり、ベトナム戦争に従軍し、アメリカ人としてアメリカ人のやったことを考え、明らかにし、人々に問い掛けるしかない。それはそうなのかもしれないが、自分は、どうしてもそこにアメリカ人の傲慢さを感じてしまう。凄い人だし、偉大だと思うが、感情的な面で彼のそういう所が好きになれない。
それでも彼の作品を読まずにはいられないし、彼の作品には考えさせられることが多い。