- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061498914
感想・レビュー・書評
-
2007年刊の、言わずと知れた大ベストセラー。
それを今になって読むか! と思わないでもないけれど、読んでよかった。
筆者の専門である分子生物学にかかわる話は、この人一流の卓抜な比喩でイメージとしては伝わるのだが、やはり難しい話には違いない。
学問領域としても若い分野だからこそ、なのか、そこに福岡さん自身の研究者としての歩みを重ねて叙述されている。
『二重らせん』で栄光をほしいままにしたワトソンらの陰に隠れてしまったローズ・フランクリンの話は、痛々しい。
ポリメラーゼ連鎖反応という原理を使って、任意の遺伝子を増やす方法を思いついた技師のマリス。
興味深い人たちが次々と出てくる。
そして、シュレーディンガーの問い。
物理学の人だとしか認識していなかったけれど、生物学にとっても重要な人だということを初めて知った。
なるほど、「分子」生物学を開くきっかけになるはずだ。
12章以降は筆者の研究に関わるところ。
細胞膜の中で、外に出されるたんぱく質が小胞体に送り込まれ、ある場所まで運ばれた小胞体は細胞膜と触れ合うと、癒着して内部のものを出す。
こんなメカニズムがあるのか、と驚嘆した。
GP2というたんぱく質を完璧に持たないよう遺伝子操作
したノックアウトマウスの実験は、難しいながらも、それでどうなるの?と、思わず引き込まれた。
その結果わかったことも、考えさせられる。
すべてのタンパク質分子を欠落させるより、部分的な欠落や改変の方が、生命にダメージを与えるのだ、と。
生命は、自分を守るために、驚くべき解決方法を作り出す。
ただただ驚嘆である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
茂木健一郎の帯を見て
生物学分子生物学の歴史
遺伝子の構造解析から
現代の遺伝子地図に至るまでの
発見応用とトピックス
大変面白くよくわかる
難しい内容を分かりやすく説明している
野口英世の話はあちこちで引用されている
けっこうメジャーなんだ -
前半は生物学の基礎、後半は筆者の研究とその背景にある魅力が描かれている。内容もさることながら、筆者の文章力が素晴らしい。自分の研究を語るだけに終わる研究者が多い中、一般的な美意識との橋渡しができている。
-
ヒトは食べたもの、カラダに入れたものの積み上げで、動的に成り立っている。なるほど深く実感。 福岡先生の「研究者 人間観察」も、文系的な視点で、違った味わい。 実は野口英世は…って件は、ちとショックだったなー。 『二重らせん』はぜひ読んでみたい。
-
講談社の月刊誌『本』の2005~2007年の連載を纏めたものであり、科学者の書き下ろす新書版の多くの本とは趣を異にする。
サントリー学芸賞(2007年)、新書大賞(2008年)の受賞作。
福岡ハカセは本書で、「生命とは何か」について、論理的に説明するというより、その究明に携わってきた科学者に関する興味深いエピソード、トピックを交えながら、エッセイ風に綴っている。
そして、その筆致・展開力たるや本職の書き手顔負けである。大ベストセラーとなったのもむべなるかなである。
二十世紀最大の発見と言われるDNAの二重ラセン構造の発見に関する疑惑~ジェームズ・ワトソン、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンズがノーベル医学生理学賞を受賞した、DNAの二重ラセン構造の発見については、ワトソン本人がその発見の過程を『二重らせん』に記しているが、その発見の陰には実は最も重要な寄与をしたロザリンド・フランクリンの存在があった。。。
また、『マリス博士の奇想天外な人生』(福岡ハカセ訳)に詳しい、マリスが彼女を乗せてドライブ中に、ノーベル賞の対象となったDNAの複製を作成する革命的な新技術「PCR」を閃いたエピソードも紹介されている。
「生命とは何か」に関する様々な興味を掻き立ててくれる良書である。
(2009年11月了) -
私には難解な内容だったが、著者の美文に引き込まれて、あっと言うまに読み青えたという感じ。
『生命とは動的平衡』という考えが良く理解出来た。
率直に「生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性」と結論してしまう科学者の精神の強靱さには感嘆してしまう。
些か的外れかも知れないが『生命の動的平衡』ということから、「いのちは個々に所有するものではなくて、大きなひとつで生物はそれを一定期間分け合っている」という仏教的な思想を思い出してしまった。 -
生物とは何か
自己複製能力→DNAとは。
ウィルスは自己複製するが物質のように振る舞う
動的平衡 無秩序が、圧倒的な分量により秩序になる。シュレディンガーの生命とは何か
生命のダイナミックな感覚は、実際に動いていることではなくて、裏側にあるたくさんの構成要素の営みから感じられる感覚なのかもしれない。 -
だいたいベストセラーは読まない。というか、この本は発刊当初一度手にとって、あまりおもしろそうに思えず、棚に戻した。それが、見事に売れた。だから、天邪鬼な私は、読む機会を失っていた。ところが、NHK「爆笑問題ニッポンの教養」である。おもしろい。実におもしろい。(いま、ガリレオにはまってます。)からだを作っている原子・分子は常に入れ替わっているという。そういうことが実験的に20世紀の前半に分かっていたという。すぐに書店で買って読んでみた。本当におもしろい。野口英世について。日本では立派な医学者として有名だけれど、実はそうでもなかったとのこと。そのことが、あたかも自分がその場に居合わせたかのような雰囲気で伝わってくる。科学の歴史について語りながら、科学者の倫理についても語られている。そして先取権争い。誰が最初の発見者か。誰が一番初めに論文を発表するか。研究者の世界のどろどろしたものも伝わってくる。後半少し難解になるが、ぜひ皆さんにも読んでもらいたい。科学者の世界が垣間見える。
-
人間が食べる意味と言うのは、その食べた物のエネルギーをガソリンがわりにして身体を動かしていると言うのが定説だけど、この本に書かれていることは違った。
普通は人間が食べた物はまず身体に取り込まれ、その食べた物がその場で消化吸収され排泄物として出ると思われてるけどそれは間違いで、
人間が食べた物はまず身体の一部になる、そして身体の一部になっていた物が排泄物として排出される。
食べた物が身体を通して排泄されるのではなくて、何日、何週間前に食べてた物の身体に一部となっていた物、
すなわち古い細胞の部分が排泄物として排出されていたと言うこと。
つまり人間の細胞と言うのはどんどん入れ替わっているということで、元の自分は居なくて、常に食べ物を食べ続けることによる動的平行の中で、新しい自分に生まれ変わっているってことが分かった。
難しい用語や言葉が多くて理解出来ないところが多数あったので、
しっかり理解出来る様になりたいなと思いました。 -
一般の人間にはうかがい知れぬ現在の「研究者の世界」と、最先端の「生物学の世界」をわかりやすく紹介することにかけて、著者は実に優れている。
著者は、研究者としてはどうかは知らないが、「エッセイスト」としては「一流」なのではないか。
「相反する野口英世像」、「ウィルスの発見」や「DNA」の最先端の紹介は、素人が読んでもよくわかり面白い。
「ボスとポスドク」の世界が、同時に「研究室の奴隷(ラブ・スレイブ)」であるとは、「研究者という世界」が「栄光と名誉」だけではなく「膨大な犠牲者」が共存する過酷な世界であることを教えてくれる。
このような普通知ることができない領域、しかも「学問の世界」を知ることを「教養を身につける」といえるのではないだろうか。
本書を、「異世界を知ることができる」良書として高く評価したい。