塩の道 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061586772

感想・レビュー・書評

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  • 人間にとって不可欠な「塩」を手に入れるため、昔の日本人がどのような手段を取っていたかが紹介されています。中でも、山の中に住む人々が塩を手に入れるため、木を伐って川に流し、河口まで行ってその材木を拾って焼いて塩を取っていたというのは衝撃でした。そこまでの苦労をしないと塩を手に入れられなかったというのがすごいなと。
    これ以外にも、日本での製塩方法がいくつか紹介されていて、その辺の雑学も楽しいです。

    著者によると、塩の道はかつては牛が踏み固めた道であり、道草が牛によって食われた道であるとされています。つまり、その先に必ず何かがあると確定している道であり、旅人はそれを頼りに道を進んでいったことになります。その意味でも、塩が通る道は非常に重要だったことが分かります。

    この本では、塩以外にもサツマイモの安定供給によって江戸時代の人口が急増し、様々な職業が増えていったことや、畳が発明されたことで座ったまま生活をするようになり、食事が膳になってそこから幕の内弁当が作られるようになったことなどが紹介されています。塩の道以外のテーマについてはあまり詳しくないですが、面白い情報がいくつも入っている本です。

  • 明治時代の日本人の暮らしとは隔世の感がある。

    本書は昭和50年代に書かれている。
    日本全国を訪ね歩き調査するときに話を聞いた地元の長老はまだ明治生まれが健在であった。

    現在では戦前の話を聞くことすら難しいだろう。
    そういった意味で、すでにかつての日本の姿を新たに見つけ出すのは不可能だ。
    昔の日本の暮らしが知りたければ書物に聞くしかない。


    本書では「塩の道」「日本人と食べもの」「蔵氏の形と美」の三点が収録されている。

    海からしか採ることが出来ない塩を山村の住民はどのようにして確保していたのか。

    木を切り川に流し、それを海辺で回収し自ら塩を浜辺で炊いていた。
    それが瀬戸内海産の塩が海運で全国に運ばれるようになってからは、中から外の流れが外から中への流れに変わる。
    陸船を呼ばれた牛の隊列が日本全国に塩を運んでいた。


    失われた日本の姿は書物の中にしか残っていないのだ。

  • 親父の本棚から持ってきた本。

    「塩の道」「日本人と食べ物」「暮らしの形と美」の3作が収録されています。
    いずれも日本人の生活レベルの文化を読み解くお話。

    ・塩の生産法と販売ルート
     塩の生産方法の伝播と販売ルートに関する丁寧な記述が面白い。
     塩は生活に欠かせないもの。今では手に入れる苦労なんてほとんどなく、著者曰く「意識することもない」が、歴史上塩を生産し、手に入れることには多くの工夫と労力が割かれてきた。とんでもなく足を使ったであろう渾身の研究ですね。

    ・戦乱と食料生産
     食料を生産する人口と、戦う人口はまったく区別されてきたのが日本の歴史。
     戦国時代にあっても民衆はなるべく戦乱に巻き込まれないようにすることが重要事であり、
     ゲリラ戦は一般的ではなかった。
     ⇒自然の植物食料が非常に豊富だったこととはどういう関係があるのか?

    ・「軟文化」と「硬文化」
     日本は軟らかい物質を巧みに利用する軟文化であった。とくに生活を支えていたのが「わら」
     草鞋をはじめとしたわら文化は日本の大きな特色。3日に1回は履きつぶしてしまう草鞋は非常に大量に必要になるものであり、子ども時代からわら細工を覚える必要があった。また、この軟文化の特色は刃物をほとんど使わずに多くのものを作ること。わらだけでなく竹細工も同じ。これを各家庭、個人それぞれが身に付けることが生活上必要だったことは日本人の器用さの背景にあった。
     ⇒他の日本的文化の発現にもこうした生活上の必要の説明が多くあると良かった。

    ・日本家屋と畳文化
     まっすぐな木を使用する住宅だったからこそふすまによって、間取りを自由に変更できる形式が発達した。また、畳も部屋を自由に使える空間にした。

    民俗学の本、だけどそれほど小難しいことが書いてあるわけではないです。
    日本の歴史読み物として非常に面白い本です。

  • 昔の日本で、塩をどのように作り、運んでいたかを民俗学者が語る。内陸の村民が伐った木を川に流して、その木を海岸の村民が薪にして海水を煮詰めて塩を作っていたとか、馬よりも細い道を歩ける牛の背を使って塩を運んでいたとか、まったく知らない話が具体的に説明されていて面白かった。塩自体の神がいない説明が興味深い。

  • 20131223 講演会のまとめのため、読みやすい。日本人とは?ということを考えるきっかけになりそうな本。日本人として大事な事は何か、考えさせられる。

  • 塩と塩味が好きなので読んでみたのだが、次から次へと、日本の文化や生活に関する謎が明らかになって「ほほー」「へぇー」「はー」と感じ入る。
    日本人の生活習慣や風習で、なんでかなーと思うことや、疑うこともなく行っている行為について掘り下げるとこんな歴史があったのかと知ることができた。

    岩手の牛、牛のすごさ、これまた知らなかったよ。未明の地と思われていた東北・北海道が、大昔から日本経済を支えていたのである。

  • 宮本常一晩年の話がたり。日本人とは何か?というかそれを育てた型やあり方についての深遠膨大な知識。韓国人がどうのという前に、自らの民族史を読み返しても損は無いですは。

  • ・牛の大きな産地は西日本にあった。牛が東で飼われるようになったのは戦後。
    ・鎌倉時代、国々に地頭が置かれ、鎌倉の御家人が警察権と租税の徴収を行ったが、そこで自分の勢力をもった武士が戦争を起こした。奈良などの寺社勢力が強い場所には武士がいなかったため、戦争も起きていない。
    ・トウモロコシは根が深く下りるために、やせた土地でも育つ。
    ・18世紀初頭、瀬戸内海にサツマイモがもたらされ、その後の享保大飢饉ではほとんど人が死ななかった。サツマイモがつくられた西日本では、江戸時代の人口は増えた。
    ・古代中国の越が最後に建てた都は山東半島のつけねの琅邪山。

  • 専売制であった塩について、知りたいなと思い購入。専売制時代のお話はほとんどありませんでしたが、興味深い内容がたくさんあった。

    3部構成で、「塩の道」「日本人と食べ物」「暮らしの形と美」からなる。

    日本は、内陸に塩井なるものや岩塩などを存在しなかったため、海岸で塩を造作りそれを内陸まで輸送していた。その輸送する方法や輸送に生業とする者の話、そして輸送には馬よりも牛が使われ、牛の伝播についても書かれていた。

    第2部の「日本人と食べ物」辺ではトリビア的な知識が多く得られた。

    世界でも類がないこととして、日本は過去二千年はどの間に人口がずっと漸増してきている。異民族が大挙して侵攻してきたことがないのが大きな原因。

    また、大規模餓死がないことも原因の一つ。戦国時代に100年も戦争が続いて、みんなが餓死しなかったのは、戦争している人と、食べ物を作っている人たちが別であったことが餓死を防いだ。

    これも世界敵に珍しいことだが、ゲリラ戦が行われたことがない。戦争する者と食べ物を作る者が分かれているためゲリラ戦も行われない。ゲリラ戦とは民衆も参加して行われることがおこってくるものらしい。

    保存食なるものも紹介されていたが、記述量が少なく消化不良な感じ。発酵に関して興味がわいてきたので、別で読む必要あり。

    民俗学者が書いた本。科学者が書く本とやっぱり違いますね。これはこれでおもしろかった。

  • 研究者ではなく世間師といわれる宮本常一がフィールドワークでつかんだ史観。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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