孫子 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
3.98
  • (79)
  • (56)
  • (72)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 1100
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061592834

作品紹介・あらすじ

2019年10月YouTubeで話題!
「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」などの名言で知られる『孫子』。春秋時代の孫武が著わし、二千年以上も読み継がれた名高い古典は世界最古の兵法書として、また人間界の鋭い洞察の書として親しまれ、今日もなお組織の統率法や人間心理の綾を読みとるうえで必携とされている。本書は、従来の宋時代のテキストより千年以上も古い前漢武帝時代の竹簡文に基づく精密な唯一の解説である。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読み始めたときはフォン=クラウゼビッツの『戦争論』ほどの衝撃はなく、「こんなものか」と思っていたが、読み進めていくうちに「紀元前5世紀頃の成立といわれる書物とは思えない内容だ」と思うようになった。

    「兵は詭道なり」、「兵は拙速を聞くも、未だ巧久を睹ざるなり」、「彼を知り己を知らば、百戦して殆うからず」など、
    今までにいろいろなところで耳にしたことがある言葉が多数出てくるのだが、その大元である『孫子』の全文や解説を読むと、自分の理解はとても表面的で浅はかで、本物ははるかに深淵で広い意味もあったこともわかった。

    第1章の最初から「説教くさいな」と思ったのだが、よく読むと「君主が馬鹿だと戦に勝てぬ」ということを説いている。啓蒙主義の2000年以上前に君主の浅はか・身勝手な行動を制限し賢主としての振る舞いを説くとは恐れ入った。「前線(現場)の将軍に後方(で事情の分かっていない)王がむやみに指令を送るな」という考えが通信インフラが猛烈に進展した現代社会の様々な場面で通用してしまうのは、孫子の慧眼を褒めるべきなのだが、なんとも情けないというか、人間は2500年経っても変わらないというか・・。という気持ちにもなる。

    2章以降何度も現れてくるのは戦争による経済的損失の概念で、これにも非常に驚いた。兵を起こすことも戦場で維持することも経済的な負担が大きい(だからなるべくやるな)や、敵兵を破って勝つ(見方の損失もある)よりも彼我の損失なく取り込む方が上策であるということを繰り返し述べている。

    シミュレーションを重視する姿勢も見える。兵を起こす前、実際の戦闘の前、つまり戦略・戦術どちらのレベルでも何度もシミュレーションをし、勝つための算段をよく考えろという内容がいくつもの章で見られる。

    12章の用間篇では諜報の大切さや扱いについても述べている。これまでの章で述べてきた戦略・戦術論の大元である敵情分析、そのデータソースである敵勢の把握をする間諜についてを一つの章を割いて解説している。こういう部分でもただ戦闘をするための書ではないんだなぁと思わされた。

    また、本書の全般を通して合理的で現実的な考え方をしていることにも驚いた。
    今から2500年前の書物であるのでさぞ迷信も含まれているかと思いきや、「天の災いに非ずして、将の過ちなり」のように天の意思のようなものを否定する記述が何カ所もあり、全編を通して占いや迷信ではなく人の心の動きや地形に対する知識、技術を重視する姿勢を通している。

    本文のあとに付いている解説も良かった。
    書籍としての『孫子』の扱われ方だけでなく、その著者についてや時代背景も詳しく解説しており、本書の底本となった前漢時代の竹簡本の意味についても論じている。
    『孫子』の内容を理解するうえで必須の内容ではないが、書物の周辺の事情がわかるのも面白いので、本文の前に解説から読んでも良いと思った。

    本文の内容についてではないが、
    以前読んだガリア戦記には多数の異本があるというのに、『孫子』は漢代のものと宋代、それ以降のものもほとんど変わらないということに驚いた。
    これは『孫子』独自の特徴なのか、中国語文化の特徴なのだろうか。それとも東洋には「注釈を付ける」という文化があるため原文が保存されやすいのだろうか。

  • 2.7

  • 本書に限らず原典を読むのがベストではあるのだろうが、エッセンスを仕事に活かしたいというような人は、ビジネス書として刊行されている解説本を読んだ方が手っ取り早いかもしれない。
    尚、著者曰く太平洋戦争の敗因は孫子の教えに悉く逆らったとのことだが、近代戦争において孫子の教えがどの程度有効なのかというのは別途検証が必要であろう。

  • 現代でも経営者らに読み継がれる古典中の古典。確かに深みのある言葉が多く、本質的な意味で「使える」思想に出会えるだろう。

    本書から受け取った教訓は、例えば、

    ★戦う前が大事…「彼を知り己を知らば、百戦して殆(あやう)からず」(p54、謀攻篇)、「勝兵は先(ま)ず勝ちて而(しか)る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」(p62、形篇)。
    ★結果がすべて…「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」(p41、謀攻篇)、「上兵は謀(ぼう)を伐(う)つ」(p44、謀攻篇)、「小敵の堅(けん)なるは、大敵の擒(とりこ)なり」(p48、謀攻篇)。
    ★成功体験を反復してはいけない…「故に其の戦い勝つや復(くりかえ)さずして、形に無窮に応ず」(p106、虚実篇)
    ★他人に人生を委ねてはいけない…「故に兵を用うるの法は、其の来たらざるを恃(たの)むこと無く、吾が以て待つこと有るを恃むなり」(p144、九変篇)
    ★将たるもの相矛盾する性格を併せ持たねばならない…「故に将に五危(ごき)有り」(p146、九変篇)、「卒未だ塼親(せんしん)ならざるに而も之を罰すれば、則ち服さず」(p168、行軍篇)、「天の災いには非ずして、将の過ちなり」(p180、地形篇)

    これは座右の書だな。マストバイ。

  • パターン化やフレームワークでの戦況分析など、めっちゃ仕事できるな!という感じ。今まで読んだ本だと君主論に近しい内容があるが、より戦略戦術にフォーカスしている。

  • 人類には早すぎる天才・孫武先生って感じでした。
    こんなに頭がいいのでは周りと話が合わずに孤独だったんじゃないかと。

    意外にも戦争については消極的な思想。

    戦争とは外交手段の最終手段であり、戦争は自国を消耗させるためなるべく戦争に至らずに解決すべき。
    ただ、一度開戦を選択したならば、準備期間を設けあらゆる想定をし勝利を確信するまで軍備を行い、開戦後は疾風の如く敵国に攻め入り短期決戦で戦争を終わらせる必要がある。

    このような主旨も面白かったが、何より面白かったのは

    奇抜な戦法で負け戦をひっくり返して辛勝を勝ち取る軍師は褒め称えられるが、入念に準備して問題なく毎度勝利を収める軍師は目立たないので人々の記憶に残らない。

    という主張。
    確かに(苦笑)
    会社でもそもそも問題が起きないように入念な準備をして粛々と仕事をしている人よりも、問題点をそのままにしていざ窮地に陥ってから解決する人の方が出世する(苦笑)

    面白いなー。二千年以上前の本なのに得ることが沢山ありました。

  • 難しい。

  • 「孫子の兵法」は色々応用出来る内容が多いので読んでみるべき。少し硬めの文体かとも思うが、他の著者の本も合わせて読めば理解ぎ深まると思う。

  • 中国、最高峰の古典。合理的で、無駄がない。戦争は手段であって目的でないなど、武人にあるべき先入観をもっていないことが、現代に伝わった理由ではないかとおもっています。

  • 請求記号:399.2-ASA
    https://opac.iuhw.ac.jp/Akasaka/opac/Holding_list?rgtn=2M020311

    <三浦総一郎先生コメント>
    TacticsとStrategyは異なります。現代の社会は目まぐるしく進化し、異次元の生活への適応が求められる時代かと思われます。昔のTacticsは通用しないかもしれませんが、何千年も昔から多くの人々を魅了したStrategyは今もその輝きを増しています。それを手に取ることができます。

    <BOOKデータ>
    「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」などの名言で知られる『孫子』。春秋時代の孫武が著わし、二千年以上も読み継がれた名高い古典は世界最古の兵法書として、また人間界の鋭い洞察の書として親しまれ、今日もなお組織の統率法や人間心理の綾を読みとるうえで必携とされている。本書は、従来の宋時代のテキストより千年以上も古い前漢武帝時代の竹簡文に基づく精密な唯一の解説である。

全55件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1946年, 仙台市生まれ. 東北大学名誉教授. 中国哲学専攻. 『黄老道の成立と展開』(創文社, 1992), 『孔子神話』(岩波書店, 97), 『孫子』(講談社学術文庫, 98), 『儒教 ルサンチマンの宗教』(平凡社新書, 99), 『古代中国の言語哲学』(岩波書店, 2003), 『戦国楚簡研究』(台湾・萬巻樓, 2004), 『諸子百家』(講談社学術文庫, 2004), 『古代中国の文明観──儒家・墨家・道家の論争』(岩波新書, 2005), 『図解雑学 諸子百家』(ナツメ社, 2007), 『古代中国の宇宙論』(岩波書店, 2008), 『上博楚簡與先秦思想』(台湾・萬巻樓, 2008)ほか.

「2016年 『『甲陽軍鑑』の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

浅野裕一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×