総員玉砕せよ! (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1995年6月7日発売)
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061859937

作品紹介・あらすじ

昭和20年3月3日、南太平洋・ニューブリテン島のバイエンを死守する、日本軍将兵に残された道は何か。アメリカ軍の上陸を迎えて、500人の運命は玉砕しかないのか。聖ジョージ岬の悲劇を、自らの戦争体験に重ねて活写する。戦争の無意味さ、悲惨さを迫真のタッチで、生々しく訴える感動の長篇コミック。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争の悲惨さを淡々と描いた作品。

    「90%は事実です」という作者の言葉通り、本書は前半は水木しげるが所属していた成瀬大隊のバイエンでの日常が描かれ、後半では兵士たちが玉砕し戦死していく様を描いている。作中には水木氏をモチーフにしたキャラクターも登場し悲惨な運命を辿るが、実在の水木氏は負傷のため戦死を免れている。

    後半の「意味のない玉砕」のために人間が次々と死んでいく様は衝撃だがそれ以上に私が痛みを覚えたのは、前半の従軍慰安婦の描写だ。兵士に人権がないのだから、それにあてがわれる女にも当然人権がない。茅葺き屋根の荒屋に押し込められ、日毎数十人の兵士がそこにずらーっと並ぶ様は、戦争がいかに人の倫理を壊し、弱きものがまたさらに弱きものを踏み躙る様子を冷ややかに表現している。

    また漫画の技法も面白い。
    ほとんどのページは、『ゲゲゲの鬼太郎』でお馴染みの木の抜けた水木しげる独特のタッチで描かれるのだが、随所にリアルなページが差し込まれる。兵士たちが折り重なり息たえている絵が所々に登場し、あっという間に現実の戦場に引き込むのだ。

  • 海外で賞を取った作品らしく、手に取ってみた。
    登場人物は、近所にいるような人間らしい人物ばかり。上官は、当時に存在しそうな性格をしている。
    実体験を元にしているが、最後はあえて全員死ぬようにしている。戦争の悲惨さを表しているんだろうな。

    人物は飄々と書かれているのに対し、亡くなった兵隊達が写真のように書かれているのが印象的だった。これは現実だと教えてくれる。

    漫画は、想いや映像を伝えてくれる。
    周りに戦争体験者が少なくなってきた今、戦争の悲惨さを知るために、こういった作品が必要だと思った。

  • 水木独特のストーリー展開と絵が新鮮かつリアル

  • 淡々とした描き方、登場人物の喜怒哀楽がわからない表情などから、余計戦争の怖さが伝わってくる。
    みんな玉砕は避けたかったんだよね、やっぱり、
    とか、ラバウルといえばうちのじいちゃんも…など、当時の人々の心情や生活を思い浮かべながら読んだ。歴史では日本全体が戦争に突き進んだ、異議はとらえられなかったと教わったけれど、やはり戦争の意義に疑問を持ったり、反抗したりした人々もいたのだと当時のリアルな世界を知った気になった。
    本作は水木しげる展に行って、原稿の展示を見るまで存在を知らなかった。水木先生ならではの表現で、グロい場面もありながら戦場のことを教えてくれる。

  • 読了

  • 水木は人間の本能に正直で、食うことばかり考えていて、どこか飄々として生き延びた者のように描かれているが、壮絶な体験は「そこまでして、守るべき場所だったのか」は、今も通ずるメッセージだと受け取った。

  • 図書館にて。
    最近終戦記念日あたりで水木しげるさんの特集をしていて、ぜひこの方の鬼太郎以外の本も読んでみようと思い借りてみた。
    予想よりはるかにすさまじい、残酷で強烈な内容。
    それはすなわち、実際の戦争が私の想像をはるかに超えてすさまじく、残酷だということだろう。
    これからも、どんなことがあっても、決して起こしてはならない。
    不安な昨今だけれど、戦争を起こさない決意と努力が必要だろう。

  • 末端の一兵卒から見た南方戦線の実情。悪疫に襲われ、食うに困る毎日に、何かといえば鉄拳制裁。さっきまで猥談をしていたと思えば、戦闘の前にあっけなく死んでいく仲間。まるでナンセンスギャグのようだけれど、半世紀以上前には多くの兵たちが生死をかけてその場に居たのだろう。

    やがて敵の上陸を受け寡兵でのバンザイ突撃敢行。それは生き残ることを許さない死の命令。指揮権の統率と体面を優先する指揮官側と、生死の意味を問う兵卒側。どこまでも平行線のまま、物語は再度の玉砕突撃へと向かう。

    すべて終わった後から見ている分には愚かとしか思えない作戦行動だけれど、もし自分が指揮する側としてその場にいたと考えると、彼らにも一分の理があると思えてしまう。そんな自分達が居る今の日本も、あのころから何も進歩していないのではないだろうか。

  • 著者曰く90%は事実の作品とのこと。
    本作の水木をモデルとした主人公は、最後に壮絶な戦死となる。
    ユーモアな生活描写を織り交ぜながらも軍隊のヒエラルキーの不条理さや非人間性に強い憤りと戦争の残酷さを痛烈に実感させる。
    体がバラバラになった無残な遺体の描写が言葉にならない無念さを訴えかける。

  • リアルな一兵卒の戦争体験。書籍によっては美化されたものもあるが、実際の一兵卒はこういう思いをしながらも戦わされていたんだろうと思うと恐ろしくなる。

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著者プロフィール

1922年(大正11年)生まれ、鳥取県境港市で育つ。太平洋戦争時、ラバウル戦線で左腕を失う。復員後、紙芝居画家を経て貸本漫画を描き始め、1957年『ロケットマン』でデビュー。以後、戦記もの、妖怪ものなど数多くの作品を発表。1965年『テレビくん』で第6回講談社児童漫画賞を受賞。1989年『昭和史』で第13回講談社漫画賞を受賞。1991年紫綬褒章受章、2003年旭日小綬章受章。主な作品に『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』『総員玉砕せよ!』『のんのんばあとオレ』など。2015年11月死去。

「2022年 『水木しげるの大人の塗り絵 あの世紀行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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