包む (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061962712

作品紹介・あらすじ

季節と詩情が常に添う父露伴の酒、その忘られぬ興趣をなつかしむ「蜜柑の花まで」。命のもろさ、哀しさをさらりと綴る「鱸」、「紹介状」「包む」「結婚雑談」「歩く」「ち」「花」等、著者の細やかさと勁さが交錯する二十九篇。「何をお包みいたしましょう」。子供心にも浸みいったゆかしい言葉を思い出しつつ、包みきれない"わが心"を清々しく一冊に包む、珠玉のエッセイ集『包む』。

感想・レビュー・書評

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  • 著者のエッセイをまとめた本です。

    本書の表題になっている「包む」という文章では、かつてお菓子屋に務めていたひとが著者のもとをおとずれ、菓子折りを包装紙で包む手順などが昔のままであることを見て、包を受け取ったとたんに心のなかのわだかまりが解けていくのを感じたと語ったことが記されています。そのひとの心のきわめて具体的な動きをつづっている文章ですが、そこに人間の心についての普遍的な理解へと通じる光が差し込まれているように感じられて、どことなく『徒然草』の名人譚を連想させられます。

  • 一つ読んでは唸り、また一つ読んでは唸り…
    唸りつくした1冊。見事としか言いようがない。
    昨今の小説を読んでがっかりするくらいなら幸田文さんの作品を読んでいたい。間違いがないもの。

    ちょっと自分にはついていけない…というような、細やかで独自の感じ方をされる方です。
    その感性や鋭い観察力によって心がどんなふうに動いていったかを表現する文章がまたすごい。

    名文のオンパレードで、心の中で「まいりました!」と平伏したくなることが何度あったか。

    例えば、「道ばた」の出だし。

    「茶の間は往来からたった六尺ほどひっこんでいるだけなので、外の物音や声は随分よく聞えてしまう。あまり何でもよく聞えるから、ときどき変な気もちにさせられる。からだが家のなかにいながら、眼だの耳だのが往来の物事のところへついて行ってしまう。そんなとき、茶の間が往来へ編入されているような気がするし、私が往来へ参加しているような錯覚も起きる。」

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    特に好きだったのはこの「道ばた」、「廃園」「むしん」「包む」「菓子」「枇杷の花」など。

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    読むうちにふっと堀江敏幸さんの随筆を思い出すことがあったのだけど、
    堀江さんは幸田文さんが好きなのかしら。影響を受けているのかしら。

    • m.cafeさん
      私も、そんなにたくさんは読んでいないけれど、幸田文さんの文章を読むとため息が出るほど感動します。
      堀江敏幸さんも最近、読んでみようかなと気に...
      私も、そんなにたくさんは読んでいないけれど、幸田文さんの文章を読むとため息が出るほど感動します。
      堀江敏幸さんも最近、読んでみようかなと気になっていたので、ゆきさんのレビューをみて、うれしくなりました。
      2012/10/29
    • ゆきさん
      m.cafeさん
      花丸とコメントありがとうございます。
      ため息とは、まさに、ですね。わたしもそうです。
      堀江敏幸さんは1冊しか読んだことがな...
      m.cafeさん
      花丸とコメントありがとうございます。
      ため息とは、まさに、ですね。わたしもそうです。
      堀江敏幸さんは1冊しか読んだことがないのですが、
      文体にどこか似た雰囲気を感じたのです。
      好きな本のお話ができて、こちらこそうれしいです。
      2012/10/30
  • 小津安二郎の映画みたいな昭和の生活風景が浮かんでくる、言葉遣いもゆかしいエッセイ。

    昭和29年〜30年ころの作。

  • 随筆。
    きちんとものを考えて暮らした女の人の言葉。
    おもしろく、はっとさせられ、
    度々反省する。

  • 15/10/11、神保町・三省堂古書館で購入(古本)。

  • いただいたお寿司(それもおそらく巻物)を全部食べられなくて勿体ないからと食べてくれる人を探して右往左往する幸田文さんがこの時代の一般の人の姿だったのか、当時としても珍しいくらいの凛とした方だったのか?凛とした人であることは異論はなくとも、おそらく前者だったのではあろうなぁ。
    昭和すら遠くなりにけった現代では想像もつかん。あゝ、冷蔵庫って偉大だなぁ。

  • 幸田文のエッセイ集は数々ありますが、最初に読むのなら「包む」をおすすめします。
    「何をお包みいたしましょう」で、思いがけないお土産を大量に包んでしまった話、幸田文の父が文が結婚するにあたって相手の親の気持ちになっていろいろ考える結婚雑談、晩年になって「この人私に似ている」と思う話、可愛がっていた猫をなくしてしまう話など読みどころが盛りだくさんです。

  • 100625(a 100801)

  • 堀江敏幸さんのエッセイ『回送電車3』より

  • 儂が生まれた頃に書かれたエッセイ集。観察のこまやかさ、内省の深さは流石。人に対する観察には怖さも感じる。感覚は大変モダン。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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