瘡瘢旅行

著者 :
  • 講談社
3.46
  • (3)
  • (16)
  • (19)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 114
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062156769

作品紹介・あらすじ

表題作「瘡瘢旅行」の他に、川端康成文学賞候補作「廃疾かかえて」、「膿汁の流れ」収録。平成の破滅型私小説作家・西村賢太の第五創作集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 図書館借り出し

    廃疾かかえて
    瘡瘢旅行
    膿汁の流れ

    秋恵もの
    瘡瘢旅行で藤澤清造に対する思いがよくわかる

  • 新聞の書評で知った本。私小説と言われているので、ある程度実体験に基づいているのだろう。その破滅的な思考や生活には、一種の才能を感じるが、小説含め個人的に肌に合わなかった。

  •  第5作品集。書影をネット上で見るとただの真っ黒にしか見えないが、実際にはブルーブラックの地の上に黒インクで装画が描かれている。

     表題作のほか、「廃疾かかえて」「膿汁の流れ」の2短編を収めている。
     瘡瘢(傷痕のこと)に膿汁に廃疾……タイトルからしていかにも西村賢太らしいまがまがしさである。これまでの作品にも、「焼却炉行き赤ん坊」「腋臭風呂」「けがれなき酒のへど」などというすごいタイトルのものがある。
     
     内容は、相変わらず。友人など1人もいない最低のDV男である私小説作家(作者の分身)が、同棲している女性に対してブチキレる様子がクライマックスに置かれた、まことに陰鬱な私小説である。
     にもかかわらず、面白い。暗さを突き抜けたユーモアがちりばめられ、大正期あたりの私小説のような古風な言葉と現代語を織りまぜた文体には心地よいリズムがある。

     私がいま独身の若者だったとして、親しくなった女の子に「どんな作家が好きなの?」と聞かれて西村賢太の名を挙げたりしたら、一発でドン引きされてフラれてしまうだろうなあ。
     しかし、若い女の子が好きそうなオシャレで甘くて嘘臭い青春小説より、ドクダミの煮汁のごとき味わいの西村作品のほうが読んでいて面白いのだから、仕方ない。

     とはいえ、これまでの作品集がどれも似たような内容なので(私小説なのだから当然といえば当然だが)、いいかげん飽きてきた。「けがれなき酒のへど」(私はこれがいちばん好き)を読んだときのような衝撃は、もうない。
     それでも、次の作品集が出たら私はまた読むだろうけど……。

  • 上手い文章とは何ぞやというのを考えるのに西村賢太の文章は良い試金石になる。

    「はな」という日本語の辞書にはない接続詞などに見られるように西村賢太の文章は正しい日本語でもなければ美しい日本語でもない。

    しかし、読み手をグイグイと惹き付ける良い文章だ。

  • 資料ID:21302249
    請求記号:913.6||N

  • 西村賢太の読み残しでした。
    私小説家はアーティストのように自分の内面を小説を通して表現するものだと感じました。

    そこには、フィクション小説とは違って、自らの思考をどれだけ包み隠さずに出せるかという自己に対する客観性と責任を持たなければならず、そういう意味では、西村氏は現在、他に見当たらない本物の私小説家だと感じます。

    本書は、いずれ貫多の元を去ることとなる秋恵との生活ですが、人称の使い分けにはどういう意味があるのかわかりませんでした。

  • 著者のあとがきによれば「興の乗りきらぬまま些か前のめり気味で仕上げた感は否めない」とのこと。確かに満腔から湧き上がってくる迫力が感じられなかった。身につまされるような一体感を覚えなかった。心を添わせることもできなかった。下品で野蛮、蔑みと憐れみの視線でもってしか眺められなかった。

  • 待ちに待った西村賢太最新作。
    この作家は、もっと評価されていいはずと、本気で思う。古い純文学の体をなしながら、これほど素晴らしいパロディーを描ける方が他にいるだろうか?
    物語展開の巧さ・会話の妙・そしてなにより、文語体を笑いに昇華させる文章力!
    とにかく頭のいい作家さんだなと感心します。

    物語は、貫太と秋恵のちょっと悲しくてほろ苦い、終わりのない男女の戦いを描く。
    男女二人の密室劇といってもいい設定だが、このふたりの日常の密度の濃さは異空間ともいえる。
    21世紀の小津安二郎か!
    デフレ時代には彼のような作品こそが求められるのではないかと思いました。
    今・これからの小説のトレンドになる西村賢太はどれもオススメです。

  • おなじみ西村賢太氏の秋恵シリーズ。
    芥川賞受賞前の初期に近い作品のせいか、やや泥臭い。
    同じ秋恵シリーズでも、「寒灯」はもう少しスタイリッシュな読後感があったなあ。
    貫多の祖母への思いを初めて読んだが(「膿汁の流れ」)、盲目的に可愛がられた体験が彼にもあったんだなあと、少し安堵の思いがした。

  • このリーダビリティの高さは特筆に値するよなあ。今作は同棲中の話が中心で、日常的かつどうしようもないやりとりがドツキ漫才のように繰り返される。これまでの賢太読者にとっては予定調和の世界でもあるわけだが、この居心地の悪さが居心地良くなっている。

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西村賢太の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×