津波と原発

著者 :
  • 講談社
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062170383

感想・レビュー・書評

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  •  ううむ駄目だ…。なんか,成功した老作家の傲慢ぶりが鼻につく。大災害に乗じて国家の危機を煽る石原慎太郎や,放射能汚染で市民を怯えさせる高村薫などの空虚な言葉に我慢ならずに執筆したらしいが…。
     津波が最初の1/4で,残りが原発と言う感じの配分。津波は被災地を見て,何人かにインタビュー。原発については歴史やなんやかやの背景も語られる。著者は『巨怪伝』とかいう正力松太郎の評伝をものしているらしく,そのバックグラウンドが活かされているのだろう。
     著者は『東電OL殺人事件』も代表作で,読んだが,あのときもかなり違和感があった。
     本書でも,この事件が引き合いに出されているがかなりこじつけ。「彼女が売春に走ったのは、東電のこうした陰湿な体質や、…男たちへの彼女なりの復讐だったのではないか」(p.77)
     本書を通じて何だか大袈裟な描写が目立ったが,被災地を訪れて筆者が感じた取るに足らない偶然を,極端に過大評価しているのが気になった。インタビューした旧知のオカマの名前をめぐる偶然に接して「この天変地異が宇宙の運行の磁場まで狂わせたのではないか。」(p.42)とかちゃんちゃらおかしい。
     同じくインタビューした共産党元幹部。彼は昭和大津波にも遭遇していてそのときは小便をしていた。今回の震災では入院中,ずぶぬれになった衣服を脱がされフルチンで救助を待った。この偶然の一致に,筆者は何か「不思議な暗号を感じ」たそうだ(p.60)。やれやれ。
     原発労働の悲惨さを強調するくだり,炭鉱労働も過酷だったに違いないとしつつ,そこから「炭坑節」が生まれた明るさがあったとか,国民の共感を得たとか言ってる。「原発労働者はシーベルトという単位でのみ語られ、その背後の奥行きのある物語は語られてこなかった」そうだ(p.107)。「炭鉱労働には、オレはツルハシ一丁で女房子どもを食わしているという『物語』が生まれやすい」のに対して「オレが何シーベルト浴びているから、女房子どもが食っていけるなんて、聞いたことがない」(p.222)とか一体何を比較してるんだろ?それで原発労働は売春に似てるとかのたまう。
     キワメツケはp.174。「正力は『ポダム』というコードネームでCIAに操縦されていた。最近そんな言説を鬼の首をとったように言ってはしゃぎまくっている輩もいるようだが、私に言わせれば『So What?(それがどうした)』である。」
    …なんて下品なんだろう。おそらくその「輩」は『原発・正力・CIA』の著者,有馬哲夫先生だろうが,自分のナワバリでなされた他人の仕事を正当に評価しようという姿勢がまったく感じられない。もうこの人の本を読むのはやめよう。ちょっとひどかった。

著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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