誰も戦争を教えてくれなかった

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062184571

感想・レビュー・書評

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  • 最近、テレビ番組で活躍されている若き社会学者古市憲寿さんの作品。個人的には彼のテレビにおける歯に衣着せぬ発言が結構好きなため、今回の本もそれに期待して購入した節がありました。
    古市さんの戦争観というものを期待していたのですが、今作品に関しては戦争博物館訪問記といった側面が強かったです。世界各国の戦争博物館に行って、各国が戦争のどの部分にフィーチャーしているのかを見出していくという趣旨のものであり、広島の戦争博物館しか行ったことのない自分にとっては「同じ戦争博物館でも国によってこんなに違うのか」と新しい見方を提供してくれるものでした。しかし、内容に関しては「この国の博物館はこんな感じ。この国の博物館はこんな感じ。」と非常に淡々としたものであり、面白味という点に関して言えばイマイチという印象を持ちました。

  • 1985年生まれの社会学者である筆者当時28歳は「僕にとって戦争は、あまりにも遠いものだった」と始める。そんな筆者が「戦争の残し方」の違いに注目し、博物館をめぐりそこに残されている「記憶」に関して考察をしていく。様々な国の「戦争博物館」を訪れた筆者自身のフィールドワークが土台となっているため、非常に引き込まれる1冊。

     この本の第1章で、気付かされたことは「博物館」というものの立ち位置だ。私自身は、旅先で博物館を巡ることが好きだ。しかし、これまで博物館の展示をただ受け取るだけで、その展示のあり方に注目をしたことはなかった。筆者は言う。「博物館はありのままの過去や、たった一つの真実を展示する場所ではない。博物館に展示されるもの、展示されないものの線引きは常に恣意的であり、そこに展示されないものは、その世界に存在しなかったことになる2728頁」。つまり、博物館という場所には、その国の「思い」が映し出されているといえる。

     また、最後には筆者独自の視点でまとめられた「戦争博物館ミシュラン」が載っており、興味深い。そこには、シンガポールの博物館も3つ紹介されているため、現在シンガポールに住まわせてもらっている一人として、一度訪れなければならないと思わされた。

  • 「戦争、ダメ、絶対」と繰り返しながら、僕たちはまだ、戦争の加害者にも被害者にもなれずにいる。
    右の人も左の人も、もちろん市井の人も、皆その就縛から逃れることが出来ていない。

    先の大戦から学ぶにには時代も戦争の形態も武器も変わり過ぎており、参考には出来ない。
    だとしたら、戦後70年近く続いて来た「平和ボケ」とも言える現実から思想やシステムから学んでいくしかない。

    詰まる所、誰にも戦争というものの本質を知ることは出来ないし、だから子孫に教えることも出来ない。
    だったら、いっそ戦争なんて知らない方が良い。

    僕たちは戦争を知らない。
    そこから始めていくしかない。
    背伸びして国防の意義を語るのでもなく、安直な想像力を働かせて戦死者たちと自分を同一化するのでもなく、戦争を自分に都合よく解釈し直すのでもない。
    戦争を知らずに、平和な場所で生きてきた。
    そのことをまず、気負わずに肯定してあげれば良い。


    ※以上は全て本書より抜粋、一部勝手に改稿。

  • 古市の戦争論。戦争論ではないか。世界の戦争博物館を巡りながら、過去の戦争を考えている。いつも通り飄々とした古市節が健在で、軽妙な軽口と皮肉が印象的。

    個人的に古市の好きなところは、ある出来事との時間的、心情的距離感を素直に描いているところ。彼の専門(?)は若者論だと思うが、現代の若者がとらえる「今」を視点として、時代をプラグマティックの見つめ直す。ここがいい。

    今回の戦争にしても、日本という国のアイデンティティにしても、強い思い入れがある人からすれば軽薄で無礼極まりない物言いだと思う。しかし有形無形に関せずあらゆるものは風化する。それをありのままに残そう、国の記憶として継承しようという努力はもちろん否定しないし、それがあってこその共同体だと思うが、それでもやはり抗えずあらゆるものは風化する。それは存在としての形も変化させ、それが持つ意味自体を確実に変えていくのだ。

    そういう現実にさらされている人間であることの地平に立って見つめたとき初めて見えるものがあるはず。だからこそより意味のある解釈が成り立つはずだ。

    彼の感性は、恣意的ではないにしろそういうものを教えてくれる。でも彼がメディアで用いられる原因がそこにあるとは思わないけど。


    17.6.18

  • 評論と呼べるのかどうかわわからないが、日本の置かれた状況と諸外国の戦争に対する考え方がよくわかると同時に、今の若者は、戦争にならないように動くのではないかと、かすかな期待を抱かせてくれる。

  • 誰も戦争を教えてくれなかった。
    だから僕は、旅を始めた。

    広島、パールハーバー、南京、アウシュビッツ、香港、瀋陽、沖縄、シンガポール、朝鮮半島38度線、ローマ、関ヶ原、東京……。

    「若者論」の専門家と思われている28歳社会学者。
    そして「戦争を知らない平和ボケ」世代でもある古市憲寿が、
    世界の「戦争の記憶」を歩く。

    「若者」と「戦争」の距離は遠いのか、
    戦勝国と敗戦国の「戦争の語り方」は違うのか、
    「戦争、ダメ、絶対」と「戦争の記憶を残そう」の関係は歪んでいるのでは――。

    「戦争を知らない」のはいったい誰なのか、
    3年間にわたる徹底的な取材と考察で明らかにする、
    古市憲寿、28歳の代表作!

  • 世界各地の「戦争博物館」を通して、戦争を考えるという趣旨の本。試みとして面白いと思うし、日本では戦争と言えば、「あの戦争(アジア・太平洋戦争)」がピックアップされすぎているのではないかという問題提起など、はっとさせられる論点も少なくない。しかし、著者特有のちょけた感じが本書でもいかんなく発揮されていて、これを読んで不快に感じる読者も少なくないだろうなともったいなく思う。また、将来は無人機同士の血の流れない戦争が行われるかもしれないといったあまりに楽観的な物の見方にはちょっとあきれた。

  • テレビでは割と本音でコメントをしているのを見て、以前から気になって今回やっと1冊目ですが読めました。

    戦争博物館では、国の平和と戦争に対する姿勢が見ることができるのではという考えから、世界中の戦争博物館(記念館)を訪れ、その体験(感想)がメインとなる内容。
    ただ、こういった博物館のハコモノは、展示のテクノロジーの発達スピードによる時代遅れや、戦後70年となる今、そもそも若者は戦争に対する切実感(リアル感)がほぼ無くなってきており、メッセージを伝えることに限界があるのでは?という結論に。

    新鮮だったのは、戦争には悪いイメージがあるが、スポーツ観戦のような楽しさや、景気回復の側面、人間には本来非日常的なことに喜びを感じる部分があるなど、一般的な日本人が持つ戦争に対するイメージと真逆のことも書かれている。

    K-POPやSEKAINO OWARIなどの楽曲が出て来たり、巻末ではももいろクローバーZとの対談もあって、20代の若者の思考に少し触れられる。

    この著者のような社会学者とは一体何なんだろうということを読んでいる間、考えた。
    学生の頃からたくさん勉強をして、大学では留学したり海外旅行をして、この世界の成り立ちを少しでも知ろうとしている。
    うらやましいというか、自分はもっと勉強すれば良かったという後悔(笑)と、著者のような頭の良い人間の思考に追いつきたいような感情(笑)。

    何はともあれ、この内容にある歴史のほとんどは知らないことばかりだったけれど、大事なのは知ろうとすることなのかなと、自分を鼓舞しました。

  • 戦争博物館をテーマに、日本や世界各国(偏りあり)が「戦争」や「平和」をどう捉え、伝えているのかを見ていく本。

    注や巻末の博物館レビュー、ももクロとの対談などおまけ部分(?)も充実。戦争について考えるときって、眉間にしわを寄せて悲壮な顔で臨まなきゃいけないような気がしてしまいがちだけど、こんな風に自然でいいんだと思う。

    こちらを読んで博物館の存在意義や面白さを考えることもできるし、「戦争」についてどういう態度であるべきか考えることもできる。

  • 同じ敗戦国のドイツ、イタリア(対日戦としては、戦勝国)だけでなく、韓国や中国などの戦争博物館の検証結果が示されている点で、信頼がおける「戦争論」だと思います。

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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