本当はこわいシェイクスピア (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062583121

作品紹介・あらすじ

アントニーはクレオパトラの何がそんなに良かったの?キャリバンとプロスペロー、関係のホントのところは?美少女も金貸しも奴隷も妖精も、みーんな性的で病的?本当は性と植民地、そして他者をめぐる挑発が満載されたシェイクスピア名作群のスリリングな読み。

感想・レビュー・書評

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  • いっとき流行った「本当はこわい」人気にあやかったのだろうか。「シェイクスピア劇の背景」で良かったのではなかろうか。テキスト読解に多角的視点を与えてくれるのはありがたいが、著者が自分の言葉に酔ってる感があって星2。巻末の参考書一覧は役に立つと思われる。

  • 単純に暗号やメタファーとしての「怖さ」を期待して借りたので、よもや批評理論が絡んでくると思わず、多分四割も理解できてない…。「テンペスト」「ヴェニスの商人」「オセロ」「アントニーとクレオパトラ」の四作品を揚げ、<性>と<植民地>をめぐる様々な力関係のドラマとして、シェイクスピアの演劇を読み抜いた一冊。徹底した白人・キリスト教・男性至上主義に驚きつつ、この時代の思想や社会背景を識らないことには、真にこの時代の作品を楽しむことはできないと思いました。形を変え、実は今も繋がっている差別の【こわい】一冊です。

  • まずタイトル。『本当はおそろしい~』。シェイクスピアで恐ろしくない作品をむしろ教えていただければ幸い、と思ってしまっていた。
    切り口は植民地及び性。
    最後にはポストコロニアリズムを取り入れての考察になっていた。
    そう言う考え方もあるね、という感じは受けたが、現在演じられている状況下とことなる上演形態であるということを忘れているように思われた。
    俳優は少年だったことを加味すれば、特に最後の「クレオパトラ」はおそらく、女性役を演じることのできる少年が最後にやれる役柄だっただろう。だからオクテーヴィアより妖艶で怪しげな演技もできただろうと思われる。オクテーヴィアがいかにもな淑女として描かれるのと対照的だという話があったが、それは演じる少年が未熟であるから、役者に合わせた台詞になっているということも、考えに一つ含んでおく必要があるように思った。
    研究する側はたびたび忘れてしまうことだが、シェイクスピアは演劇作品だ。流動的だし、演技によって意味はめまぐるしく変わる。時の情勢のいかんによって改ざんもされよう。どのような状況下で演じられたら、どのような意味合いを持つのか、ということを今一度再確認しておく必要がある、とこれを読みながら痛感した。

  • いわゆる南北問題。
    第二次大戦後、多くの植民地が政治的な独立を果たしたにもかかわらず、
    なお多くのアジア、アフリカ、南アメリカ、太平洋の国々が、
    それまでと変らない、あるいはそれまで以上の低開発と搾取にさらされてきたのが、
    いわゆる南北問題なのだが、
    大企業主導の金融グローバリーゼーションともいわれる多国籍企業の独占支配体制に見られるように、
    いまや先進資本主義諸国の支配は、国際的な資本や情報と文化の操作によって、
    より広範な支配体制を確立し、経済的な貧富の差を拡大させている。
    それは、地球の北と南との差であると同時に、同じ国のなかでも富裕な少数と貧困な多数との格差を顕在化させ、
    富める者と貧しい者との差をますます広げているといえるだろう。
    南北問題は、世界中のいたる処へと肥大化したのだ。

    ヨーロッパ近代を植民地主義に基づく他者の創出と周縁化による自己成型のプロセスと捉えること、
    言い換えれば、植民地主義(コロニアリズム)が<自己>を理想的なものとして確立するために、<他者>を生産し周縁化しようとしてきたとすれば、
    周縁化された他者の側からする歴史の再構築という視点に立つポストコロニアリズムは、
    そうやって排除されてきた外部が逆に中心を侵す過程に注目していくことになろう。

    共同体の境界領域は、その共同体を底辺で支える行為や習慣を、境界線の外にあるとされた人々に押し付けることで形作られる。
    近代においてはそれが植民地支配や先住民差別となって現出したのだが、
    ポストコロニアリズムはその境界領域の形成プロセスを逆行させ、境界侵犯と自我の解体に照準を合わせ、
    国境を越えた大企業主導の世界資本主義によるグローバリゼーションの現況下に対して、
    激しく異議申し立てをしていくことになる。
    植民地主義とそれに対する闘争は、むしろ情報や資本の世界大の発達によって激化しており、さまざまな局面で再生産され拡張され、<新植民地的(ネオコロニアル)状況>と化すなか、
    この闘争は、自己対他者という二項対立を解体し、
    他者が自己のアイデンティティの構成要素として自己の内部に入り込むプロセスを、
    主体構成の交雑と相互干渉の過程を、ダイナミックに生きるものとなる。

    ポストコロニアルの<ポスト>とは、永遠の現在進行形として、このような闘争の絶えざる過程を意味することになるだろう。

  • 私はシェイクスピア作品を,白水社の「uブックス」で揃えている。全37巻のなか,集まったのはまだ7冊。

    夏の夜の夢
    お気に召すまま
    十二夜
    終わりよければすべてよし
    マクベス
    冬物語
    テンペスト

    シェイクスピアの研究書もずいぶん読んでいます。

    フランセス・イエイツ『シェイクスピア最後の夢』
    フランク・カーモード『シェイクスピアと大英帝国の幕開け』
    スティーヴン・グリーンブラット『シェイクスピアの驚異の成功物語』
    ノースラップ・フライ『シェイクスピア喜劇とロマンスの発展』
    テリー・イーグルトン『シェイクスピア――言語・欲望・貨幣』

    そうそうたる著者たちですね。しかし,本書はそれらにも負けていない面白さがあります。本書は「講談社選書メチエ」の一冊なので,厳密な学問性は必要ない。しかし,本書は決して読者にこびるような分かりやすさがあるわけではない。ここでも何度か本橋氏の著書を紹介しているように,彼は入門書でも決して読者をバカにしたような一般的な分かりやすさを優先することはない。しかし,本書では煩雑な引用関係の記述を省いている。といっても,読者のために各章で便利な参考文献を巻末に示している。しかし,その文献が本当の意味での参考書なのか,あるいは各章の解釈で著者が用いたものなのか,分からない。
    さて,本書で取り上げられるシェイクスピア作品は4つ。『テンペスト』に『ヴェニスの商人』,『オセロ』と『アントニーとクレオパトラ』で,私が実際に読んだのは『テンペスト』のみ,『ヴェニスの商人』は大体の筋は知っていて,『オセロ』はジョシュ・ハートネット主演映画『O』を観た。そんなことで,始めから終わりにかけて,理解力は段々低下していく。4つの作品に限定した密な分析をしているので,できればその4つの作品を読んでおいた方が理解が高まります。
    本書のタイトルは,以前あった『本当はこわいグリム童話』のパクリだが,かなり意味合いは違う。1600年前後に書かれ,上演されたといわれるシェイクスピア劇だが,400年の時を経て愛されるがゆえに正典とみなされ,そのことはどの時代にも通用する人間の本質を描いたものだからだとみなされている。恋愛関係や親子関係,政治的な問題などの普遍的なテーマを扱ったものだと。しかし,そんなシェイクスピアをあえて,その時代背景の中において読もうというのが本書。なにが「こわい」のかは是非読んでもらいたいと思うが,例えば『テンペスト』では植民地の問題,『ヴェニスの商人』はユダヤ人問題,『オセロ』では人種差別問題,などなど。普遍的作品と思われているシェイクスピアにも時代特有の社会問題が組み込まれており,しかもその扱いはシェイクスピア流のものであるがゆえに,その作品解読はそれらの問題が時代特有でありながらも現代にまで引き続くものであり,それについて考える礎を与えてくれる,ということだ。

  • 「テンペスト」「ヴェニスの商人」「オセロ」「アントニーとクレオパトラ」をポストコロニアル批評の方法論で読み解き、ヨーロッパとその植民地、男・女、白人・非白人、キリスト教徒・非キリスト教徒の非対称性をきわめて現代的な視点であぶり出してゆく。参考文献は、シェイクスピアについてというよりはこの本を読んでポストコロニアル批評に興味を持った人向け。

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著者プロフィール

1955年、東京生まれ。東京大学文学部英文科卒業後、ヨーク大学で博士号取得。現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。専門はイギリス文学、カルチュラル・スタディーズ。著書に『ポストコロニアリズム』(岩波新書、2005年)、『ディズニー・プリンセスのゆくえ』(ナカニシヤ出版、2016年)、『深読みミュージカル』(青土社、新装版2019年)など、訳書にヒューム『征服の修辞学』(共訳、法政大学出版局、1995年)、バーバ『文化の場所』(共訳、法政大学出版局、新装版2012年)などがある。

「2020年 『帝国の島々 漂着者、食人種、征服幻想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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