少年H(上) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062645904

感想・レビュー・書評

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  • 戦時下であるが故に思っていることを素直に言えない理不尽さ、綺麗事ばかり言う大人たちへの不信感…
    戦争に関する映画や小説はたくさん見聞きしたが、こんなに親しみを覚える作品は初めてだった。戦争に対して私が感じていた疑問や不信感を当時の子供たちも感じていたのだなと思う。

  • 読みたいと思って早8年。大学の課題をきっかけに読むことを決意した。図書館で借りたが、表紙はボロボロ、めくるたびにミシミシと音がした。虫などが出てくるのでは?と躊躇したが、そんなことはすぐに忘れてしまうくらい面白い本だった。
    とにかく主人公のHが魅力的であった。当時は珍しかった洋服屋でキリスト教の家庭だった。だから戦争が深まっていった時、外国人を差別する周りとのギャップに苦しんだり、アーメンと罵られたりと生きづらくなってしまった。しかし、彼はとても生き生きとしていた。学校をこっそり抜けて友達と映画をみたり、広島旅行で大好きな電車をとことん楽しんだり、将校に堂々と発言したり…利発さと行動力、洞察力には感服した。
    他の人とは違った境遇で育ってきたことから客観的な視点で当時の日本を見ることができたのだろう。
    現在の子供達と同じような生活を送っていたが、ところどころで戦争を感じさせるようなシーンがあった。みんな不満を漏らしながらも徐々に適応していく。戦争が 廊下の奥に 立ってゐた という川柳があるが、まさにその通りだと感じた。少し冷めた目で戦争と関わっていたHも日本が勝ってお菓子がもらえるなどすると、戦争で勝つのもいいなあと思ったり、侮辱されて咄嗟に外国人を差別する発言をしてしまったり、流されざるを得なかった様子が見て取れた。
    戦争に対する記述では思っているイメージと違っているところもあった。例えば、物資について。太平洋戦争が始まってしばらくしてから物資が苦しくなったのだと思っていたが、日中戦争時から二宮金次郎像を撤去したり、贅沢品が手に入らなくなったりしていたそうだ。
    他にも、中学校の仕組み等は知らないことばかりだった。まず入試。受験をする人が現在より随分少ないものの、居残りをして勉強をすることが義務になっていたりと、受験戦争は昔からあったことに驚いた。
    部活動でも戦争の訓練に役立ちそうな部活動がたくさんあり、当時の生活が戦争へと集約されていっている様子が感じられた。
    時々当時の価値観ではなく今の作者の価値観で語られているところがあり、現在は不謹慎だと思われることも当時は当然と思っていたのだろうとわかる。
    また、時に言い訳がましい表現があり、人間の思想というのはやはり環境に左右されやすいのかなと思った。
    戦争時のマインドコントロールなどに興味がでた。「自由からの逃走」も現在読みかけであるが、早く読み進めようと思った。
    戦争の日常を描いているという点で「この世界の片隅に」と似ているが、主人公が男性か女性かという点で戦争に対する我がごと意識などが違っているのが面白かった。また、Hは他の人とは違う視点を持っていたが、「この世界の片隅に」のすずさんはあまり持っていない。そこからも戦争に対する引っかかりの具合が違うように感じた。下巻が楽しみである。

  • 文庫化を待ち望んでいた作品でした♪ 読み応え充分♪
    日本人が読んでおくべき、知っておくべき極近い過去の重い歴史を、1人の少年の目から見た史実として“生き生き”と活写している読みやすい文章は、おそらくは もの凄く 価値あるもののように思えます。
    作者自身でもある“H”少年の日常は、その時代を実際に生きた当人だからこそのリアリティをもって迫ってくるけれど、決して悲観的ではなく、むしろ楽観的にすら見えてくるたくましさがありありと伝わってきて、ジンと胸にくるものがあり、時におかしく、ほんの少し悲しくもあった少年時代…

    H少年の成長を追っていくに従って、否応なくその生活すべてに深く関わってくるあの“戦争”というものを、忘れることなど誰もできないのだなと感じてしまう。世界中を巻き込んだ狂乱の実態は、やはり「知らない」では済ませられるはずもなく、この国で何があったのか、その時この国の1人1人は何を感じ何をしていたのか?
    とは言え重いばかりではなく、読み手のことを考えてほぼ全ての漢字にルビをふっているなどの配慮もあり、誰でも手に取りやすくなっている。
    本当に心に残る物語でした。 ^^

    蛇足ですが、願わくば文部省推薦(今は文部科学省?)図書とかにはしないでいただきたい。子供の頃、『文部省推薦図書』とか『夏休み読書感想文対象図書』とかの言葉を見るだけで、その本はゼッタイにつまらない面白くないのは確実だから読まないでおこう、と本気で思っていた人間として、ささやかな希望ですw

  • 映画を観て原作を読んでみたいと購入。
    戦争物と呼ばれる作品は数多くあるけれど、これは戦争中の普通の人々の生活を書いた作品。

    好奇心旺盛な小学生のHから見た世界だけれど、本来なら戦争体験者から今の子供たちへ聞かせてあげたいお話。

    今は戦争体験者の方の方が少ないからそんな機会も少なくなってしまったけれど、子供たちにはぜひ読んでもらいたい作品。

    24時間の時間表示を教えるようになったり、旧かな使いが今の様式になったのはこの頃からとか、今の「時刻表」がこの時代に「時間表」から変更になったとか知らないことがたくさんあった。

    今から下巻読みます。

  • 初めは何を言っているのかわからなかったけど、でも途中から戦争の理不尽さが描かれていてとても辛かった。少年までもが今では考えられないような困難なことをやらされていることが辛く、僕はそのような人達の苦しみに応えられるほどの努力をしたい

  • 昨年、映画を見てから原作を読もうと決めていた。子ども目線での日常。徐々に納得の出来ないことが増えてくるところが、生々しい。巻末の阿川さんの文章に書いてあった筆者の「戦争はね、ある日突然くるもんじゃない。小石がパラパラと落ちてきたりするていど。でも実はそれが、戦争が始める前兆だったことを、後になってから知ることになるの」という言葉が非常に印象深く残った。下巻もきちんと読もうと思う。

  • 少年Hの心の動きがすごく細かく詳細に描かれ、Hに共感しながら、あの時代を過ごすことが出来ます。恐ろしい時代。
    「戦争はね、ある日突然くるもんじゃない。小石がパラパラと落ちてきたりするていど。でも実はそれが、戦争が始まる前兆だったことを、後になってから知ることになるの」という河童さんのことばに寒気を覚えます。
    Hが感じた「なんかおかしい」ということに、私も気づけるだろうかとはらはらします。今後、起きないとは言い切れない戦争。
    奇しくも沖縄戦終結69年の今日、読み終わりました。沖縄では4人に1人が亡くなったというとんでもない戦争。平和は作っていかねばならぬものと肝に銘じます。

  • 妹尾くんが見た(感じた)日常風景が、淡々と語られている。
    戦中を舞台にした作品ですが、価値観の押し付けがないので、戦争についてフラットに考えられる。

  • もっと早くにこの本に出会っていたかった。
    私の子どもには、早いうちに読ませてあげよう。

  • 第二次世界大戦が始まる前に少年だった子供が、大人になる時期を戦争という時を通して
    彼の目でおった日々の話
    上巻は、まだまだ、外国人も多く、それなりに新しい文化に触れながら楽しく緩やかに育って行っていた。
    だんだんと本格化するに連れて
    理解出来ないことが多くなり
    それを胸に秘めなくてはならない理不尽さのはけ口として
    学校に行っても試験を白紙で出すなどのことをしてしまう主人公

著者プロフィール

妹尾河童
1930年神戸生まれ。グラフィック・デザイナーを経て、1954年、独学で舞台美術家としてデビュー。以来、演劇、オペラ、ミュージカルと幅広く活躍し、「紀伊國屋演劇賞」「サントリー音楽賞」など多数受賞する。また、エッセイストとしても、『河童が覗いたヨーロッパ』『河童が覗いたインド』などの大人気シリーズで知られている。著書多数。『少年H』は、著者初の自伝的小説で、毎日出版文化賞特別賞受賞作である。

「2013年 『少年H(下巻) (新装版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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