狂気と犯罪 (講談社+α新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062722988

作品紹介・あらすじ

患者数、病床数、入院日数のすべてが世界一。精神障害者を取り巻く、驚愕の歴史と現状。

感想・レビュー・書評

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  •  この本は,前任校(福山平成大学)の同僚が教えてくれた本です。社会学の視点から精神科医療や精神障害者福祉について書かれている本です。
     「はじめに」で,著者は「精神障害者の処遇の歴史と,それを支えてきた『思想』を描き出そうとしている。思想というのは,ものの考え方であり,ある発言や行為を当然だとする根拠でもある」と書いています。
     これまでには,このような内容の本には出会ったことがないように思います。。精神保健福祉の制度がどのようにして作られてきたのかということについて,その時代の背景や精神医学や精神保健に関する諸外国(アメリカが中心)の対応などについての記述については多くありますが,日本の歴史を振り返ることによって考察するという方法は珍しいのではないでしょうか。
     欧米の精神保健福祉に関する理論も重要かつ必要ですが,人々の考え方や行動の仕方に大きく影響を与える「思想」も非常に重要だと思います。今や社会福祉を支えるようになっているノーマライゼーションの思想も,それは実際の行動や制度につながってはじめて意味を持ちます。逆に,この本に書かれているように,人々の考え方や行動の仕方に大きな影響を与えているのは「思想」ですから,どのような「思想」がもとにあって人々の行動や考え方になっているのかということも考える必要があると思います。
     欧米で作られた思想や理論が日本ではなかなか根付かず,活用されにくいことを考えると,思想とそれを具現化した結果としての考え方や行動の仕方の関係を改めて整理することも重要であると,この本を読んで思いました。

  • 精神病を患う犯罪者。
    狂気として扱うようになった、歴史的な背景が説明される。明治、文明開化がきっかけとなって始まる。世界の中で、賤民から国民となるために、社会的に狂気を封じ込めるための収容所施設として、病院が誕生する。社会として取り締まるために、テンキョウイン(松沢病院)、警察権力と結びついていく。
    狂気は病院に収容するために診断が必要だが、まだ、精神医学はなかった。あやふやな診断では、法曹と対立をすることもある。狂気にかかわらず罪人を裁くと言う点から、江戸時代には、死は当たり前の見世物として行われた。
    監獄、時間を奪う、拘束する(明治)vs(江戸)死刑、身体を奪う。
    狂気:理解不能になものを、報道として、識者といわれる人たちが、解説をして、公の興味をそそる、話題にする。精神病院法、精神衛生法より、狂気は、結核等の不治の病と同列に扱われる、と説くが、社会的、保健衛生上からもその様な位置づけをされたことになる。
    自殺が3万人を越えている今、狂気はうちに向かっているのかもしれないと感じた。

  • フーコーさんが指摘したような、近代の誕生と「狂気」を閉じ込めにかかった日本社会の話。

    江戸時代においては、犯罪者の人格については一切考慮されずに犯罪について刑罰がなされた。対して明治以後は犯罪者の人格に立ち入って判決がなされるようになる。

  • “日本という国は、絶対数においても、また人口比でも、世界最多の入院患者をもつ国である”
     この状況がどうして生まれたのか。著者は100年前にさかのぼり、歴史を通じて、日本人が「狂気」をどのように取り扱ってきたか、またどのように「狂気」を「犯罪」にリンクさせてきたかを検証していく。

     なぜ「歴史」なのか? 精神障害者の人権が大事か、危険人物を野放しにしていていいのか、「狂気と犯罪」の関係は治安と人権の間で綱引きが行われるばかりで一筋縄ではいかない。本書は「人権論」ではなく「歴史」からのアプローチをとることで、この問題に別な方向から鋭い光を当てることに見事に成功しているのだ。

     本来、「犯罪」と「狂気」は別のものである。両者の関連は“犯罪を行った人間”を超えて一般化するべきものではないはずだ。「たまたまある精神障害者が犯罪を犯した」のであって、「精神に障害がある者が犯罪を犯す」わけではない。
     この両者を等号で結んだのは、いったい誰だろう? 本書は、他ならぬ精神科医こそが、「犯罪」の“原因”に「狂気」を結びつけたのだと告発する。この歴史的な「詐術」がいかにして生まれ、保存され、拡大されていったのかを、歴史を振り返ることで初めて明らかにしている。

     平易な文章でありながら、明快な論理が展開されていることに感嘆する。歴史を現在に結びつける優れた研究であり、歴史からのアプローチを生かした力強い著作である。 「狂気と犯罪」について語る人を見かけたなら、「あれを読んだか」と言える本である。

  • この本を手に取った理由は
    「なぜ、刑法39条などというものがあるのか」
    が知りたかったからである。

    答えは本書にある。
    現行刑法改正時、それまで罪に対して下された罰が
    罪人の「性格」を裁くようになったからだ。

    つまり、「どんな罪を犯したか」から
    「罪を犯したのはどんな奴か」に変わった。

    さらに、精神障害者を犯罪者予備軍にしたてあげたのは
    精神科医であると述べている。
    これは批判する対象がなくなれば飯が食えない論客と同様で
    自然に納得できるものであった。

    著者は日本における狂気と犯罪を
    歴史的に辿っていき
    人道主義と治安の意識の歴史が合流して
    刑法39条にたどり着く。

    著者は結論として
    精神を病む者を特別視しないこと
    精神障害者へ裁判を受ける権利を与えること
    を主張する。


    刑法39条を運用しているのは裁判所ではなく警察
    精神障害者の懲罰を減免しているのは精神科医
    等うなずける批判があったのに
    代替の策を述べていなかったことが
    やや残念であった。

  • 明治から現代まで、社会の精神障害者への対応の歴史を書いた本。

    家庭での管理、刑法上での扱い、日本での精神医学歴史と精神病院の成り立ち。

    衝撃的だった。

    新書で読むには重すぎるな。

    けど、非常に興味深かった。

  • 昭和30年代、長期の措置入院をさせる・向精神薬の導入・医療法特例で少人数で患者を管理できるようになり、精神病院の経営を安定をさせた(精神病院ブーム)。昭和40年、精神衛生法改正、精神障害者(狂気)の強制収容の強化(社会からの排除)。刑法39条により、病人と見なされ裁判を受ける権利を奪われる(法の世界からの排除)。「触法精神障害者」が刑法で裁かれれば、精神障害者(狂気)の脱犯罪化になり、精神病は「普通の病」として脱社会的排除につながる。

  • 日本人の根底に流れる「狂気」と「近代化」との話。
    一度否定してしまったものを取り戻すのは難しいなぁ。

  • 大正期の精神病患者の扱いは解り易かった、が、読み進められない本であった。
    時間のある時に最後まで読めるといい。

  • 最初はひたすら江戸明治の「狂気」の扱われ方の歴史が書かれていて、挫折しそうになった。

    社会の治安と精神障害者の人権のバランスをとるのは難しいなあ…

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