新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739955

感想・レビュー・書評

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  • 【下巻へ】

  • 1964年(昭和39年)。三大奇書、第三弾。
    中井英夫の代表作。小栗虫太郎「黒死館殺人事件」、夢野久作「ドグラ・マグラ」と共に、本邦ミステリの三大奇書と呼ばれている。推理小説であることを拒否するという意味で、アンチ・ミステリ(反推理小説)とも呼ばれているが、三大奇書の中では文体も内容も一番とっつきやすく、普通に推理小説として読み進められる作品である。

    かつて宝石商として栄えた氷沼家で、立て続けに不幸が起きる。すべて病死や事故死として処理されてしまったが、本当にそうだろうか? ミステリマニアの素人探偵たちが推理合戦を繰り広げる一方、事態はいっそう複雑な様相を呈してきて…。

    トリックも面白いが、犯人の動機がとても印象的。この作品の発表から既に約半世紀たっているが、それでもなお読者の胸にグサリと刺さる、耳の痛い告発である。日航飛行機墜落事故、薬害エイズ事件、福島第一原発事故…。犯人が嘆いた虚無の時代は、今日まで連綿と続いている。

    スパイスの効いたトリッキーな作品。「ブラックユーモアですよ」とおどけて、あくまでミステリの枠から出ようとしない所が、何とも憎い。

  • 死の因縁が蔓延る氷沼家の悲劇と告発。

    命を名付け
    密室を企て
    物語を描け
    事件を紡げ
    謎を紐解けるのは、人間だけ。

    人間だから、付き纏う…

    誠実な嘘と醜悪な真実を、無邪気のマドラーで掻き混ぜ固めた種。庭に蒔いた時、貴方好みの薔薇は咲いただろうか?

  •  この上巻では、氷沼家の次男・紅司と叔父の橙二郎が密室で死亡します。
     その真相について、奈々村久生・光田亜利夫・氷沼藍司・藤木田誠の4人が推理合戦を展開。
     ミステリ・ファンとしては楽しい展開ですが、実際に被害者になった人やその関係者からすると、とんでもないことでしょうね。
     しかしこの4人の四通りの推理、どれももっともらしい。
     同じ事件でもこんな風に色々と解釈できるのかと興味深い。
    (ネット上では、馬鹿げた推理と書いてるミステリ上級者もいます。私は初心者なので、何を読んでもすごいと思うレベルです。)
        
     それで、ミステリマニアの藤木田翁の退場と入れ替わりに登場したのが、奈々村久生の婚約者・牟礼田俊夫。
     世界を駆け回る敏腕記者ということですが、あまりイメージ湧きません。
     この牟礼田俊夫が残る3人の探偵役を集めて、いよいよ真相が判明か……と思ったら、意外な展開に。
     牟礼田俊夫氏は思わせぶりなことを言いながら、結局は何事も言っていないのです。
     他の人の推理を上から目線でダメ出しして、全員間違っていたとは判明するのですが、では真相はといえば、何も明らかにされていない。
     聖母の園事件で焼死体が一つ多かった件についても、氷沼家と縁故のあるお年寄りでもう一人犠牲者がいて、誰か考えれば分かるはずだと言いながら明かさないし。
     思わせぶり・知ったかぶりはいいけど、ではあなたの推理はどうなんですか、真相はどうなんですか。
     テープに録音しておいたからもう一度聴いたら分かるとか言ってますが、そうなんでしょうか。
     これでは全然納得いきません。
     実は物語は前半が終わったところ。
     後半に続きます。
       http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20161015/p1

  • 字が大きく、とても読みやすい!内容もセリフが多く読みやすい。「奇書」という言葉に警戒し過ぎていた。

    はじめは小説的な殺人事件以外認めないと言うメタ的な内容や、推理小説のわりにキャラがしっかり立った登場人物たちの会話が面白く、楽しい気持ちで読んでいたが、だんだんと氷沼家の人ばかり死んでいき、悲しい気持ちなっていった。

    物置の中が「びしょびしょに濡れて、いちめん血だらけ」だったというのは何だったのか
    蒼司が犯人なのか
    氷沼家の人は全滅するのか

    気になる。

    とりあえず、アクロイド殺しだけでも読んでおいてよかった。

  • まだ途中なので当たり前ですが、真相が全く見えてこない。
    異様な雰囲気もあり、どのような決着が着くのか楽しみです。

  • こういう類の衝撃を受けたのは初めてでした。
    出逢えてよかった、と心から思います。

  • 氷沼家をめぐる数々の悲劇。それは、探偵たちによって連続殺人事件へと仕立て上げられていく。真犯人は誰か。その深く哀しい動機を前にして、告発されるのは我々読手である。そう、我々の一人一人こそが、罪深い探偵であったのだ。虚無を嘘で飾るとき、薔薇は美しく光る。

  • 文句なし。
    くるくる切り替わるカメラワーク、場面、演出、遊び心いっぱいの映画を観ているようだった。
    俯瞰で見せたり、登場人物たちの真ん中に引っ張り出されたり、言葉巧みに翻弄されているのが読んでて気持ちよかった。
    季節の移ろいの描写がものすごくきれい。人物の服装やその色がオシャレで生々しい。

  • 全ての原点。
    ★5つでは足りない。

    この本に出逢わなかったら、今の自分は無い。
    自分が死ぬ時は、この本を棺桶に入れて欲しいぐらい。

    「犯人」と呼ばれる人の魂が、どうか救われますように…。

著者プロフィール

中井英夫(なかい ひでお)
1922~1993年。小説家。また短歌雑誌の編集者として寺山修司、塚本邦雄らを見出した。代表作は日本推理小説の三大奇書の一つとも称される『虚無への供物』、ほかに『とらんぷ譚』『黒衣の短歌史』など。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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