銀河不動産の超越 Transcendence of Ginga Estate Agency (講談社文庫)
- 講談社 (2011年11月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062771030
感想・レビュー・書評
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完全無気力、日々頑張らなくていい方法を模索して生きてきた青年・高橋が就職したのは、大学から「ここだけはやめておけ」と言われた銀河不動産。
顔も口も声もでかい気力満々の社長・銀亀元治と、年齢不詳、控えめだけど鋭い洞察力を備えた事務員・佐賀佐知子と共に社会人生活のスタートを切った高橋は、ひょんなことから客である大地主の間宮葉子から、超個性的な間取りの家を借り受けることになる。
――玄関ホールの左右に一段低い部屋が二つ。とても大きい。左右対称だった。いずれも、奥へ行くほど天井が高くなる。奥の壁の高い位置半分は、全面がガラス。そちらは方角では北になる。青一色の空が、窓の外に見えた。異様に大きい空間である。とても、住宅とは思えない――
まさに「ノースライト」の家。工学部建築学科助教授だった森さんの意匠を空想して物語に入り込む。
何事にも白黒をはっきりとつけない、よく言えば人柄がよく、悪く言えば優柔不断な高橋は、どんどん周りに流されていく。行きがかり上とかひょんなことからといった事情の積み重ねで、彼の住む家がだんだん変貌を遂げていくのは想像の範囲内で、ありがちなコメディを見ているよう。
と、ここまではなんだかな~って感じだったんだけど、この物語の肝はラストの間宮邸でのやり取りにある。
――幸運といったものは、この世にはない。あるとすれば、幸せを築く能力、それを持っていた、幸せを築こうという努力、それをしたというだけのことです。その能力と努力によって、順当に作られていくのが幸運なのです――
ここに来て振り返る高橋の生き方、人との関わり、そんなにうまくいくわけないよな~って思いながらも、彼でなくてはこうはならなかったな~と、ちょっと爽快で、ほんのり温かい気持ちで読み終わりました。
余談:昨日読んだ「森には森の風が吹く」ではこの作品について森さんは、
――この作品を読んで、「真面目にやっていれば、いつか報われるという教訓」を読み取った人がいるようだが、そんなことを読み取られるとは、まだまだ作家として脇が甘いというしかない。真面目にやっていても、報われないことの方が多いだろう。と正直に書いた方が、ずばり通じるのだろうか――
と書いていた。やっぱり相当天邪鬼だわ~ -
登場人物が魅力的、クスッと笑えてどんどん読めていく感覚な森さんの文書が楽しかった!
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昔、最初の方だけ読んで「ミステリじゃないな」という事で読むのを中断した作品。今回最後まで読んでみたけれど思ったよりも面白かった。なんというのか前向きな思考になれる小説。森先生の作品の中でもかるーく読める上に展開も奇抜なものではないので息抜きには丁度よかった。
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流されるまま過ごす主人公のお話し。
不動産屋に就職し、困っている人を助けていく内に人脈が広がっていく。いろんな人が転がり込んでくるのを主人公がどんどん受け入れていくので心配になった笑
ドールハウスが出てきた時は、まさか全員人形で箱庭の中の話だった⁉︎ってビビったけど、そんなことは無かった。
読み終わった感想としては、不思議な話だったなぁって感じ。会話のテンポは好き。 -
小説
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2018年1月1日読了。
2018年1冊目。 -
何事にも後ろ向きで省エネ主義の高橋は、社員がたった二人しかいない銀河不動産に就職する。
そこで出会った一風変わったお客さんに振り回されながら、流れに身を任せて生活する。
地元のお金持ちの奥さん。
売れないミュージシャン。
女二人暮らしの芸術家。
アミューズメントを目指す中年。
そして、同年代の素敵な女性。
いつの間にか、高橋の回りには人が溢れ、暖かい善意に触れる。 -
森博嗣の作品の中ではハートフルな方だと感じた。
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町の小さな不動産屋に就職した高橋くんはひょんなことから不思議な居住空間を与えられる。
そしてその空きスペースに様々な物や人が集まってくるのである。
ここが居場所になっていく。
自分の住む家、帰る場所が愛しくなる。
大らかな心でこの世界を見渡せばあるいは。