彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062940030

作品紹介・あらすじ

ウォーカロン。「単独歩行者」と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 何でもっと早く読まなかったかね。と、頭を抱えてしまった。独立したシリーズでもあるし、四季シリーズの系譜を感じられもするし、うっすらとスカイ・クロラ味もある。元々の森博嗣好きと攻殻機動隊、アップルシード、ターミネーターその辺の近未来のAIやアンドロイドや人工知能もろもろが好みの自分はどんぴしゃりだった。ハギリ博士のすっとぼけた性格とちょっとずれた思考に当てられっぱなしで、こりゃ、一気読みしそうな勢いで怖いシリーズに手を出してしまったかもと。

  • たぶん2世紀以上先の世界の物語。
    子どもが生まれなくなった世界。
    人間と人工生命体(ウォーカロン)が混在し、生まれること、死ぬことという概念が軽薄化している世界だ。

    色々謎のままのことも多くて消化不良だけど、私たちが生きている現代とは生死感が違うから、身近な人が死んでも悲しいという気持ちも希薄で。
    でもショックな出来事を経験したことでハギリは眠れなくなったり、やはり何らかの悲しみを引きずっている様子だった。
    「生きる」「生かす」ということを突き詰めていくと、悲しみの感情は体に不調を与えるから、削ぎ落とされるべきものなんだろうな…と思った。
    ハギリとウグイのエピローグのような話は、この物語の世界では珍しくないことなのかもしれない。
    特別な判定がなければ,人間とウォーカロンの区別がつかないのであれば、それはもう同じものなのだろう。
    でも人間が思う人間の優位性というものも、この世界でまだ残っているようで、本来、ウォーカロンは人間をサポートしたり人間を豊かにするために作られたという歴史的背景のあたりは、現代と通じるものもある。
    人間より優れたウォーカロン達が人間を襲撃している(仮面ライダーゼロワンの疾風迅雷を思い出した。)のかと思いきや、襲撃を手引きしている人物は判然としない。
    人間とウォーカロンの区別がされることに、利害関係を有しているのは人間もウォーカロンも同じだ。

    ミチルという謎の少女と、マガタ博士。
    謎はまだ残ったままだが、普段こういう未来SFを読み慣れていない私にとっては、この一冊だけでも読み切るのが結構大変だった。たったの260ページくらいなのに。
    もっと説明してよぉーー!と、何度思ったことか。

  • SF要素のある未来の物語。森博嗣ワールド炸裂。そして終盤のあの一言。鳥肌がたった。

  • 英語のタイトルのdoesをisに変えたら「彼女はウォーカロンか?」になるのが面白い。
    パラサイトこそが人類を繁殖させていたというのは楽しい発想だと思った。
    アダムとイヴが食べた実には寄生虫がいて、それが人間の脳に変化を与えて、二足歩行になってとかだったら…。
    パラサイトを作ることができればアップデートが可能ということ?作中であったウォーカロンのアップデートもそれなのかしら。

  • Wシリーズ1作目。ウォーカロン(単独歩行者:walk alone)と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差がほとんど無く、判別が容易にできない。研究者のハギリはウォーカロンと人間を識別する研究を行っており、何者かに命を狙われるも保護しにやって来たウグイに助けられる。人間とは何か、命とは何かを読者に問いかける近未来ファンタジー。

    人工細胞の反乱。人が死ななくなり、子供が産まれない世界はどこに向かうのか。長く生きることは正解なのか。あの天才博士も登場し、どのように続いていくのか楽しみです。

  • ★生きているかどうかは、問題ではないのでは?(p.250)
    /「ほとんど人間」のウォーカロンゆう存在とほぼ不死になった人類と新生児が誕生しなくなった状況を設定してまうことによって「人間とは?」「思考とは?」を追究しているようにも見えるし、おそらく結論は出ぇへんこのテーマで思考の遊びをしているようにも見えます。
    /森博嗣さんの文章はぼくにとっては読んでるだけで心地ええんですが、特に上手ゆうわけでもあらへんし、豊かな描写があるわけでもあらへんので、なんちゅうか、文章の「呼吸」のようなものが合うんやろうなあと思ってます。
    /人工細胞によりほぼ限りない寿命を持つに至ったが新生児が生まれなくなったヒトと、生体で「ほとんど人間」である「ウォーカロン」が大半を占めるようになった社会でヒトとウォーカロンの違いを(結果的に)判定できる手法を開発しているハギリ・ソーイは命を狙われるが情報局のウグイ・マーガリィによって秘密な研究所に保護され研究を進めつつ、誰になぜ狙われたのか考え始める。
    /四季博士のような人物が登場したなと思うてたらどうやら近似値ではあるらしい。森博嗣さんはなかなか四季さんを手放さへん。もしかしたら森ワールドの「神」なんかもしれまへんね。

    ■簡単なメモ
    【アカマ】ハギリの助手だった。
    【アリチ】人工細胞の第一人者。見た目は老紳士。
    【アンチ・オプティマイズ】ウォーカロンが「とぼける」機能。
    【生きる】《今の時代、生きていることの定義が非常に曖昧だ。》(第一巻p.250)
    【命を狙われて】「気持ちはそんなに悪くないが、また同じことをされたら困るな」(第一巻p.26)
    【インスピレーション】インスピレーションは人間独自のものだと我々は思いたがってるが本当にそうなのか常々疑問に思っていました。ヒトも所詮は有機的なメカなので、技術的に未成熟なだけで感情・感覚・発想その他諸々再現できるのではと。ハギリもちょっとそう考えたりしています。
    【ウォーカロン】Walk-Alone(単独歩行者)。生体だけでつくられた人造人間。自律的に思考、行動する。ヒトとの間に生物的な差はない。ウォーカロンから子どもは生まれないが、人工子宮で製造され初期の成長速度は異なるがその後はヒトと同じように成長するので子供のウォーカロン自体は存在する。どうやらハギリの同定法は子供のウォーカロンに対しては精度が低くなる。《ウォーカロンが危険であるという根拠は科学的に証明できないからだ。彼らは人間と同じものである。人間よりむしろ整っている。完璧なものに近く、欠陥が少ないという意味だ。だから、争いを好まない。捨て身にならない。穏やかな性格を伝統的に受け継いでいる。》(第一巻p.107-108)。《おおむね、彼らは無駄なことはしない。》(第一巻p.146)。《僕にとっては、人間だろうがウォーカロンであろうが、まったく無関係なのである。》(第一巻p.170)
    【棺桶】ハギリの研究室にある。中で眠れるし、閉じたらテーブルとなる。
    【完璧】《完璧になったところで終焉だったのです》(第一巻p.56)
    【危険】ウグイ「危険には、種類はありません」(第一巻p.11)
    【グイン波】《思うという行為の現象について、科学的な証しだよ》(第一巻p.34)。「根拠はない。そうなんだ、そこが、論理的思考の限界だ。そこが私の研究の一つの到達点なんだ」(第一巻p.39)
    【熊の生態】チカサカがくれた本。
    【子供】ヒトの子供は古い遺伝子を入手するために発展途上国発で「流通」しているらしい。
    【殺傷能力】ハギリ「使い方次第では、たいていのものは殺傷能力があります」(第一巻p.11)
    【死】《なにしろ、人が死ぬということが非常に曖昧になったし、死というものが昔とは違った概念になりつつあるからだ。》(第一巻p.64)
    【持続・維持】《持続・維持を合理的にデザインする社会になった。》(第一巻p.152)
    【シモダ】情報局長。ウグイの上司。
    【首都】今はサッポロにある。
    【人口減少】新生児がまったく生まれなくなり人口は減っている。統計はとっていないらしいが全盛期の三割くらいだろうと。その代わりウォーカロンが急増している。武力衝突は減っている。それどころではないので。ちなみに植物は減っていない。《もっと正直に言えば、べつに人類が滅びてしまってもどうってことはない、という気持ちもある。》(p.73)
    【人工細胞】劣化したパーツを人工細胞で作られたパーツに交換することによってヒトは理論的には無限の寿命を得た。現在ではほぼすべてのヒトが体内に人工細胞を持っている。同時に新生児がまったく生まれなくなった。因果関係は不明。当然、人口は減り、高齢者ばかりの社会となる(見た目は若かったりするが)。
    【信じる】「人間を信じるのは、人間の代表的な弱点の一つです」(第一巻p.33)
    【ジンバ】インド人の世界委員。ウォーカロンを同定したい側。
    【それぞれ】《人それぞれに、感情的なものは違っている。違っていても良い。研究だって、それぞれに目的は微妙にずれていることが多い。それでも、だいたい同じ方向ならば協力をし合う。その柔軟性が、組織というものの要だし、人間が群れを作るための基本的な能力だとも思える。》(第一巻p.210)。生物や文化はだいたい多様性により存続してきたわけやし「みんなちがってみんないい」ですな。もっとも最近では「みんな違ってもいい」という考え方に統一しなければならないという向きもありますが?
    【チカサカ・ユウヤ】「日本動物園(通称「日本博物館)」園長。動物学者。熊の研究所をくれた。
    【チューブ】ニュークリアから地下トンネルで各地に行ける一人乗りリニアモーターカー。
    【テロ集団】《この頃、テロ集団というのはほぼ壊滅したと聞いている。争う未来がないい、というのが主な原因だろう。》(第一巻p.139)
    【ニーヤ】ニュークリアの職員であるウォーカロン。人間の女性との恋に悩んでいる。
    【ニュークリア】地下深くにある研究施設。核廃棄物処理施設の情報にあるようだ。「ニュー」は「NEW」ではなく「νガンダム」のニュー。
    【人間】《自分たちを理解しがたいものだと持ち上げたい心理が無意識に働く。でも、誰もがだいたい同じように怒ったり笑ったりしているんじゃないかな》(第一巻p.107)
    【人間でない】《また、もし人間でなくても、人間でないことの本当の意味を自分は知りません。》(第一巻p.40)
    【年齢】人工細胞によって寿命は理論的には無限。見た目も年齢通りではない。ハギリは八十歳、アリチは百六十歳。
    【ハギリ】主人公。おそらくは研究テーマによって命を狙われている。《人間の勘を数式化したものが、僕の研究成果の一つなのだから》(第一巻p.74)。《人間はどんなふうに考えているか、ということが、つまり人間とは何かという問題の答になると思った。》(第一巻p.105)。なぜ狙われているのかは、当初は同定されては困る勢力(ウォーカロン産業など)によるものと考えられていたが、この研究はまた、人間とウォーカロンの差を知るための研究でもあり、ウォーカロンをより人間に近づけたい勢力に反する勢力(要するに差異を保持したい側)の可能性も考えられるようになった。
    【パラサイト】人工細胞由来で、人間が子孫を残せなくなった原因かもしれない?
    【マナミ・ユカノ】情報局がつけてくれた助手。
    【ミチル】ハギリの前に連れてこられたウォーカロンだという少女。だが、ハギリには人間だとしか判定できなかった。ルックス的にはチカサカから進呈された『熊の生態』という研究書から導かれた映像に映っていた少女だった。
    【ミチルの祖母】ハギリの前に突如現れた女性で「ミチルのおばあちゃん」だと言う。ルックスは若い。真っ白い服装。四季博士を思わせる人物だと思わされたが、近似値ではあったようだ。こんな人物が登場すると、ウォーカロンのありよう、現在の人類の、いや世界のありよう自体が四季博士のプランだったように思えてきます。「子孫が消えてしまい、そして、死ねなくなった。こうなるしかなかった」(第一巻p.177)。
    【リョウ・イウン】台湾の生物学者。《人類は、というよりも生物医学は、道を間違えたのです。》(第一巻p.207)。「人類のために」(第一巻p.210)。
    【若い女性】アリチ《うん、若い女だと、つい従ってしまう》(第一巻p.50)
    【笑う】ウグイ「面白い、楽しい、と感じることはありますが、それを態度で示そうという気持ちが希薄なのだと思います」。ハギリ《たしかに、この頃は笑うヒトは少なくなった。笑ったところで、なにか社会が変わるわけでもないし》。ウグイ《笑うことは、コストパフォーマンスが悪いといえます》(第一巻p.60)。

  • 人間であることの証明とは何か。
    このシリーズも読み進めていきたい。

  • 【購入本】S&Mシリーズから飛んでWシリーズに着手。講談社タイガからの出版ということもあり、話の内容もかなりライトな印象。〈人間×ウォーカロン〉の世界。「人間」とは、「命」とは、何なのか。曖昧になった社会の中で、ハギリとウグイの''日常''が動き出す。ただ、森ワールド(仮)の中でここまで不明瞭な話の展開はあっただろうか。ミチルは人間か、真賀田四季は生きているのか。謎は謎のまま明かされることはない。次作が楽しみだ。

  • Wシリーズの1作目。いわゆるアンドロイドもの(本作ではWalk Alone=ウォーカロンと呼ばれる)。ウォーカロンは身体的にも人工細胞で作られ、人間側にも治療などのために人工細胞が大幅に取り込まれているので、両者の敷居が限りなく低くなっているのが本シリーズのミソなんだろうね。
    主人公は、ウォーカロンを見分けるための技術を研究している研究者。巻き込まれ型で、謎の組織に命を狙われるというのが本作のストーリー。
    1作目ということで、いろんな伏線を埋め込んでいっている感じ。森作品でおなじみのあの方もでてきたし、次作以降が楽しみ。

  • 再読 Wシリーズ1

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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