草のつるぎ/一滴の夏 野呂邦暢作品集 (講談社文芸文庫ワイド)

著者 :
  • 講談社
3.67
  • (0)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 23
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062955003

作品紹介・あらすじ

「言葉の風景画家」と称される著者が、硬質な透明感と静謐さの漂う筆致で描く青春の焦燥。生の実感を求め自衛隊に入隊した青年の、大地と草と照りつける太陽に溶け合う訓練の日々を淡々と綴った芥川賞受賞作「草のつるぎ」、除隊後ふるさとに帰り、友人と過ごすやるせない日常を追う「一滴の夏」――長崎・諫早の地に根を下ろし、42歳で急逝した野呂邦暢の、初期短篇を含む5篇を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「狙撃手」
    自衛隊の話
    自らを完璧に律してきたはずの狙撃手が
    競技会で最後の一発にのぞむさい
    なぜかとつぜん、標的を外したい気分になってしまう
    三島由紀夫のいう「認識」が
    行動する他者としての肉体に反発しているのかもしれない

    「白桃」
    敗戦からまもないころ
    父のいいつけでカネを受け取りに行かされる兄弟の話
    訪問先でいい子ぶってるつもりか
    兄は、出された桃に手をつけることを許さず
    弟の反感をかう
    イメージの鮮やかさはないものの
    教養小説的な手続きによって
    父親の世界から疎外された自分を発見する筋書きは
    技術的に、三島「青の時代」から一歩先へと進んだものだ

    「日が沈むのを」
    男に捨てられて自殺未遂をおこし
    復帰した職場では、組合から吊し上げを食らってしまった
    そういう女
    自然の美を前に、仙境へ入る手前で足踏みしている

    「草のつるぎ」
    自分のなかの認識を憎んでいた男が
    自衛隊の訓練を通じて、それも幻にすぎぬと知り
    仲間たちと打ち解けていく
    昭和48年
    三島事件から3年後の芥川賞受賞作だ
    「太陽と鉄」が結局は三島個人の観念へと収斂していくのに対し
    しょせんそんなもの先入観へのこだわりにすぎぬと
    喝破するようなところはあるものの
    メカニズムとしては宗教的セミナーに似ている

    「一滴の夏」
    自衛隊を辞め、故郷の諫早に帰ってきた主人公が
    仕事もしないで毎日ぶらぶら過ごすだけの話
    「草のつるぎ」の続編と見るべきだろう
    毎日ぶらぶらして昔の思い出をさかのぼってみれば
    確かに輝く時代もあったけれど
    そこに人生の目的となるようなものはなにひとつない
    かつて住んでた長崎も、原爆からすっかり立ち直ったようで
    ただ
    自分の見たものを文字で書き起こしているときだけは
    世界を手にする実感が得られた

  • 恋人が久々に読みたくなって読んだが、他の作品はイマイチ。

  • 全体的に“何かが無い”感じに物凄く浸されています。それを抱えて重たい自分を引きずり歩くうち、その感覚がスコーンと裏返り、“何者でもない”ことを悟った瞬間の、抜けるような透明感ときらめき。野呂邦暢は書かなくてはならなかったから書いたのだと、ひしひしと感じる作品です。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

野呂邦暢(のろ・くにのぶ)
1937年長崎市生まれ。戦時中に諌早市に疎開、長崎被爆のため戦後も同市に住む。長崎県立諫早高校卒業後上京するもほどなく帰郷、1957年陸上自衛隊に入隊。翌年除隊し、諌早に戻り家庭教師をしながら文学をこころざす。1965年「ある男の故郷」が第21回文學界新人賞佳作入選。1974年自衛隊体験をベースにした「草のつるぎ」で第70回芥川賞受賞。1976年、初めての歴史小説「諌早菖蒲日記」発表。1980年に急逝する。著書に『愛についてのデッサン』(ちくま文庫)、『野呂邦暢ミステリ集成』(中公文庫)、『野呂邦暢小説集成』(文遊社)、などがある。

「2021年 『野呂邦暢 古本屋写真集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

野呂邦暢の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×