レイトショー(下) (講談社文庫)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065186602

作品紹介・あらすじ

レネイは、ロス市警のエリート部門である本部強盗殺人課の殺人事件特捜班で殺人事件担当刑事として五年余り勤めていたが、二年まえ、班長に着任したロバート・オリヴァスにセクハラをされ、それを告発したものの、セクハラ現場に居合わせたパートナーのケン・チャステイン(『エンジェルズ・フライト』の最後に暴徒に襲われて死亡したロス市警内務監査課刑事ジョン・チャステインの息子)が保身のため、レネイの告発を裏付ける証言をしなかったせいで、告発は不問に終わり、レネイはハリウッド分署に飛ばされ、分署長がオリヴァスと警察学校の同期だったことから、”深夜番組(レイトショー)"と呼ばれる夜勤担当にさせられた。以来二年、深夜番組をパートナーのジョン・ジェンキンズとともに粛々と勤めているが、事件の本格的捜査は、昼勤担当刑事がおこなうため、やりがいを覚えずにいた。
そんなある夜、受け持ち地域で、三件の事件が起こり、レネイたちは、処理に追われる。
 一件は、自宅に空き巣が入り、財布が盗まれ、クレジットカードが不正使用されたというひとり暮らしの老婦人の対応。
 二件目は、暴行事件。女性がひどい暴行を受けた状態で駐車場に放置されていたのが見つかり、レネイたちが運ばれたERに赴いたところ、被害者ラモナ・ラモネ(女装男性)は、「さかさまの家」という謎の言葉を残して、昏睡状態に陥る。
 病院にいたレネイたちに、三件目の緊急連絡が入る。ハリウッドのクラブ「ダンサーズ」で、発砲事件が起こり、四人が即死、ひとりがレネイたちのいる病院に緊急搬送されているところだという。レネイは、緊急搬送されている被害者を病院に残って担当し、ジェンキンズは、現場の応援に来いとのことだった。
 病院に運ばれた被害者の女性シンシア・ハデルは、到着時死亡で助からなかった。彼女は、クラブのウェイトレスで、発砲事件に巻き込まれたのだった。
 クラブのブースに座っていた四人組のうちひとりが、他の三人を撃ち殺し、逃げる途中で、立ちはだかった用心棒を撃ち、その巻き添えでシンシアも撃たれてしまったのだった。逃げた犯人の行方は杳として知れなかった。
 シンシアの死亡を確認し、クラブの事件現場に向かったレネイは、捜査の指揮を取っているのが、かつての上司オリヴァス率いるチームであることを知る。パートナーだったチャステインもいた。オリヴァスは、シンシアの情報を受け取ると、レネイに事件現場から立ち去るよう強く命じた。

感想・レビュー・書評

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  • マイクル・コナリー『レイトショー(下)』講談社文庫。

    何ともクールなヒロインが誕生したものだ。ハリー・ボッシュやミッキー・ハラーのように人間味がある熱血漢。なかなか良いじゃないか。

    『レイトショー』はマイクル・コナリーの30作目とのこと。コナリーの邦訳作品は『ナイトホークス』以来、刊行順に全て読んでいるが、いつもながら完成度の高さには驚かされる。この先の邦訳予定を見ると、何とバラードとボッシュの共演作品も控えているらしい。

    ナイトクラブの銃撃大量殺人事件の後、かつてバラードを裏切った相棒の刑事が殺害される。幾つかの事件を掛け持ちし、精力的に捜査を進めるバラードだったが、トランスジェンダーへの暴行事件の犯人に囚われてしまう……

    本体価格880円
    ★★★★★

  • 主人公のレネイ・バラードは、ハワイ出身の三十代半ば(?)のロス市警女性刑事、独身、サーフィンとかパドル(よくわからない)が趣味。
    2年に及ぶ深夜勤務(レイトショー)に倦みながら事件解決に向けた意欲と使命感を持っている。
    しかし事件の本格的捜査は、昼勤の刑事に引き継ぐので、やりがいを覚えずにいた。

    元々はジャーナリストだったが、ロス市警に入って殺人事件担当刑事として活躍していた。
    詳細は不明だが、当時の上司のオリバス警部補のセクハラ行為を告発したところ左遷されて深夜勤務になった。
    当時の相棒であるケン・チャステインの裏切りもわだかまっていた。

    そんな深夜勤務の中で3つの事件が起こる。
    この複数の事件が起きて、それに並行して取り掛かるのもボッシュシリーズと共通している。
    上巻は、その事件が色々起こって登場人物や主人公の背景を把握するのに手間がかかる。

    事件は3件:
    ①財布が盗まれ、クレジットカードが不正使用されたというひとり暮らしの老婦人の対応。
    ②ゲイの街娼が暴行され意識不明の状態で見つかる。
    ③クラブでの発砲事件で5名死亡。
    三つめは大事件で、手伝いに駆り出されるが下働き的な感じで、現場を仕切っているのが因縁のオリバス警部補。
    情報渡したら、さっさと出てけ的な対応をされる。

    それぞれの事件で独自に情報を集めて行動するバラード。
    ①はカード会社からの情報により犯人逮捕
    ②も粘り強い捜査で犯人と思わしい人物に辿り着くが拉致されてしまう。
    その脱出時の闘いを過剰防衛的に捉えられて失職の危機に立たされるが、機転と行動力と深謀で切り抜ける。
    この辺りの痛快さは素晴らしい。

    ③の事件は元相棒のチャステインも殺害されるという展開になる。
    思いもかけない犯人に辿り着き、それを騙して制圧する処の腹黒さも痛快。
    その功績を買われて復帰しないか、との誘いに対する答えも痛快すぎる。

    全体的には楽しめた読書だが、女性の読者にとっては違和感がある人物設定なような気がする。
    何処がというのを書くのは難しいが、この辺は感覚としか言いようがない。

    あと物語が、少し拡散しているような気もする。
    ①事件の犯人が所持していた盗んだ銃が、過去に大きな事件を起こしていて、その盗難先での捜査(結局失策でATFに引き継ぐ)
    ②犯人がどうやってバラードの正体を突き止めて拉致したのか?は結局謎。
    ③犯人の不用意さや、何となくバタバタ決めた感じ。
    こうした枝葉を整理して上下ではなく一冊にまとめられたら、もっと締まるんじゃないかなあ。

    まあでも、新たなシリーズとして次も楽しみにしている。

  • レイトショーとは警察内隠語で、深夜勤を指す。初動捜査はできても本格的捜査は昼勤の刑事に委ねなければならないという制約のある中、使命を果たそうと苦闘する女性刑事が主人公の新シリーズ。

    初動捜査のみというルールでも、手掛かりを追いながら捜査を進めていくというスタイルはボッシュ・シリーズと同様で、今シリーズの方が書き込みが密なので、じっくり事件を追って読めるという安心感が強い。着地点が見えない事件、制約の中での捜査、元相棒、元上司との関係など、本筋に様々な脇筋を絡めてサスペンスを高め、サプライズを加えて見事に収束させている。​

    ドラマティックな展開が目立ったので、エンタメ色が濃くなるのかと訝しんだ(Amazon Prime Videoの『BOSCH』が好評なので)のだが、そこはさすがのコナリー。警察ミステリとして、最後まで小説とドラマのいいバランスを保ちながら面白く読ませてくれる。確かにドラマ化向きのストーリーではあるが、細かい心理描写や下巻からの緊迫感は文章で体験するのが正解なのよね。​

    評価はやや甘め。主人公にもシリーズの今後にも期待できそうな読後感だったし、制約のある設定にどう挑むのかという作者の手腕にも興味津々なので。ボッシュとの共演が楽しみ。

  • マイクル・コナリーによる新主人公のシリーズ第1作。女性であることとレイトショーと呼ばれる深夜勤務の特徴を活かした良作。結末の意外性も流石。

  • ある夜、女装男性が酷い暴行を受け、昏睡状態に。独自捜査を進めるバラードだが、同夜ナイトクラブでの銃撃事件に駆り出される。ロス市警内部の闇と闘い、身の危険にさらされながら二つの事件の真相に辿り着く。邪悪極まりない男たちに敢然と立ち向かうタフで優しき女性刑事の姿に胸が熱くなる新警察小説。

    新シリーズの立ち上がりは、まずまず。今後の、他のキャラクターとの共演が実に楽しみ。

  • レネイ・バラード。新しいヒーローの誕生です。

    これだけの能力がありながらも、女性である事に起因するある事が理由で、深夜勤務のシフトに入れられてしまっている。でも、自分自身の実力で、事件を解決に導くのは素晴らしいです。

    受け売りですが、女性が男性社会で認められるには、男性の何十倍も努力して、何十倍も大きい成果を上げる必要があると聞いたことがあります。レネイは、その何十倍もの努力で、何十倍もの成果を上げたと言って良いと思います。

    女性の年齢と容姿を言うのは野暮で、今の世ではセクハラですが、架空の人物なので許してください。レネイは、警官になる前に一度社会人経験をしていて、且つ、警官になってから15年ほど経過していると言う事はアラフォーの設定の模様です。それでも、変な意味ではなく色んな男から誘いを受けると言うのは、かなり魅力的な女性の様ですね。これを映像化する時は、誰がその役を演じるのか気になります。

  • マイクル・コナリーの新シリーズ。
    世界観はボッシュそのものだが、深夜帯勤務の女性刑事というところが新しいか。

    レイトショー(夜勤)の刑事だからこそストーリーが輻輳し、二転三転してラストを迎える。面白いのだが、どうしてもバラードのキャラがボッシュに被ってしまい、今ひとつ感情移入ができなかった。
    また、コナリーの作品はすべて読んできて以前には感じなかったことだが、文章の理解に引っかかることが多かった。
    年齢とともに自分の読書スピード、理解力が落ちている証なのか、それとも翻訳されている文章の問題なのか。

  •  楽しみにしていたコナリーのニュー・ヒロイン、レネイ・バラード初登場作品。コナリーのメイン・シリーズを背負う我らがヒーロー、ハリー・ボッシュがかつて在籍したハリウッド署、しかもそのナイトシフトの刑事たち(タイトルの通りレイトショーと呼ばれている)を舞台に展開する独特の警察小説ワールド。

     コナリー作品の特色を余さず継続している。バラードの勤務先として描かれる警察署内の凌ぎ合い・暗闘・友情など従来のコナリーの描写にプラスして女性ヒロインならではのセクハラという材料などもじっくりと取り入れている。

     さらにヒロインであるバラードを、彼女自身につかず離れずの視点で密着して描いている。新刑事ヒロインの公私の生活。人となり。これまでの人生。関わる人々の個性。素晴らしく濃密に描かれている。

     ハワイはマウイ島出身。父をサーフィンの事故で失い、母とは幼児の頃から音信不通。西海岸の祖母に引き取られ、彷徨の末に新聞社に入社。様々な事件に魅せられ、ついに警察官となる。そんな生い立ちのバラード・シリーズに初物ならではの興味を否応なく引き立てられる。そしてコナリー・ブランドならではの素晴らしい。

     レイトショー勤務では、殺人事件のみならず、様々な犯罪に立ち会わねばならない。一晩に起こるいくつもの難事件。朝が来るとそれを日勤の担当刑事たちに引き渡さねばならない。夜勤刑事はハリウッド署では二人。交代勤務ではなく、ずっと。

     ボッシュ・シリーズ以上に事件の種類が増えるため複数事件が同時多発的に勃発する。それらのすべての事件や謎に決着をつけねばらないので、読者もけっこう忙しい。モジュラー型ミステリーと言ってもよいかもしれない。

     しかも事件は昼間の捜査課に持っていかれる。でもバラードは捜査を続けたい、事件を自分のものとして追い続ける。当然ながら警察内での軋轢。疎外。夜勤の相棒は家庭内事情にてあまりやる気はなし。ゆえにソロでの捜査が続く。

     女性独自の危険が描かれる。女性ならではの私生活も。パドルボードの趣味。海辺でのテント生活。そこそこの愛人。そして何よりも事件の中でこだわる人間と人間の問題。基本的にはボッシュと同じ世界でありながら、あまりの変数の多さに驚かされるまずまずのシリーズスタート。

     コナリーの小説世界には、やはり外れはない。優れた完成度の高さにレネイ・バラードという女刑事のシリーズスタートと、この魅力的なヒロイン像を創り出してくれた大好きなこの作家に改めて喝采を送りたい。

  • 新シリーズ。深夜勤務(レイトショー)の女性刑事バラード。これまでの男性主人公のシリーズとは違い女性の視点として進むのが新鮮であるということと、危険な捜査に立ち向かう、踏み込んでいくという姿、粘り強く捜査する姿がとても魅力的。警察内でのバラードの立ち位置、上司との対立や仲間への思い。一作目でまだまだ見えてこない部分があってこの先が非常に楽しみ。ボッシュやハラーたちと合流した時にどういう関係性になっていくのかも期待したい。

  • 簡単にいえば、ニューヒロイン登場!って感じ。
    筋立ても良かったし、楽しみなシリーズ増えた。

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著者プロフィール

Michael Connelly:1956年生まれ。LAタイムズ元記者。代表作としてはボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズがあり、当代随一のストーリーテラー。

「2023年 『正義の弧(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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